迷い子の月下美人

エウラ

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323 閑話 自由人・精霊王様が行く 1

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※近況ボードでお知らせしましたが、さっそく四葩よひら様からのリクエストです。
精霊王が闊歩する様をどうぞ。



国賓扱いで接待された精霊王だが、本精霊本人はそういったことに頓着していないため、普通ならば『凄すぎる』などと萎縮するような豪奢な内装や調度品にも無関心で、淹れて貰ったお茶をのんびりと口にしていた。

その様子を、部屋の隅で待機している使用人が失礼のない程度にちらちらと窺っていた。

そんなお茶の時間は、精霊王がカップを置いた事で唐突に終わりを告げた。

《ちょっと散歩をしてくる》

そう言ってふわりと立ち上がり、扉へと向かっていったのだ。

コレに慌てた使用人は、急いで近衛騎士を呼んだ。
声をかけられた近衛騎士も慌てて陛下の側近のリュウギ様に連絡を入れるが、その返事を待たずにすたすたと部屋を出て行く精霊王。

慌てて近衛騎士2名が距離を取って後を着いていった。

「・・・・・・おい、どうすれば良いんだ?」
「・・・知るかよ? ていうか、さっき王宮内に通達があっただろう? 精霊王に関することは全力でスルーしろって。この状況・・・今まさにそれじゃ無いのか?」
「---ああ・・・え、アレって、そう意味だったのか?!」

精霊王を目に入れながら聞こえないようにこそこそと話す近衛騎士達。
実は精霊王には聞こえているが、気にしてないので精霊王自身もスルーしている。

そんな風に、あてもなくウロウロと歩いて行くと、綺麗に手入れされた庭園に出た。

《・・・・・・ほう、コレはなかなか・・・》

感心したように階段を下りて庭園に足を踏み入れる精霊王。

ちょうど良い時間なのか、色とりどりの花が咲き乱れている庭に置かれた椅子とテーブルでお茶会をしている貴族達の様子が見えた。

これには慌てて近衛騎士が近寄り、精霊王の耳にコソッと声をかけた。

「精霊王様、大変申し訳ございません。あちらへ近付くと大騒ぎになることが予想されますので、どうぞこちらへ・・・」
《おお、そうか。さすがに我も騒ぎになるのは好まぬ。ではそちらへ向かおうかの》
「ありがとうございます」

内心冷や汗をかきながら近衛騎士は素早く精霊王の姿を隠すと、迷路のようになっている生垣へと誘導をした。

幸いにも気付かれはしなかったようだ。

生垣はまさしく迷路になっていて、初めて入る者や子供などが良く迷子になっていたりする。

近衛騎士達は全員、警備の都合上、迷路は頭に叩き込み危険な箇所なども把握しているので迷わないのだが・・・。

「精霊王様、迷いが無いな」
「さすが精霊王様というところか。何か特別な事があるのだろうな・・・というか、何か精霊、多くないか?」
「---そういえば・・・。良く目にはしているが、今日はやけに多いな」

近衛騎士達がぽそぽそと話していると、不意に目の前にすらっとした人型の精霊が現れた。

《それはね、精霊王がいるからだよ》
《この辺の精霊達が一気に集まってるからね》
「へえ、そうなんだ・・・・・・って、は?!」
「・・・・・・上位精霊?!」

何気なく聞き流してから、ハッとした。
そこに精霊王が何でもないように話に入ってきた。

《うむ。この子らが案内してくれておるよ》
「そうなんですね? はあ、納得です」
「---びっ・・・くりしたぁ」

その様子にクスリとしながら黙々と歩いて行く精霊王の後を着いていく精霊と近衛騎士。
妙な集団だった。

《・・・ほい、うりゃっ》

途中で精霊王のヘンなかけ声が聞こえて、何だろうと思いつつも邪魔はしない方向でスルーしていると、やがて出口に出た。

《おお、面白かったな!》

満足げに微笑むそのご尊顔は光り輝いていて眩しい。
それに頷く近衛騎士達。

「それは良かったです」
《この後は何処に行こうかな?》
「・・・・・・まだ散策致しますか?」

それを聞いてちょっと口元を引き攣らせた。

《うむ。そうじゃ、其方ら、ここは絶対に入れぬ、というところは?》
「ええ? はあ、宝物庫は申請が必要でまず普通では入れませんね」
「陛下の寝室も無理ですし」

怪訝そうにそう言うと、精霊王は渋面になった。

《・・・・・・誰が好き好んでクリリンを夜這いなどするか、阿呆》
「夜這い・・・・・・?! いえそういう意味では・・・クリリン?」
《クリカラの愛称よ》
「---陛下、何やってんですかね?」
「あの方も何を考えてるのか分からないからな・・・」
《そうだよな、彼奴もちっと変わり者よな》
「「・・・・・・」」

---貴方がソレを言いますか?

二人は辛うじて言葉を呑み込み、微笑んだ。


さて、先ほどのお茶会が頭に残っていたようで、行き先を厨房へと変更して再び王宮に戻った精霊王達。

その後、お茶会をしていた貴族達が巫山戯て生垣の迷路に挑戦し、そこかしこで絶叫が響き渡ることになる。

---実は精霊王のあの奇妙なかけ声・・・。

アレは精霊王が古の森に棲息する魔性植物を品種改良したモノを生垣に召喚していたのだ。

普段はただの植物や花に擬態していて気付かないが、生き物が近付くと口のような花をパカッと開いて噛み付こうとして驚かしたり(実際に噛み付きはしないように改良・躾をしてある)、葉っぱでさわさわ擽ったり、蔓を伸ばして転ばしたり吊り上げたりする。

ようはドッキリ向けの植物なのだ。

そんなものが仕掛けられているとは露知らず、迷路で逢瀬をしていた輩から忍び込んだ不届き者まで辺り構わず驚かすものだから、暫くの間、庭園に近付くモノはいなかった。

但し庭師だけは手入れのために毎日入り、元々植物好きな者達なので早々にその魔性植物と意気投合し、嬉々として手入れをしているらしい。


---ちなみに話を聞いた竜王陛下も突撃していって、散々驚かされながらも大笑いで迷路を突破したそうな・・・。

付き合わされた近衛騎士達はぐったりしていたとのこと。

・・・御愁傷様です。



当の精霊王本人は、厨房でお菓子を貰いながら、アッチヘふらふらコッチへふらふらと行く先々で使用人や貴族達を驚かせていたが、全く人目を気にしていなかった。

そうして滞在中、無自覚に近衛騎士達を振り回して古の森に還っていったそうだ。



・・・その後、ヴァルハラ大公家でも同じような光景が見られたという影からの情報があった。






※次、ヴァルハラ大公家へと続きます(たぶん)。







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