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292 違う、そうじゃない
しおりを挟む晩餐会の翌日だからと、今日の協議会の予定は午後になっている。
「今日はおそらく事実確認で終わるだろう。本格的に打ち合わせるのは明日以降だろうな」
ノアとアークがそんな話をしながら部屋でブランチを摂っていると、不意に部屋の外が騒がしくなった。
床でローストされたミノタウロスの肉を頬張っていたヴァンが面倒くさそうに呟いた。
『クリカラが突撃してきたようだな』
「大祖父様が?」
「朝から・・・いや、もう昼近いが元気だなぁ。何の用だ?」
---せっかくノアと二人でイチャイチャしてたのに・・・。
さすがに他所の王宮でピーーー!な事はしたくないというノアの希望で昨夜は軽い触れあいで我慢したのだ。
ソコにまた邪魔が入った。
それがいくら大祖父様であっても。
アークは若干イラッとした。
「・・・・・・スマンの、ちょっと良いか?」
扉の外で、クリカラがすまなそうに声を潜める。
一瞬漏れたアークの威圧に気付いたのだろう。
「どうぞ」
「・・・良いですよ、入って」
仕方ないと、ノアを膝に乗せたままある程度食べ終わっていた料理をインベントリにしまって貰う。
入ってきたのはクリカラとリュウギの他に、早めに登城したらしいカフカとラミエルもいた。
その後ろにはウラノスもルドヴィカ達護衛騎士も。
レオニード達もすまなそうに苦笑いをしていた。
結局全員がアーク達の部屋に集まった。
もっとも気配で誰が来たのかは分かってはいたのだが。
「ノア」
「ん」
言われてパッと防音結界を張ると、席が足りないのでノアがインベントリから人数分の椅子を出して座って貰った。
護衛騎士は固辞したが、結界で何も出来ないし落ち着かないから、とノアに言われて漸く座った。
そこそこに広い部屋だが、さすがに20人+1頭が集まると狭苦しいので、ヴァンには仔狼サイズになって貰った。
「---で?」
一応この部屋の主であるアークが話を促す。
それにクリカラが応えた。
「いやな、ほれ、今しがたカフカ殿が持ってきてくれた例のアレを全員で確認しようかと思ってな?」
「・・・お寛ぎのところ申し訳ありません。後が良いと申し上げたのですが・・・陛下が聞かず・・・」
リュウギも止めようとしたのだろうが、如何せん、大祖父様は猪突猛進なところがあるから無理だったのだろう。
おそらく全員で止めながらやって来たのだ。
そうこうしているうちに部屋に着いてしまい、諦めたのだろう。
・・・ご苦労様。
「・・・・・・まあ、もう良いです。で? 現物の確認ですか? ギルマス、それ、今何処に?」
アークが軽く溜息を吐いてカフカに聞く。
カフカはチラッとラミエルを見た。
どうやらラミエルが持っているらしい。
「出して構いませんか?」
ラミエルがノアを窺った。
当事者でイヤな思いをしたので配慮したのだろう。
ノアは分かりにくいが渋い顔をして言った。
「・・・・・・良いけど、一回、全力で威圧しても良い?」
正直、顔も見たくないんだけど。
殺せないからさぁ・・・。
そう呟くノアに『それ死ぬんじゃ・・・』と思っている面々。
「仕方ないから、今日はそれで許してやるよ。ね、精霊王?」
《そうだの。今日はそれで勘弁してやろうかの》
ノアの不機嫌な声に合わせて誰かの声が聞こえてきて、一同、ギョッとする。
いや、アークとヴァンは気付いていたが。
「ねー?」
《ねー?》
「ねー?じゃねえよ! 喚ぶ前に本当に来るなよ、精霊王!!」
思わずアークのツッコミが入った。
クリカラ達は急に現れたキンキラキンの絶世の美人にポカンとしている。
「「「「・・・・・・精霊王?」」」」
いや、冗談で『喚ばなくても来そうだ』とは言っていたが、まさかこんなに気軽に来るとは思わない。
「大体、ノアの結界魔法はどうし・・・・・・ああ・・・そういや精霊王に魔法は無効だったっけ」
《我には意味なし!!》
「だからってドヤってんじゃねえよ!」
「また会えて嬉しいよ、精霊王」
《我も愛し子に会えて嬉しいぞ》
「オイコラ無視すんな!」
ハートマークでも付きそうなウキウキな声で話す二人は、当然、血の繋がりなど無いのによく似た性質のようで、何故かソコだけぽやんとした空気を醸し出していた。
「だから、そうじゃない!! 違うだろう?! 何でお前ら、そんなにマイペースなの?! いや可愛いから良いんだけど!!」
「「良いんかい!!」」
思わず声を揃えて叫んだギギルル兄弟。
その声で漸く我に返ったクリカラ達は、しかし何処をどうツッコめば・・・・・・という感じで、暫くノア達のやり取りを見守っていたのだった。
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