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477 古の森スローライフ 1
しおりを挟むカガシが捕獲される少し前、フェンリルのヴァンが件の草を見付けてきた日から数日後の古の森。
俺は精霊王の了承のもと、現在拠点にしているテントの近くに薬草畑を作っていた。
「とりあえずこんなモンかな」
エレフに頼んで事前に周辺の木々や草花などを移動して貰い、拓けた地面を魔法を使って掘り起こし、更に大きな岩や小石などを取り除いた。
そこに腐葉土──森の中にある落ち葉で出来た天然の肥料を混ぜ込み、畝を作る。
その畝にヴァンが採ってきたあの草を何株か植え付けて、ついでに俺がアインの街を出るときに家の裏の薬草畑から回収していた薬草類も植え替えておく。
「これで様子を見て。上手く育つといいんだけど」
「まあ確かに、研究するにしても数がいるもんな」
「うん。あちこち探し回るよりはいいと思う」
アークとそんな会話をしながらテントの方に戻ると、ウッドデッキのカウチソファから身を乗り出すように凝視しているメーレとガッツリ目があった。
心なしか瞳がキラキラしている気がする。
「・・・・・・あの?」
ミオやエレンが転げ落ちないように支えている側でうずうずしているように見えるんだけど。
どうしたんだろう?
「ノア、わ、私もソレやりたい!」
「───ソレ?」
「畑! 薬草!」
「「え!?」」
思わずアークと叫んでしまった俺。だって、いいところのご令息で現王妃のメーレが土いじり!?
「あのねのね、私ね、婚姻前というか王妃教育をするまでは薬師になりたいくらい薬草オタクで自分の畑を持っててね!」
「・・・・・・は、あ」
「婚約後はさすがに無理だって諦めててね、でも今ならやり放題って気付いたの!」
「・・・・・・気付いちゃったんだ?」
メーレに詳しく聞いたところ、本気で薬師になるべく勉強をしていたそうで、本当は王妃になんかなりたくなかったらしい。うん、その気持ち分かるよ。薬草好きならソレを仕事にしたいよね。
「でも王族からの婚約ってよほどのことがなければ断れないでしょう? さすがに『薬師になるから嫌』って理由じゃねえ・・・・・・」
「それはそうだけど。王様はメーレが薬草オタクって知ってたの?」
「知らないんじゃないかしら。普通の貴族階級の人は土いじりなんてしないもの」
そう言ってメーレは笑った。たぶんメーレも王様の前では猫を被ってたんだろう。
「薬草よりも好きだったから彼のために自分の夢を諦めたんだけど。でもノアが畑を作ってるのを見て、今ここならやれるんじゃないかって思って」
療養中で時間はたっぷりあるし、俺という薬師マイスターもいるし。何より気分転換になるだろうしってことかな。
「まあ、メーレがいいならやる? その前にもう少し体力つけないとだけど」
「いいの!? やった! たくさん食べて早く動けるようになるね!」
思わずというように両手をグッと握るメーレに苦笑した俺達。エレンとミオも苦笑しながらも生き生きとしだしたメーレに心なしかホッとしたようだった。
確かにゆっくりは出来るけど、今まで馬車馬のように働いていたメーレからしたらちょっと落ち着かないのだろう。
リハビリがてら、好きなことをしてストレス解消して貰おうかとアークと笑ったのだった。
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