迷い子の月下美人

エウラ

文字の大きさ
上 下
306 / 534

302 閑話 ヴェルザンティの嫁取り作戦 2

しおりを挟む

粛々とお茶会お見合いの場が整えられて、あっと言う間に約束の時間になった。

離宮の入り口でヴェルザンティが待っていると、侍従を連れたエクシア殿下が現れた。

ヴェルザンティは思わず駆け出したくなるのを何とか堪えて、人好きしそうな微笑みで出迎える。

「今日はお招きありがとうございます、グウィン殿」
「こちらこそ、急なお招きにもかかわらずお越し下さってありがとうございます、殿下。どうか私の事はファーストネームのヴェルザンティとお呼び下さい」
「・・・では、私の事もエクシアと」
「---畏まりました、エクシア様。ではこちらへどうぞ」

ほんのり頬を染めてヴェルザンティにエスコートされるエクシア殿下を、セッティングされたテーブルの近くの生垣越しに覗き見る影が・・・四つ。

その内の二つは言わずもがな、ウルズとスクルドなのだが・・・。

『・・・何故貴方方がココにいらっしゃるのですか、王太子殿下、第2王子殿下?』
『そんなの、エクシアが心配だからに決まっているだろう!』

そう、そこには何故か、王太子ドミリオと第2王子ヴァルタスがウルズ達と同様にこっそり隠れていたのだった。

『暇なんですか?』

思わずそう言ったスクルドに吠えるドミリオ。

『そんなわけあるか! 大体お前達も何故ここにいる!』
『え、そりゃあヴェルザンティの暴走を止めるためですけど?』
『そうですね』
『『・・・は?』』

ポカンとするドミリオとヴァルタスに、不敬と思いつつも深い溜息を吐くウルズ。

『いやいや、ヴェルザンティが暴走した時に殿下達で止められるとでも? 竜人ですよ? 無理ですよね。だから我々がいるんです』

やれやれとばかりにそう言うスクルド。

ソレに文句を言う余裕もなく焦ったように言うドミリオとソレを難しい顔で黙って聞いているヴァルタス。

『いやいや、暴走するのか? 私達は父である宰相から何かあればエクシアを護れと言われていて・・・え? そういう意味での護れ?!』
『竜人の番い至上主義、分かってます? アレでもヴェルザンティはかなり自制してますよ。何時キレてもおかしくないくらい堪えてますよ。下手したら軟禁、いや監禁まっしぐらですって』
『---マジか』
『マジです』
『・・・・・・兄上、言葉遣いが悪いですよ』

黙って聞き役に撤していたが言葉が崩れた兄に思わずヴァルタスがツッコむ。

『ああ、スマン、つい』
『素はソッチですか。お父上に似てらっしゃいますね』
『・・・取り繕うのも面倒だから良いか。とにかく、襲われないように見張ってろと言われたのでな』
『ああ、よく分かってますね。さすが宰相殿』

ウルズが納得とばかりに頷く。
外野がそうこうしている内に何やらテーブルで動きがあったようだ。

ガタンと席を立ったヴェルザンティがもの凄い勢いでエクシア殿下の元へ近付き、手をガシッと掴んだかと思ったら次の瞬間、エクシア殿下を思いっきり抱き締めた。

そして何やら顔を近づけておそらく口付けをしようと・・・?!

「---あ、マズい!」
「あっ、おい!!」

こそこそ話していたが、マズい雰囲気になりそうで、慌てて飛び出すウルズとスクルド。

秒でヴェルザンティの頭と横っ腹を殴り付けると思いっきり引き剥がした。
それこそベリッと音が出るほどに。

「スミマセン、王子殿下」
「・・・あ、いえ・・・・・・その・・・・・・大丈夫?」

スクルドが和やかに笑って謝罪すると、戸惑い引きながらも殴られたヴェルザンティを案じたエクシア殿下に手応えを感じたウルズ達。

「大丈夫ですよ。竜人は頑丈ですから」
「・・・・・・も、申し訳ありません。堪えきれずに・・・つい・・・」

ヴェルザンティが謝罪していると、漸く生垣から現れたドミリオ達がやって来た。
何故隠れて覗き見していたかのツッコミは無しで、という視線をエクシアに向ける。

「・・・・・・エクシア、大丈夫か? イヤならもう帰るぞ」
「あ、いえ・・・・・・あの、兄上達も同席して良いなら、もう少し、お話を」
「え!! 是非、お願いします!!」
「・・・・・・必死だな」

エクシアの言葉に被せるように叫ぶヴェルザンティに思わずドミリオがそう言うと、ヴェルザンティが真剣な顔で告げた。

「一生に一度の、たった一人の最愛ですから」

そう言ってニコッと笑ったのだった。

「---ッ」

そんなヴェルザンティに頬を朱に染めてうるうるする様が、どう見ても猫の逃げた魔王陛下にそっくりで・・・・・・。

兄王子達はほっこりして、ウルズ達はやっぱりだなと思ったのだった。






※嫁取り作戦の話では出ないかと思いますが、誰もツッコまずに自分も忘れてた(笑)ので念の為、竜王陛下の護衛騎士5人の内の2人の出番が今まで無かったのですが、今は竜王陛下のお忍びにくっついて行ってます。
後で別視点の閑話で名前とか出ます。忘れててスミマセン。
アレ、護衛騎士5人だったよな?と今思い出して焦りました。晩餐会では3人しかいないし紹介してないって(笑)。
しおりを挟む
感想 1,184

あなたにおすすめの小説

悪役令息に転生して絶望していたら王国至宝のエルフ様にヨシヨシしてもらえるので、頑張って生きたいと思います!

梻メギ
BL
「あ…もう、駄目だ」プツリと糸が切れるように限界を迎え死に至ったブラック企業に勤める主人公は、目覚めると悪役令息になっていた。どのルートを辿っても断罪確定な悪役令息に生まれ変わったことに絶望した主人公は、頑張る意欲そして生きる気力を失い床に伏してしまう。そんな、人生の何もかもに絶望した主人公の元へ王国お抱えのエルフ様がやってきて───!? 【王国至宝のエルフ様×元社畜のお疲れ悪役令息】 ▼この作品と出会ってくださり、ありがとうございます!初投稿になります、どうか温かい目で見守っていただけますと幸いです。 ▼こちらの作品はムーンライトノベルズ様にも投稿しております。 ▼毎日18時投稿予定

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です! 小説家になろうでも10位獲得しました! そして、カクヨムでもランクイン中です! ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。 いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。 欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・ ●●●●●●●●●●●●●●● 小説家になろうで執筆中の作品です。 アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。 現在見直し作業中です。 変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました

氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。 ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。 小説家になろう様にも掲載中です

魔王を倒した手柄を横取りされたけど、俺を処刑するのは無理じゃないかな

七辻ゆゆ
ファンタジー
「では罪人よ。おまえはあくまで自分が勇者であり、魔王を倒したと言うのだな?」 「そうそう」  茶番にも飽きてきた。処刑できるというのなら、ぜひやってみてほしい。  無理だと思うけど。

幽閉王子は最強皇子に包まれる

皇洵璃音
BL
魔法使いであるせいで幼少期に幽閉された第三王子のアレクセイ。それから年数が経過し、ある日祖国は滅ぼされてしまう。毛布に包まっていたら、敵の帝国第二皇子のレイナードにより連行されてしまう。処刑場にて皇帝から二つの選択肢を提示されたのだが、二つ目の内容は「レイナードの花嫁になること」だった。初めて人から求められたこともあり、花嫁になることを承諾する。素直で元気いっぱいなド直球第二皇子×愛されることに慣れていない治癒魔法使いの第三王子の恋愛物語。 表紙担当者:白す(しらす)様に描いて頂きました。

R指定

ヤミイ
BL
ハードです。

BL団地妻-恥じらい新妻、絶頂淫具の罠-

おととななな
BL
タイトル通りです。 楽しんでいただけたら幸いです。

処理中です...