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428 ヴァンも頑張る 2
しおりを挟む『---グウッ・・・何故だ?! くっさ!! ごんなに臭いのに誰も気付かない?!』
息を潜めながらソロッと王妃の元に向かうと臭いは更に強くなった。
---コレは毎日少しずつ摂取しているな・・・未だに。
チラリとサイドテーブルを見ると、身体から臭う毒とは違う微量の毒が水分補給の水差しからも臭っている。
こちらは万が一他の者が口をつけてもほとんど効果は無いだろうが、弱っている王妃の身体には負担が大きかろう。
もしかしたら薬の飲み合わせなども考えて仕込んでいるのかもしれない。
ヴァンはその嗅覚と、最近のノアの調薬や錬成を見ているので精霊王達と違って薬草などにはそこそこに詳しい。
---以前、食えるかどうか分からん薬草を適当に採って来てノアに怒られつつ知識を仕込まれた賜物である。
『---ちょうど良い。証拠にもなるし、頂いていくか』
ヴァンは水差しごと、以前ノアに貰った腕輪型のマジックバッグに収納する。
『さすがに何の毒かはノアで無いと分からんが・・・しかしコレは明らかに害意のある行為だ。・・・ただ王妃に私怨があるというよりは王か国全体にか、ソレとも別の理由で毒を盛られた、いわば王妃は被害者かの』
ココに来る間に聞いた話では、現正妃のメーレはかなり市井の受けが良く、王城内でも悪い噂はほとんど聞かなかった。
『王を立てる心優しい王妃。・・・そう口々にいっておったな』
何処となく、儚くなったノアの母親・・・アリテシアに似た雰囲気を持つ王妃だとヴァンは思った。
『さて、出来れば身体に入った毒の元を手に入れたいが・・・。薬師が調合しているのか? ソレとも第三者が途中で混入させているのか?』
もし故意に薬師が調合しているとなれば、ノアは怒り狂いそうだな。
自分の薬が人の役に立つことが至上の喜び、みたいなところがあるノアにしたら、苦しめるとは何事か---ってキレそうだ。
『---こわっ』
その様子を想像したヴァンは思わず身震いをした。
---結果として毒入りの薬は手に入った。
幸い液体状の飲み薬で、ヴァンが魔法でその薬と同じ瓶を氷で素早く作り、すり替えたのだ。
何も気付かない使用人が王妃の口にただの水(ヴァンの作り出した瓶にヴァンの生み出した水)を飲ませてポケットにしまう。
その後、瓶は少しして霧散して消えてしまうのだが、慌ただしく動く使用人達は無くなったことに気がつかない。
ちなみに最初の水差しも「アレ? 誰か新しいのに入れ替えた?」と気にしていなかった。
いや、ザル過ぎるだろう。
王妃の警備も大丈夫なのかと心配になるヴァンだった。
今も使用人達の会話を聞くと・・・。
「アレ? 薬の瓶、無くした?」
「えー? ポケットに入れたはず・・・?」
「無いの? まあ良いか、忙しいし、一瓶くらい無くしても文句は言われないよね?」
「大丈夫だろ?」
そんな会話で済ませてしまっていた。
まあ良いかと、ヴァンはほくそ笑んで王妃の間をあとにした。
『コレ、持って帰ったらノアに褒めて貰えるかな?』
ワッフワッフとルンルン気分で王城から出て街中を散歩するヴァン。
いやこっそり内緒で来たのに、ソレだと褒めて貰えるかもしれないが同時に獣人国に来たのがバレるよね?
そんなツッコミをしてくれる仲間は、生憎と今はココにいなかったのであった。
そしてご機嫌なヴァンは、認識阻害魔法をしていたにも関わらず勇敢に声をかけて来た獣人に思わず応えてしまったのだ。
「あの・・・もしかして、そこに、フェンリル様・・・いらっしゃいます?」
『んあ? 誰だお前?』
「---っやはり、フェンリル様・・・!!」
『あ、しまった』
認識阻害魔法も完璧ではなく、一度認識されてしまえば解けてしまう。
うっかり声を出してバレてしまったヴァンの認識阻害魔法は解除され、その勇猛果敢な猛々しい姿---ではなく、ちんまりコロッとした仔狼姿を衆目の目に晒してしまうのであった。
当然、周りはほとんどが獣人。
伝説級の幻獣フェンリルが目の前に現れてきゃーぎゃー騒がれる羽目になった。
仔狼姿であっても、気配や威厳はさすが幻獣といったところか、誰も偽物とは疑わない。
しかしさすがに揉みくちゃにはされなかったが、ヴァンは迂闊な自分を嘆いた。
仕方なく元のサイズのフェンリルに戻ると更にどよめく周囲に溜息を吐きつつ、最初に声をかけて来た犬獣人の男に声をかけた。
『おいお前、冒険者であろう? 我をギルドまで案内せい』
「---っは、はい! 畏まりました!!」
『・・・普通に話して良いぞ?』
緊張で硬くなった青年に、ヴァンが困ったようにそう言うが聞こえていなさそうだった。
こうしてヴァンは意図せず、獣人国王都の冒険者ギルドに向かうことになるのであった
※もう少しヴァンのターン。
ココの冒険者ギルドの『ノアズアーク隊』もそのうち・・・。
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