月の至高体験

エウラ

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本編

7 サクヤの秘密

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室内に入ると、机の奥、窓際に置かれたベッドに、窓を背に赤子の様に体を丸めて、足を両腕で抱え込むようにして寝ているサクヤがいた。

寝衣は浴衣という、着物に似た形で薄い布地で出来たものを着ていた。
下穿き一枚の上に、ガウンのようにゆったりと着ていた。

「寝てるうちにはだける事が多い」
何て言ってるが、いいのか?!
無防備過ぎるだろう!

これも独りで生活している弊害か。
侍従に着替えを手伝って貰うのは恥ずかしがっていたのに。

「ん・・・」
不意に身じろいだ。
夢でも見ているのか?
そっとベッドに腰掛けて顔にかかった髪を退かす。

「・・・だ・・・」
寝言?
「・・・どうせ・・・も、じき・・・死ぬ・・・ら」
「え?」
死ぬ? 誰が?
「俺、は・・・病気・・・・・・長くな・・・から・・・どうせ・・・誰、も・・・・・・」

愛してくれない。ひとりぼっち。
生まれてからずっと病室で。
大人に成れずに死ぬ。
弟は健康で。
両親から愛されて。

「もう・・・疲れた、このまま・・・死、だら・・・つぎ、は・・・」

誰か、俺を愛して。
俺も愛したい。

「す、おう、そばに、いて・・・・・・」

俺のシャツの裾を小さく掴んで。

ーーーなんだコレ。

・・・アレか、転生ってヤツ?
稀にいる、前世の記憶を持つ者。
サクヤが・・・・・・?

でも、そう思ったら色々と合点がいった。
らしくない言葉遣い。聞いたことのない言葉。
前世と似た境遇・・・。今世は健康らしいが。

どうりで諦観している訳だ。最初から諦めてたんだから。

この歳でこんな状況、普通ならやさぐれて僻んで人間不信になっててもおかしくない。いや、人間不信にはなっているか。

寝言の話を纏めると、生まれつき病弱で病院から出ることもなく、親は金だけ出して放置し弟を可愛がると。
それで、おそらく今ぐらいの歳で亡くなった。

・・・誰にも看取られなかったんだろうな。

「これも父さんに要報告だな。各務、聞いてたな? 大至急、兄さんにも頼むよ」
「は」
そう言って気配を消した各務から意識を戻し、サクヤの頭を撫でる。

「まだ出会って一日だ。焦らないから、いつかその記憶秘密を俺に話して、サクヤ」

要らないって言ってももう離してやれないから。

「俺を愛して」

俺はもう決めたから。
死んでもサクヤを愛し続けると。



チュンチュン、鳥のさえずりが聞こえる。分厚くて重いカーテンから朝日が僅かに差し込む。

ああ。朝か。
なんか夢を見てた気がする・・・。

まあいいや、起きなくちゃ。
・・・・・・なんかお腹の辺りが重い・・・?

起きようとして失敗した。
寝ぼけ眼で周りを見渡すと、ん?
僕の横、扉側に背を向けたスオウの寝顔が。・・・・・・寝顔?!

「ななな、なん、え?!」
何でぇ?!
「すすすすおうっ?! おっ、起きてぇ!!」
あまりの驚きに大声をあげた。
たぶん無表情で顔は真っ赤。

「んー・・・?」
あ、起きてくれた?
アレ? 両腕でぎゅっとされた。???
「・・・スオウ?」
「・・・ん、おはよう」
「おはよう。じゃなくて、どうして僕のベッドで寝てるの」
「・・・覚えてないの? 様子を見に来たら服を掴んで離さなかったから?」
スオウは抱きついたまま僕の首筋に顔を埋めてモゴモゴ喋る。擽ったい。

ん、え?
そういえば、左手、スオウのシャツをぎゅうっと握ってる!

「うわ、ごめん」
気が付かなかった。
慌てて離して起き上がる。

「・・・とりあえずシャワー浴びて着替えようか。目に毒だ・・・」
目を覆って深い溜息を吐いたスオウ。ムクッと起きて部屋を出て行った。最後はよく聞こえなかったけど、去った後に姿見で自分の着崩れた浴衣を見てカーーーっとなった。

ごめん、スオウ。
朝からヘンなものを見せて・・・。

どんよりしながらシャワーを浴びて制服に着替えた。


その頃、スオウは・・・。

「まじヤベえ。俺、よく理性保ったな・・・」
すべすべもっちりの肌があんな無防備に目の前にあって。
いい匂いがした。
あんな脱がせやすい寝衣って・・・・・・いい!

ちょっと変態チックな思考に各務が呆れていた。


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