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436 メーレ王妃失踪
しおりを挟む---ココは古の森の中枢部、精霊王エレフセリアの棲まう聖域。
上位から下位の精霊に至るまで、数多の精霊達で埋め尽くされているこの場所に、普段なら絶対に足を踏み入れることが叶わない人物がいた。
メーレ・アニマウス。
猫獣人で獣人国の現王妃その人である。
ほんの数日前、ココに連れて来た時よりは遥かに血色の良くなった顔で、ノアに手ずから流動食を口に流し込まれている。
連れて来た直後は水分を摂ることさえ難しい状態だったが、ノアが以前錬金術で錬成していた解毒効果のある魔導具の腕輪をメーレ王妃の左手首に装着すると、見る間に体内から毒が消えて熱も落ち着き体調が目に見えて回復したのだ。
この魔導具の腕輪は、竜人には毒も効きにくいが万が一に備えてとノアがめちゃくちゃ高濃度の魔力を込めて錬成した特殊なモノだったため、毒が新種だろうと関係なく解毒してしまったようだ。
そしてもう一つ、そのお陰で呪いも見つけてしまっていた。
キレイに解毒したあとにうっすらと身体に纏わり付く黒い靄が残っていて、ノアの鑑定で呪いの類いだと知れた。
強い思念が呪いになって無意識に纏わり付いたモノだ。
ただ、おそらく呪いをかけた本人はメーレ王妃を狙っていたわけではなく、偶然強く表れて毒の投与対象にたまたまかかってしまったモノのようだった。
そのせいかノアが『聖浄化魔法』をかけたらあっと言う間に霧散して消えてしまったが。
「うん。コレで悪夢を見てたようだね。でも軽い呪いで済んで良かった。もう大丈夫」
そう言ってにこっとしながらメーレ王妃の頭を撫でていた。
さすがはノアというところだ。
で、肝心の毒はというと、ソコはヴァンのくすねてきた例のブツが役に立った。
---そう。
ノアはこの間の宣言通り精霊王に頼んで獣人国の王妃の部屋まで転移して貰い、使用人達の阿鼻叫喚の中メーレ王妃を抱えて連れ去り、ついでに王都の冒険者ギルドで寛いでいたヴァンを引っ掴んで古の森に戻ったのであった。
もちろんその場にはアークも同行していた。
---誰もノアを一人で行かせるなんて言ってないが?
そして無口無愛想仕様のノアに変わってアークがヴァルハラ大公家の封蝋付きの手紙(という名の脅し)を置いていったが、気付いているのかどうか・・・。
現場は大混乱だったから。
古の森に戻ったノアはまずメーレ王妃の毒を消し、ソレからヴァン提供の毒の解析をしつつメーレ王妃の介護をしているのだった。
「・・・さすがに、随分と床に伏せっていたせいで体力はほとんど残ってないね。意識もまだはっきりしないし・・・。でもとにかく口に出来るモノがあって良かった」
呼吸も楽になり、穏やかな寝息だ。
今はとにかく栄養を摂り、ひたすら休んで体力の回復が最優先事項だ。
「そうだな。顔色はだいぶ良いんじゃないか? 最初は紙みたいに真っ白だったもんな」
「うん。・・・まあ数日はほとんど水分だね。栄養のある果汁や野菜類の汁を。ソレから徐々に摺り下ろした果物とか・・・固形物はまだまだ無理だね」
「俺に出来ることは何でも言ってくれ。ノアも心配なんだ。・・・この後は少し午睡してくれ、頼むから」
「むー、これくらい全然平気だけど・・・分かった。少し横になるよ。ありがとう、アーク」
「どういたしまして」
アークがノアを抱えてテント内の寝室に横たえるとすんなり入眠したノアを見て、溜息を吐くアーク。
ソレなりに疲れは溜まっているだろう。
一人で介護をしながら薬草の採取と解析だ。
「---誰か、介護要員、一人くらい連れて来ないとなぁ・・・?」
だがそもそも迂闊なヤツはココに連れて来られないし・・・。
「---どーすっかな・・・」
寝入ったノアの頬を撫ぜながらアークは思案するのだった。
※本年も拙作を読んで応援して下さった読者様方、本当にありがとうございます。
来年もどうぞよろしくお願い致します。
良いお年をお迎え下さいませ。
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