迷い子の月下美人

エウラ

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284 その頃のヴァルハラ大公家 1(ノア行方不明事件)

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竜王国のヴァルハラ大公家のウラノスにその一報を齎したのは、所用で偶然大公家に来ていた魔法騎士団団長でアルカンシエルの乳兄弟のルドヴィカだった。


最近、魔法騎士団で発足した『ノア様を愛で隊』なるファンクラブと非公認の『アーク殿を見守り隊』、更には冒険者ギルドの『ノアとアークを見守り隊』の三組織が結束して互いの情報網で連絡を取り合うという事を始めていたのは知っている。

バラバラの名前で面倒臭いからと、三つ纏めて最近『ノアズアーク隊』と改名したらしい。
ノアとアルカンシエルの愛称であるアークからつけたらしいが・・・。

聞いたとき『いやいやノアズアークソレの意味を分かってて使ってんのか?!』とツッコみたくなったわ。

---ノアズアーク・・・。

古代語で『箱舟』を意味する言葉。

ノアの母親の形見だというプレートに刻まれている古代語だという。
おそらく、リンドヴルムも揃いで身に着けているのだろう。

夫夫の証として・・・。


思わず感傷に浸って現実逃避をしてしまった。
いかんいかん・・・、それどころじゃ無い!

「---あー、すまないがもう一度言ってくれるかなルドヴィカ。どうも耳が悪くなったようで・・・」

目の前の椅子に座るルドヴィカににっこり笑って聞き直す。

イヤだ嘘だと言ってくれ冗談だよな?!

そんな気持ちを込めて見返したのに・・・。

「魔人国の『箱庭の迷宮』にて、ノア様が行方不明になったそうです。それもどうやらアルカンシエル様達の目の前で消えたらしいとの事です」

珍しくルドヴィカも真面目な顔と声でそう告げた。

---マジだった・・・・・・。

「・・・・・・マジかぁ・・・・・・」

如何すんの?
ヤバいなんてもんじゃ無いだろう・・・・・・。

誰だよ『混ぜるな危険!』の規格外な二人を更にヤバい『離すな危険!』状態にしたヤツ!!

「巫山戯んな、だよね。国を滅ぼしたいのかな?」
「それどころか大陸が消えますね」

二人してはぁ---っと深い溜息を吐く。
側で聞いていた側近のレーゲンと執事長のアヴィールも顔を青ざめさせた。

「・・・魔人国では何と?」

仕方なく意識を切り替えてルドヴィカに詳しい状況を聞く。
マジで早急に対処しないとヤバい案件だからな!

「冒険者ギルド職員総出で、過去の情報を精査中とのことですが、気になる情報が・・・」
「何だ?」
「迷宮で行方不明になっている者の共通点として、を持つ事が分かりました」

ルドヴィカの言葉にイヤな思いが湧き上がった。
聞けば、ノアが消えた後に迷宮の外に弾き出されていたのは、アーク達の他に行方不明の冒険者達も含まれていたという。

まるで本命が見つかったから他は用済み、とでもいうように・・・。

「理由は分かりませんが。まあ、ノア様が消えた理由としてはそれくらいしか分かりませんが、ノア様が易々と連れ去られるという状況が信じられないですね」
「その辺りの情報は?」
「魔物の他に今まで行方不明だった冒険者達が襲ってきたそうです。その中に要救助者の魔人国の第4王子がいたそうですから、手が出せなかったのでは?」

ああ・・・確かにあのノアが、いくら襲われたからといって王子殿下を伸す事ははばかれただろう。
依頼を受けた対象だものな。

「アークの状況は?」
「キレかかってますけど、何とかレオニード様達が抑えたようです。・・・良く我慢してますよね、アルカンシエル様。過去の暴走気味な竜人に爪の垢を煎じて飲ませたいですよ」
「いや・・・おそらくぎりぎりだと思うぞ。たぶん、ノアが無事である確証があって堪えているんだろう。考えたくは無いが、傷一つでも付いていたら魔人国は終わりだな・・・」

想像したらブルッと震えてしまった。

ルドヴィカが苦笑して言った。

「アルカンシエル様もですが、この件は竜王陛下にも届いているので、王城あちらはたぶん阿鼻叫喚ですよ。・・・私、今日コッチで良かったと心から思いました・・・」
「・・・・・・ああ、確かに・・・あのお方を抑える側近と近衛騎士達の様子が目に浮かぶようだ・・・」

ハハハ、と乾いた笑いが溢れるヴァルハラ大公家だった。







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