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399 獣人国からの招かれざる使者
しおりを挟むウラノスからの威圧を初めて浴びたのだろう。
威圧と言ってもほんの一瞬ピンポイントでエレンに当てただけなのだが、蝶よ花よと育てられた温室育ちのお坊ちゃまには途轍もない恐怖だったのだろう。
廊下にへたり込んでガクガク震え、声も出ないようだった。
「この件は竜王陛下に奏上致しますので、与えられた貴賓室にて待機をお願い致します。追って沙汰が御座います故。では。---衛兵、彼等をお連れしろ」
「「「はっ!」」」
いつの間にか周りに待機していた衛兵達にパーシヴァルが指示を出すと、迅速な対応であっと言う間に連れ去っていった。
お付きの侍従だけはスミマセンスミマセンとひたすら頭を下げていった。
---うん、彼は侍従なのに良く頑張ったと思う。
せめて彼にはあまり酷いお咎めが無いと良いなあ。
そんな目でノアが見つめていたので、アークはパーシヴァルに目配せしてやった。
これで少しは彼の処罰が軽くなるだろう。
そして何もなくなったところでアルジェントがレインに囁く。
「立ち止まってしまって済まなかった。可愛いレインを見ようと集まった輩は、父上が排除してくれたからな。さあ、行こうか」
「・・・うん。大丈夫、アルしか見てなかったから・・・平気」
そう言ってイチャつく二人にルドヴィカはニヤニヤ笑う。
「おーおー。お熱くて、参ったね、こりゃ!」
「黙れ」
「馬に蹴られるよ?」
すかさずアークとノアにツッコまれるルドヴィカ。
全く堪えていないようだ。
「何処まで付いてくる気だ?」
「えー? そりゃあ、謁見まで?」
「えー? マジ?」
「邪魔」
アークとノアに散々言われた上に、アルジェントにもツッコまれた。
「酷えっ」
「まあ、役には立ちそうだから居て貰おうか」
「えー? ウラノス様まで、あんまりな扱い」
嘆くフリのルドヴィカにウラノスが助け船を出す・・・と思いきや、結局散々な言われよう。
それでもめげないルドヴィカはやっぱり陽キャだと思う。
「ところでさっきまで気配消してたよな?」
「そりゃあねえ。面白そうだったからさ。でももういいや。さっきみたいなのがまた湧いてきても面倒だし、普通に威圧しておくわ」
「・・・さっきのアレ、お前、何か知ってそうだったな?」
アークがルドヴィカに声をかける。
ルドヴィカは最初から意図して気配を消していたようだ。
相変わらず面白いことになりそうだと思うと嬉々として首を突っ込んでくるな。
しかしさっきの獣人国の貴族の子息を『クソガキ』と言っていたことから、何かワケありかと確認を取る。
気配も隠すのを止めたし、さっきも珍しく怒っていた。
「あー、うん。・・・俺も直接顔を合わせるのはさっきが初めてだったんだけどさ。半月ほど前から王宮に滞在している獣人国の貴族の子供なんだが・・・」
頭をガシガシとかいて言い辛そうなルドヴィカにアークが聞き返す。
「さっきの子供、スーラ侯爵家と名乗っていたな。どうして獣人国から竜王国に来たんだ?」
「ココに来るのだって相当距離があると思うんだけど。そもそも竜王国に来るには翔ばないとだし?」
ノアも疑問に思ってツッコんできた。
それにルドヴィカは、人伝に聞いた話だから詳しくはないが、と前置きして言った。
「そこはどうやら獣人の身体能力を駆使して、体力自慢の種族に運んで貰ったり、翼を持つ獣人に翔んで貰ったりしたらしいよ」
「・・・そこまでしてココに来る理由が有ったって事か? ・・・だがアレは子供だ。どう見ても使者ではないな。ということはアレは親の用事に付いてきたという訳か」
「そうらしい。で、さっきの様子で分かったろうが貴族らしからぬ言動で周りを振り回していて、王宮のヤツもソイツの親も注意してるが、全く言うことを聞かないそうで、皆、手を焼いているんだと」
ハア---ッと溜息を吐くルドヴィカ。
獣人国の使者らしい貴族、か。
何やら嫌な予感がするな、とアーク達も溜息を吐く。
「・・・父上は当然ご存知だったんですよね?」
「---ぁー、うん。すまないね、今日の謁見には関わりが無いと油断していたよ。こんなことなら最初から情報を伝えておくべきだったね。だがまあ、とりあえず謁見が先だから、悪いが後でね」
「・・・分かりました」
「うん。今はレインとアル義兄様優先で!」
ウラノスとレーゲンも苦笑いだった。
二人もアレは予想外だったんだろう。
ともかく、無事に謁見が終わるといいな、と全員が思ったのだった。
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