迷い子の月下美人

エウラ

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442 ギギルル兄弟とウロボロス

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ソレは不意に来た。


ノア達が竜王国に帰って暫く経った頃。

ノアの置いていったクルール達や魔導具のおかげで実家の農場の作業もだいぶ楽になって、ギギルル兄弟は時折『箱庭の迷宮』に潜ったり依頼を受けたりしてのんびり過ごしていた。

そんな時、たまたま魔人国の冒険者ギルドで雑談をしていたギギ達にラミエルから声がかかった。

「ギギルル兄弟、ギルマスが呼んでます。今、良いですか?」
「ん? ああ。暇だから良いぜ」
「珍しいね。どうしたの?」
「まあ、執務室に入ってから詳しく」

そう言われてついていくと、誰かと通信していたらしいギルマスのカフカがこちらに声をかけた。

「ああすみません、急に。ちょうどいらしてると窺ったので。---貴方方、獣人国のアインの街の新ギルマスと知己だと聞いたのですが」

困ったように眉を下げるカフカに珍しいと思いつつ応えるギギ。

「・・・ああ、ウロボロス? 親父のかつてのPT仲間の息子で、俺達もよく知る友人だが・・・ソレがどうかしたか?」

アイツ絡みなのか?
でもアイツは大抵のことは一人でも熟せるが・・・。

「そのウロボロス殿からの通信なんですが、少し厄介な話でして・・・。今、繫がってるんですよ。少し話を聞いて貰えませんか?」
「そりゃ、俺等で出来ることなら・・・。取りあえず聞くだけはな、ルル」
「うん。良いよ、お兄」
「助かります」

そう言って渡された通信魔導具の向こうで久しぶりに聞くウロボロスの声は、何時になく焦っていた。

『---ギギ、すまない。俺ではちょっと手に負えなくてだな・・・。あまり詳しくは言えないんだが、大至急、ノア殿のポーションが必要なんだ。ソレも上級・・・錬金術で錬成したモノを』
「・・・ああ、ノアのヤツな・・・。滅多に卸さない上に卸す場所も少ないし、アークが管理してるからなあ・・・。俺達は手元に幾分か持ってるが・・・理由は? ソレによっちゃあ、譲ってやっても良いが・・・。アンタが理由も無く欲しいと言うことは無いだろう?」

ノアのポーションは少しは冒険者ギルドにも薬師ギルドにも卸すが、大抵は売った側から買い手がついて品切れになる。
しかしアークはノアの過去の不当な搾取を知っているから、必要以上に卸さないようにしていた。

だから例えギルマスであるウロボロスでも入手は難しいのだろう。
---ましてやウロボロスのいる街はかつてノアをハブっていたアインの街だ。
アークはアソコには卸していないかもしれない。

ソレをおそらく分かった上で欲する理由が知りたい。

『---・・・コレは、極秘情報なんだが。獣人国の王妃殿下が病に伏せっていて、唯一効いたのがノア殿が錬成した上級ポーションなんだと。だが、数は無いし、獣人国は間接的にノア殿を苦しめていた国・・・。数が欲しいとは大っぴらに言えず・・・』

おそらくコレも、本当は俺達に聞かせてはいけない情報なのだろう。
だが言わなければ俺達は協力しないと分かっているのだ。

「・・・・・・なるほど。でもソレを国が認めて知ってるなら、ウロボロスだって手に入らないのは仕方ないと割り切れるんじゃ無いのか? 何でソコまで・・・」
『・・・今の王妃は国民を第一に考え、大切にする、国民からも支持の厚い方なんだ。アインの街の粛清の時も彼の方の口添えがあったとも聞いている。そして何より、アインの街の新領主のフィフス王子の母君なんだ。彼はノア殿の事で胸を痛めて、今、懸命に街を立て直しているんだ。そんな時に、母親が病に倒れてしまい、もう、長くは無いかも・・・と。気丈に執務を熟しているが、焦燥しきっていて・・・』

---彼は今はもう、俺の盟友なんだ。
友を助けたい。

そう呟くウロボロスの声に、ギギとルルは頷く。

「---分かった。ひとまず俺達の手持ちで我慢してくれ。後はまたその時に考えよう」
『---っありがとう。感謝する』
「・・・というわけで、ギルマス。向こうに送る手筈を整えてくれるか?」
「承りました。・・・ではウロボロス殿、その様に・・・」
『かたじけない』

そう言って一旦通信を切った。

後には何とも言えない微妙な空気が・・・。

「---まさかノアのポーションをそんな理由で・・・なんてなあ・・・」
「獣人国の王妃殿下の事はラミエルが探っていたので知ってはいたのですが・・・。さすがにこちらから指摘できませんからねえ。助かりました」
「「知ってたんかい!!」」
「ええ。でも他国で秘密にしてることを大っぴらに口に出来ないでしょう?」
「そうだけど・・・さすがはラミエルって言えば良いのか・・・怖えよ」
「俺等の事は調べてねえよな?」
「さあ?」

ギギルル達の言葉ににっこり笑うだけに留めるラミエルがかえって怖かった。


---一方、何とかノアのポーションを手に入れられそうでホッとするウロボロス。

すでに盟友となったフィフス王子を思って胸を痛める。

「・・・・・・何とか良くなって欲しいもんだが・・・」

さすがにノアにどうにかしてくれって頼むほど恥知らずではない。

「フィーも、無理しないでくれ・・・」

ウロボロスの言葉は風に流されて消えていった。




※フィフス王子がツテで手に入れたポーションの裏事情でした。











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