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415 獣人国の裏事情 3
しおりを挟むそれから暫くの後、宮廷医師と薬師長がメーレ王妃の容態がひとまず安定した事にホッとした頃、陛下への謁見の許可が下りたと伝えられた。
いそいそと謁見の間に向かう二人の表情は対称的だった。
宮廷医師は安堵の表情を浮かべていたが、薬師長は浮かない顔だった。
お互い何も口に出さないまま、謁見の間に到着すると表情を引き締める。
陛下の御前で膝をつき頭を垂れる。
「「黄金の獅子王陛下に御挨拶申し上げます」」
「ああ良い。堅い挨拶は抜きで。今は王妃の容態を聞きたい。早速報告せよ」
そわそわしているのか、レナード王は若干前のめりでそう言って来た。
宰相をチラリと窺うと頷かれたので、先に宮廷医師が話し始める。
「ではまず私から。結論から申し上げますと、先のポーションの効果で王妃殿下の容態はかなり回復されました」
「---っまことか?!」
「はい。しかしながら完治とはいきませんでした。今は落ち着いておりますが、おそらく効果が切れるとぶり返すものと思われます。・・・それもまだどれくらい保つのかも分かりません」
宮廷医師が先に話しをするとレナード王は希望が見えたと言うように大喜びで叫んだ。
だが続く言葉に再び肩を落とす。
「---そうか・・・。だが今は良くなっていると言うことだな? ひとまず良かった。では、そのポーションをなるべく確保しなくてはな」
「---陛下、その件なのですが・・・」
「うん? どうした、宰相」
側で控えていた宰相がやや言い辛そうに口を挟んだ。
「此度のポーションはフィフス王子殿下がとあるツテで手に入れたモノでして、数に限りが有る上に、入手が難しいと・・・」
「・・・・・・どういう事だ?」
怪訝そうなレナード王に黙って聞いていた薬師長が手を挙げて発言の許可を求める。
「恐れながら陛下、それは私がご説明申し上げても・・・?」
「薬師長が? 良い、許す」
「ありがとうございます。・・・その前に、陛下はこのポーション、どのよう者がどのようなやり方で製作したモノかをご存知でございましょうか?」
「うん? フィフスの鑑定書によると『錬金術』で錬成されたポーションで『ノア』という製作者の名があったと記憶しているが・・・? そうだな、宰相」
「はい。その通りでございます」
宰相も頷く。
薬師長はそれを確認してから続けた。
「・・・・・・フィフス王子殿下が現在着任しておられます街についてのご報告などは・・・?」
「---何が言いたいのだ? 王家主体で粛清したアインの街であろう? 順調に改革出来ておるそうだが。何だ? それとそのポーションとは関係ないであろうが?」
若干イラッとしたレナード王は声を荒げた。
しかし宰相はココで気付いたようだ。
「お待ち下さい、陛下。『アインの街』『ノア』、コレは・・・薬師長、もしや・・・」
「ええ、数ヶ月前に粛清された『アインの街』に住んでいた『ノア』という薬師。隣街の薬師ギルドで登録して『薬師マイスター』のタグを持つ人物です。・・・そして竜王国のヴァルハラ大公家のアルカンシエル殿の番いとなった方・・・。そして今回のポーションを類い稀な才能で錬成した錬金術師・・・」
ここまで話したところでさすがにレナード王も気付いた。
「---っ!! まさか・・・。いや、そういえば王都の錬金術師ギルドはポンコツだったな・・・。ではその彼はそもそも未登録の錬金術師ということか・・・。というか、え? それじゃあ、そもそもそのポーションって一般的に流通して無いのか?」
「・・・・・・以前、その隣街・・・エイダンの薬師ギルドから聞いたことがあります。ノア殿は純粋で騙されやすいため、番いのアルカンシエル殿に流通を任せてあると・・・。さすれば、流通自体の数は少ないと思われます。今回はフィフス王子殿下がツテで手に入れたとのこと。彼の方に窺いませんと、その辺りは何とも申し上げられません」
薬師長は難しい顔でそう言った。
宰相も粛清時の報告を思い出したのだろう。
渋い表情をしていた。
「---実際、アインの街では長く騙され、搾取され、住民から蔑まれていた方ですから・・・。今回、フィフス王子殿下が彼のポーションを手に入れられたのは奇跡かと・・・」
この宰相の言葉に、レナード王も宮廷医師も愕然としたのだった・・・。
「かくなる上は、フィフス王子殿下に連絡をして確認ののち、玉砕覚悟で使者を送って直談判・・・・・・ですね」
「・・・・・・ポーションを送って貰うわけにはいかないだろうか」
「それでは現状維持のままです。・・・王妃殿下の症状を直に確認して頂いてから薬を錬成して貰うのが確実かと・・・」
---だがしかし、数ヶ月前までこの獣人国で不遇だった彼が、その国の為に動いてくれるだろうか?
しかも今、彼は竜王国の準王族の地位にある。
こちらが今までしていたことを棚にあげて、どの面下げてお願いをするというのか・・・・・・。
---せっかく見えた一筋の光明が地獄への道に思えてきた獅子王達であった。
その後、薬師ギルドにて登録されているノアの情報を洗い出し、フィフス王子に確認を取り、竜王国に先触れを出し使者を立てて結果を待つことになったのだが、それが更なる面倒事を起こすとは、この時の獅子王達は全く予想だにしていなかったのだった・・・・・・。
---そして竜王国でのあの暴行事件に戻るのである。
※次話からはおおよそノア達目線に戻ると思います。
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