迷い子の月下美人

エウラ

文字の大きさ
上 下
418 / 538

411 貴族牢にて(side獣人国の使者・スーラ侯爵とエレン)

しおりを挟む

ココは竜王国王城の敷地内にある貴族牢の塔。
そこに入っているのは猫獣人の貴族の子息。

歳は成人を迎えたばかりらしい。
そう。
こちらに滞在中の数日前に成人を迎えたと聞いた。

その子息を前に項垂れる中年の猫獣人・・・。
彼・エレンの父親で、獣人国からの使者として竜王国に滞在を許されているカッチェ・スーラ侯爵その人である。

「お前は・・・なんて事をしてくれたんだ・・・」

そう言って肩を落とす。
エレンが見ている何時もの威厳が無く、萎れた花のようであった。

「・・・・・・僕は悪くない」

そっぽを向いてぽそっと呟くエレンにガバッと顔を上げたスーラ侯爵の目は血走っていた。

「何が『悪くない』だ!! 私は散々忠告したぞ! 竜王国では大人しくしていろと! 竜人の番い至上主義は貴族でなくとも有名な話なんだぞ! ソレをところ構わず追いかけ回して大騒ぎし、よりによってヴァルハラ大公家に徒なすなどっ!!」
「ひっ?!」

初めて見る父親のそんな剣幕に尻尾を丸めて震えるエレン。
見た目だけなら可愛いモノだが・・・。

「だっ、だって! あんなに素敵な人が婚約者もいないって聞いたら、ぼ、僕だって良いじゃんって! 父上が何時も可愛いって言ってるじゃん! そんな僕を、絶対、気に入って貰えると思って・・・!! ソレに僕たちが婚約すれば父上の用事だってもっと上手くいくでしょ?! だからっ」
「---この愚か者!! 聞こえていなかったのか?! さっきも言ったろうが!! なんだと!! つまり、運命の番い意外には気持ちが向かないんだよ! 幾らアプローチしても嫌がられるだけなのだ!」
「・・・・・・うそ、でしょ?」

そんなの、聞いてない。
・・・いや、家庭教師が言ってたかも知れないが、僕は覚えてない。

「彼の方がつい最近、運命の番いを得たと聞いた。・・・そのお披露目の為に陛下に招喚され今日謁見に来たそうだ。そこにお前は乱入していって無礼千万、挙げ句にアルカンシエル殿の番いのノア殿を殴って怪我をさせたなど・・・・・・っ! 相手は準王族だぞ! しかも、私が今回、竜王国に使者として来た理由の御方だ!!」
「---は? あの人はただの大公家の嫁でしょ? 獣人国とは関係ないじゃん? 何でそうなるの?」

エレンはキョトンとした。
確かに準王族なら不敬だったが、獣人国の要件とは関係ないだろう。
そう思ったのだが・・・。

「・・・ノア・D・ヴァルハラ殿は、私が獣人国からわざわざ招喚のお伺いを立てに来た薬師マイスターの称号を持つ方だ。今現在、王妃殿下がお命を保っておられるのは、彼の方のポーションのおかげなのだ! 何度も竜王陛下に打診して、やっと、もうすぐお目通り願えそうだったのに・・・・・・お前がやらかしたせいで、御破算になりそうなのだ!!」
「・・・・・・そんな・・・・・・」

そう説明されて真っ青な顔で呆然と立ち尽くすエレンと膝から崩れ落ちるカッチェ。

互いにもう、言葉は無かった。

エレンは漸く、自分のせいで自分の国の王達がピンチだと悟った。

あの心優しい王妃様が、自分のせいでもっと苦しむかもしれない・・・もしかしたら亡くなってしまうかも・・・と。
そして使者としてココにいる父親の命ももしかしたら、自分のせいで風前の灯火なのかもしれないと・・・・・・。

自分自身も危ういのだと、漸く気付くのだった。




※ちょっと短いですが、使者の侯爵と次男のエレンの様子でした。

しおりを挟む
感想 1,191

あなたにおすすめの小説

冷遇された第七皇子はいずれぎゃふんと言わせたい! 赤ちゃんの頃から努力していたらいつの間にか世界最強の魔法使いになっていました

taki210
ファンタジー
旧題:娼婦の子供と冷遇された第七皇子、赤ちゃんの頃から努力していたらいつの間にか世界最強の魔法使いになっていた件 『穢らわしい娼婦の子供』 『ロクに魔法も使えない出来損ない』 『皇帝になれない無能皇子』 皇帝ガレスと娼婦ソーニャの間に生まれた第七皇子ルクスは、魔力が少ないからという理由で無能皇子と呼ばれ冷遇されていた。 だが実はルクスの中身は転生者であり、自分と母親の身を守るために、ルクスは魔法を極めることに。 毎日人知れず死に物狂いの努力を続けた結果、ルクスの体内魔力量は拡張されていき、魔法の威力もどんどん向上していき…… 『なんだあの威力の魔法は…?』 『モンスターの群れをたった一人で壊滅させただと…?』 『どうやってあの年齢であの強さを手に入れたんだ…?』 『あいつを無能皇子と呼んだ奴はとんだ大間抜けだ…』 そして気がつけば周囲を畏怖させてしまうほどの魔法使いの逸材へと成長していたのだった。

【完結】捨てられた双子のセカンドライフ

mazecco
ファンタジー
【第14回ファンタジー小説大賞 奨励賞受賞作】 王家の血を引きながらも、不吉の象徴とされる双子に生まれてしまったアーサーとモニカ。 父王から疎まれ、幼くして森に捨てられた二人だったが、身体能力が高いアーサーと魔法に適性のあるモニカは、力を合わせて厳しい環境を生き延びる。 やがて成長した二人は森を出て街で生活することを決意。 これはしあわせな第二の人生を送りたいと夢見た双子の物語。 冒険あり商売あり。 さまざまなことに挑戦しながら双子が日常生活?を楽しみます。 (話の流れは基本まったりしてますが、内容がハードな時もあります)

【完結】兄の事を皆が期待していたので僕は離れます

まりぃべる
ファンタジー
一つ年上の兄は、国の為にと言われて意気揚々と村を離れた。お伽話にある、奇跡の聖人だと幼き頃より誰からも言われていた為、それは必然だと。 貧しい村で育った弟は、小さな頃より家の事を兄の分までせねばならず、兄は素晴らしい人物で対して自分は凡人であると思い込まされ、自分は必要ないのだからと弟は村を離れる事にした。 そんな弟が、自分を必要としてくれる人に会い、幸せを掴むお話。 ☆まりぃべるの世界観です。緩い設定で、現実世界とは違う部分も多々ありますがそこをあえて楽しんでいただけると幸いです。 ☆現実世界にも同じような名前、地名、言葉などがありますが、関係ありません。

ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?

音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。 役に立たないから出ていけ? わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます! さようなら! 5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!

公爵家の五男坊はあきらめない

三矢由巳
BL
ローテンエルデ王国のレームブルック公爵の妾腹の五男グスタフは公爵領で領民と交流し、気ままに日々を過ごしていた。 生母と生き別れ、父に放任されて育った彼は誰にも期待なんかしない、将来のことはあきらめていると乳兄弟のエルンストに語っていた。 冬至の祭の夜に暴漢に襲われ二人の運命は急変する。 負傷し意識のないエルンストの枕元でグスタフは叫ぶ。 「俺はおまえなしでは生きていけないんだ」 都では次の王位をめぐる政争が繰り広げられていた。 知らぬ間に巻き込まれていたことを知るグスタフ。 生き延びるため、グスタフはエルンストとともに都へ向かう。 あきらめたら待つのは死のみ。

【完結】実はチートの転生者、無能と言われるのに飽きて実力を解放する

エース皇命
ファンタジー
【HOTランキング1位獲得作品!!】  最強スキル『適応』を与えられた転生者ジャック・ストロングは16歳。  戦士になり、王国に潜む悪を倒すためのユピテル英才学園に入学して3ヶ月がたっていた。  目立たないために実力を隠していたジャックだが、学園長から次のテストで成績がよくないと退学だと脅され、ついに実力を解放していく。  ジャックのライバルとなる個性豊かな生徒たち、実力ある先生たちにも注目!!  彼らのハチャメチャ学園生活から目が離せない!! ※小説家になろう、カクヨム、エブリスタでも投稿中

将軍の宝玉

なか
BL
国内外に怖れられる将軍が、いよいよ結婚するらしい。 強面の不器用将軍と箱入り息子の結婚生活のはじまり。 一部修正再アップになります

新しい道を歩み始めた貴方へ

mahiro
BL
今から14年前、関係を秘密にしていた恋人が俺の存在を忘れた。 そのことにショックを受けたが、彼の家族や友人たちが集まりかけている中で、いつまでもその場に居座り続けるわけにはいかず去ることにした。 その後、恋人は訳あってその地を離れることとなり、俺のことを忘れたまま去って行った。 あれから恋人とは一度も会っておらず、月日が経っていた。 あるとき、いつものように仕事場に向かっているといきなり真上に明るい光が降ってきて……? ※沢山のお気に入り登録ありがとうございます。深く感謝申し上げます。

処理中です...