迷い子の月下美人

エウラ

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430 ヴァンの口直しと『ノアズアーク隊』 1

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外の騒ぎでどうやらフェンリル様がいらっしゃったと気付いた冒険者ギルド内は、冒険者も職員も、皆、浮き足立った。

少しして対応に出たギルマス達が中に戻ってきたが、サブギルマスの腕に大人しく抱かれて連れられたフェンリル様・・・仔狼のヴァンの姿に、獣人達は心臓を撃ち抜かれた。

---カ ワ イ イ !!

この冒険者ギルドにも当然『ノアズアーク隊』はあり、そして当然のようにギルド職員は全員もれなく入隊していた。

しかし当の本人達は未だこの王都の冒険者ギルドに足を運んだ事はなく、他のギルド支部から入ってくる情報のみで泣く泣く活動していたのだ。

初期の『ノアとアークを見守り隊』発足のあとにノア様が獣人国この国で受けていた仕打ちを遅ればせながらに知り、それならばわざわざこちらに来ることもないだろうと納得しつつも何時か来たときに胸を張って迎えられるようにと、日々、色々と情報をかき集めては他の支部と送信しあっていたのだ。

その中には幻獣フェンリル様を従魔にしたと言う恐ろしい話もあって・・・。

---ここ獣人国ではフェンリル様は始まりの獅子王と肩を並べる、いえ、それ以上に敬われる存在として語り継がれているのだ。

そんなフェンリル様を従魔?!

ソレを聞いたときの職員達の阿鼻叫喚。
冒険者達が誰もいないときで良かったと思うくらい。

---そんなフェンリル様が、酒場兼食堂の椅子にちょこんと座り、テーブルに並ぶ数々の料理をガツガツと食べているのです。

え?
あの料理って全部ノア様の手料理?!
マジックバッグに大量に入ってる?!
いやそもそもフェンリル様って普通に御食事なさるんですね・・・。

なんて現実逃避っぽく斜めに思考が滑りました。

私、ギルド職員C(山猫)と申します。
ええ、モブなのでCで結構ですよ。
何でAとかBじゃないのかって?
そりゃあすでにいるからですよ。

「A(猫)先輩、モノホンのフェンリル様ですよー!!」
「わーってるよ! すっげーちんまいけど、元はでけぇんだよな・・・」
「ちょっとB(小熊)先輩、涎、涎っ!!」
「・・・あー、うん。美味そう・・・」

凄く小さな声で喋っていますが、もしかすると聞こえてるんじゃないですかね?
でも食べるのに夢中なのか、気にしないのか。

時折、耳がピクピク動いててめっちゃカワイイんですけど!!

そして一通り食べて満足したのか、お皿を全部浄化してから収納してます。
キチンとしててエラいですねえ・・・。

---じゃなくて!!

「大体、どうしてフェンリル様だけ獣人国こちらにいらしたんだって話っ!!」

モブCが本題に戻す。
それにモブAとモブBがハッとした。

「---ああ、うん。そうだった」
「えー? アレじゃないのぉ? ウチの国の王妃様問題・・・」

涎を拭きながらのんびりした口調で話すモブBに苦い顔のモブA。

「・・・・・・まあ、十中八九そうだろうな。いやまさか、王城のヤツらが冒険者ギルドになんて来る日は来ねえと思ってたのによ・・・。おい、お前ら。何笑ってやがる」

モブAが真剣な顔で話す側で笑いを堪えているモブBとC。

「ぷぷっ、いやごめん。思い出し笑い。だってさあ、あんなに必死にノア様のポーションを得ようとしてギルマス達に突っかかるのもどうかと思ってさあ」
「・・・アレねえ。気持ちは分かるけど、さすがに出し渋りだ何だといちゃもんつけられたらねえ・・・」
「普段温厚なギルマスだってキレようモノさ。あれは酷い言いがかりだった・・・」

ソレを思い出して3人ともあからさまにイヤそうな顔をした。

『冒険者ギルドがノア殿と如何に懇意にしているのか分かっておるのだぞ!! 故にそのポーションだって上手く交渉すれば一本でも多く手に入れられるだろう!!』
『・・・そんなわけ無いでしょう。数ある冒険者ギルドの中でもウチのギルドはねえ、使者殿。ノア殿を不当に扱い搾取し続けた国の中央のギルドなんですよ? 誰が好き好んで寄り付くと思ってるんです?』
『ノア殿のポーションなんて、ウチのギルドには巡りめぐって漸く月に数本くらいしか入荷しない貴重品なんでね。分かったらとっととお帰り下さい。お帰りはあちら!!』

ギルマスとサブギルマスがそう言って職員やら冒険者やらがたたき出してくれて、事なきを得たのだが。

『どの面下げてしに来てるのか。恥を知れ!!』

その場に居合わせた全員の総意だった。

「実際、ノア様のポーションは貴重だし」
「あの王妃様のためにって気持ちは分かるけどねえ・・・」
「獅子王様ももう少し頭を使わないと・・・」
「不敬だって」
「でも人選悪すぎ。もっと穏やかで話の分かる人にしなよって、ねえ?」
「それは言えてる」
「「「ねー!」」」

そんなモブ職員達の会話は実はヴァンに筒抜けだったのだった。
























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