迷い子の月下美人

エウラ

文字の大きさ
上 下
296 / 538

292 違う、そうじゃない

しおりを挟む

晩餐会の翌日だからと、今日の協議会の予定は午後になっている。

「今日はおそらく事実確認で終わるだろう。本格的に打ち合わせるのは明日以降だろうな」

ノアとアークがそんな話をしながら部屋でブランチを摂っていると、不意に部屋の外が騒がしくなった。

床でローストされたミノタウロスの肉を頬張っていたヴァンが面倒くさそうに呟いた。

『クリカラが突撃してきたようだな』
「大祖父様が?」
「朝から・・・いや、もう昼近いが元気だなぁ。何の用だ?」

---せっかくノアと二人でイチャイチャしてたのに・・・。

さすがに他所の王宮でピーーー!な事はしたくないというノアの希望で昨夜は軽い触れあいで我慢したのだ。
ソコにまた邪魔が入った。
それがいくら大祖父様であっても。

アークは若干イラッとした。

「・・・・・・スマンの、ちょっと良いか?」

扉の外で、クリカラがすまなそうに声を潜める。
一瞬漏れたアークの威圧に気付いたのだろう。

「どうぞ」
「・・・良いですよ、入って」

仕方ないと、ノアを膝に乗せたままある程度食べ終わっていた料理をインベントリにしまって貰う。

入ってきたのはクリカラとリュウギの他に、早めに登城したらしいカフカとラミエルもいた。
その後ろにはウラノスもルドヴィカ達護衛騎士も。

レオニード達もすまなそうに苦笑いをしていた。

結局全員がアーク達の部屋に集まった。
もっとも気配で誰が来たのかは分かってはいたのだが。

「ノア」
「ん」

言われてパッと防音結界を張ると、席が足りないのでノアがインベントリから人数分の椅子を出して座って貰った。

護衛騎士は固辞したが、結界で何も出来ないし落ち着かないから、とノアに言われて漸く座った。

そこそこに広い部屋だが、さすがに20人+1頭が集まると狭苦しいので、ヴァンには仔狼サイズになって貰った。

「---で?」

一応この部屋の主であるアークが話を促す。
それにクリカラが応えた。

「いやな、ほれ、今しがたカフカ殿が持ってきてくれたを全員で確認しようかと思ってな?」
「・・・お寛ぎのところ申し訳ありません。後良いと申し上げたのですが・・・陛下が聞かず・・・」

リュウギも止めようとしたのだろうが、如何せん、大祖父様は猪突猛進なところがあるから無理だったのだろう。
おそらく全員で止めながらやって来たのだ。

そうこうしているうちに部屋に着いてしまい、諦めたのだろう。
・・・ご苦労様。

「・・・・・・まあ、もう良いです。で? 現物の確認ですか? ギルマス、それ、今何処に?」

アークが軽く溜息を吐いてカフカに聞く。
カフカはチラッとラミエルを見た。
どうやらラミエルが持っているらしい。

「出して構いませんか?」

ラミエルがノアを窺った。
当事者でイヤな思いをしたので配慮したのだろう。

ノアは分かりにくいが渋い顔をして言った。

「・・・・・・良いけど、一回、威圧しても良い?」

正直、顔も見たくないんだけど。
殺せないからさぁ・・・。

そう呟くノアに『それ死ぬんじゃ・・・』と思っている面々。

「仕方ないから、それで許してやるよ。ね、精霊王?」
《そうだの。それで勘弁してやろうかの》

ノアの不機嫌な声に合わせて誰かの声が聞こえてきて、一同、ギョッとする。
いや、アークとヴァンは気付いていたが。

「ねー?」
《ねー?》
じゃねえよ! 喚ぶ前に本当に来るなよ、精霊王!!」

思わずアークのツッコミが入った。
クリカラ達は急に現れたキンキラキンの絶世の美人にポカンとしている。

「「「「・・・・・・精霊王?」」」」

いや、冗談で『喚ばなくても来そうだ』とは言っていたが、まさかこんなに気軽に来るとは思わない。

「大体、ノアの結界魔法はどうし・・・・・・ああ・・・そういや精霊王に魔法は無効だったっけ」
《我には意味なし!!》
「だからってドヤってんじゃねえよ!」
「また会えて嬉しいよ、精霊王」
《我も愛し子ノアに会えて嬉しいぞ》
「オイコラ無視すんな!」

ハートマークでも付きそうなウキウキな声で話す二人は、当然、血の繋がりなど無いのによく似た性質のようで、何故かソコだけぽやんとした空気を醸し出していた。

「だから、そうじゃない!! 違うだろう?! 何でお前ら、そんなにマイペースなの?! いや可愛いから良いんだけど!!」
「「良いんかい!!」」

思わず声を揃えて叫んだギギルル兄弟。

その声で漸く我に返ったクリカラ達は、しかし何処をどうツッコめば・・・・・・という感じで、暫くノア達のやり取りを見守っていたのだった。








しおりを挟む
感想 1,191

あなたにおすすめの小説

冷遇された第七皇子はいずれぎゃふんと言わせたい! 赤ちゃんの頃から努力していたらいつの間にか世界最強の魔法使いになっていました

taki210
ファンタジー
旧題:娼婦の子供と冷遇された第七皇子、赤ちゃんの頃から努力していたらいつの間にか世界最強の魔法使いになっていた件 『穢らわしい娼婦の子供』 『ロクに魔法も使えない出来損ない』 『皇帝になれない無能皇子』 皇帝ガレスと娼婦ソーニャの間に生まれた第七皇子ルクスは、魔力が少ないからという理由で無能皇子と呼ばれ冷遇されていた。 だが実はルクスの中身は転生者であり、自分と母親の身を守るために、ルクスは魔法を極めることに。 毎日人知れず死に物狂いの努力を続けた結果、ルクスの体内魔力量は拡張されていき、魔法の威力もどんどん向上していき…… 『なんだあの威力の魔法は…?』 『モンスターの群れをたった一人で壊滅させただと…?』 『どうやってあの年齢であの強さを手に入れたんだ…?』 『あいつを無能皇子と呼んだ奴はとんだ大間抜けだ…』 そして気がつけば周囲を畏怖させてしまうほどの魔法使いの逸材へと成長していたのだった。

【完結】捨てられた双子のセカンドライフ

mazecco
ファンタジー
【第14回ファンタジー小説大賞 奨励賞受賞作】 王家の血を引きながらも、不吉の象徴とされる双子に生まれてしまったアーサーとモニカ。 父王から疎まれ、幼くして森に捨てられた二人だったが、身体能力が高いアーサーと魔法に適性のあるモニカは、力を合わせて厳しい環境を生き延びる。 やがて成長した二人は森を出て街で生活することを決意。 これはしあわせな第二の人生を送りたいと夢見た双子の物語。 冒険あり商売あり。 さまざまなことに挑戦しながら双子が日常生活?を楽しみます。 (話の流れは基本まったりしてますが、内容がハードな時もあります)

誰よりも愛してるあなたのために

R(アール)
BL
公爵家の3男であるフィルは体にある痣のせいで生まれたときから家族に疎まれていた…。  ある日突然そんなフィルに騎士副団長ギルとの結婚話が舞い込む。 前に一度だけ会ったことがあり、彼だけが自分に優しくしてくれた。そのためフィルは嬉しく思っていた。 だが、彼との結婚生活初日に言われてしまったのだ。 「君と結婚したのは断れなかったからだ。好きにしていろ。俺には構うな」   それでも彼から愛される日を夢見ていたが、最後には殺害されてしまう。しかし、起きたら時間が巻き戻っていた!  すれ違いBLです。 初めて話を書くので、至らない点もあるとは思いますがよろしくお願いします。 (誤字脱字や話にズレがあってもまあ初心者だからなと温かい目で見ていただけると助かります)

【完結】兄の事を皆が期待していたので僕は離れます

まりぃべる
ファンタジー
一つ年上の兄は、国の為にと言われて意気揚々と村を離れた。お伽話にある、奇跡の聖人だと幼き頃より誰からも言われていた為、それは必然だと。 貧しい村で育った弟は、小さな頃より家の事を兄の分までせねばならず、兄は素晴らしい人物で対して自分は凡人であると思い込まされ、自分は必要ないのだからと弟は村を離れる事にした。 そんな弟が、自分を必要としてくれる人に会い、幸せを掴むお話。 ☆まりぃべるの世界観です。緩い設定で、現実世界とは違う部分も多々ありますがそこをあえて楽しんでいただけると幸いです。 ☆現実世界にも同じような名前、地名、言葉などがありますが、関係ありません。

田舎育ちの天然令息、姉様の嫌がった婚約を押し付けられるも同性との婚約に困惑。その上性別は絶対バレちゃいけないのに、即行でバレた!?

下菊みこと
BL
髪色が呪われた黒であったことから両親から疎まれ、隠居した父方の祖父母のいる田舎で育ったアリスティア・ベレニス・カサンドル。カサンドル侯爵家のご令息として恥ずかしくない教養を祖父母の教えの元身につけた…のだが、農作業の手伝いの方が貴族として過ごすより好き。 そんなアリスティア十八歳に急な婚約が持ち上がった。アリスティアの双子の姉、アナイス・セレスト・カサンドル。アリスティアとは違い金の御髪の彼女は侯爵家で大変かわいがられていた。そんなアナイスに、とある同盟国の公爵家の当主との婚約が持ちかけられたのだが、アナイスは婿を取ってカサンドル家を継ぎたいからと男であるアリスティアに婚約を押し付けてしまう。アリスティアとアナイスは髪色以外は見た目がそっくりで、アリスティアは田舎に引っ込んでいたためいけてしまった。 アリスは自分の性別がバレたらどうなるか、また自分の呪われた黒を見て相手はどう思うかと心配になった。そして顔合わせすることになったが、なんと公爵家の執事長に性別が即行でバレた。 公爵家には公爵と歳の離れた腹違いの弟がいる。前公爵の正妻との唯一の子である。公爵は、正当な継承権を持つ正妻の息子があまりにも幼く家を継げないため、妾腹でありながら爵位を継承したのだ。なので公爵の後を継ぐのはこの弟と決まっている。そのため公爵に必要なのは同盟国の有力貴族との縁のみ。嫁が子供を産む必要はない。 アリスティアが男であることがバレたら捨てられると思いきや、公爵の弟に懐かれたアリスティアは公爵に「家同士の婚姻という事実だけがあれば良い」と言われてそのまま公爵家で暮らすことになる。 一方婚約者、二十五歳のクロヴィス・シリル・ドナシアンは嫁に来たのが男で困惑。しかし可愛い弟と仲良くなるのが早かったのと弟について黙って結婚しようとしていた負い目でアリスティアを追い出す気になれず婚約を結ぶことに。 これはそんなクロヴィスとアリスティアが少しずつ近づいていき、本物の夫婦になるまでの記録である。 小説家になろう様でも2023年 03月07日 15時11分から投稿しています。

ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?

音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。 役に立たないから出ていけ? わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます! さようなら! 5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!

公爵家の五男坊はあきらめない

三矢由巳
BL
ローテンエルデ王国のレームブルック公爵の妾腹の五男グスタフは公爵領で領民と交流し、気ままに日々を過ごしていた。 生母と生き別れ、父に放任されて育った彼は誰にも期待なんかしない、将来のことはあきらめていると乳兄弟のエルンストに語っていた。 冬至の祭の夜に暴漢に襲われ二人の運命は急変する。 負傷し意識のないエルンストの枕元でグスタフは叫ぶ。 「俺はおまえなしでは生きていけないんだ」 都では次の王位をめぐる政争が繰り広げられていた。 知らぬ間に巻き込まれていたことを知るグスタフ。 生き延びるため、グスタフはエルンストとともに都へ向かう。 あきらめたら待つのは死のみ。

【完結】実はチートの転生者、無能と言われるのに飽きて実力を解放する

エース皇命
ファンタジー
【HOTランキング1位獲得作品!!】  最強スキル『適応』を与えられた転生者ジャック・ストロングは16歳。  戦士になり、王国に潜む悪を倒すためのユピテル英才学園に入学して3ヶ月がたっていた。  目立たないために実力を隠していたジャックだが、学園長から次のテストで成績がよくないと退学だと脅され、ついに実力を解放していく。  ジャックのライバルとなる個性豊かな生徒たち、実力ある先生たちにも注目!!  彼らのハチャメチャ学園生活から目が離せない!! ※小説家になろう、カクヨム、エブリスタでも投稿中

処理中です...