迷い子の月下美人

エウラ

文字の大きさ
上 下
273 / 534

269 オトシマエ 2

しおりを挟む

《コレが元凶の夢魔だよ》

そう言って精霊王が無造作にテーブルに転がした蔓の檻の中では、ゴロゴロとひっくり返る夢魔・・・ダンダリアンが見えた。

何か喚いているようだが口をパクパクしているだけで聞こえない。

「・・・あ、『沈黙』の魔法をかけてたっけ」
「それもそうだが、小さくてよく見えないな」
「え、老眼---っげふん!」
「・・・お兄・・・・・・」

学習しないギギをひと睨みしてからシェイラが精霊王に声をかける。

「精霊王様、もう少し大きくお願いします。あとノア、『沈黙』の解除を・・・でも音小さく出来る?」
《ふむ、テーブルに乗るくらいにしようかの》
「音を小さく、ね? じゃあ『小音ミュート』(※この場合のミュートは最小限の音を表します。管楽器に嵌めるミュートピース的な意味)」

シェイラの願い通りにしてくれた二人に礼を言って、改めてダンダリアンを見る。

「この夢魔・・・ダンダリアンと名乗っていたが、コレが200年ほど前にあの迷宮に棲み着いて最近まで寝ていたそうだ」

レオニードがザッとあらましをカフカ達に話す間も小さくなった声でピーピーとさえずっているダンダリアン。

「ああ、ソレでノア殿の髪が金色なんですね? 時間が経てば影響力は無くなると思いますが・・・元に戻るでしょうか?」
「そこは俺が戻す。何としてでもな」

アークがムッとして言った。
・・・どうやるのか何となく察したレオン達。
ノアはキョトンとしていたが。

飽きもせずにずーっと喚いていたダンダリアンだったが、レオニードの話が終わる頃には魔力切れになってきたのか、ぐったりと青い顔になっていた。

見ると一つ、ドぎついピンク色の花が咲いていた。

「・・・・・・コレは何ですか?」

さすがに気になったカフカが尋ねると、いい笑顔で精霊王が応えた。

《此奴の魔力を吸って咲くのだ。魔石の実が成るから、有効活用してくれ》
「---それは凄いですね!」
《そうであろう! 今度、罪人に使ってみるか? 特別にこれの種をやるぞ。育ててみるか?》
「よろしいのですか?!」
「---おーい、取りあえず話を戻そうぜ?」

アークが脱線しそうな話を元に戻す。
カフカも精霊王もハッとした。

「・・・・・・コホン、失礼しました。では、コレの処罰はこちらで対応してよろしいですか?」
「ああいや、ノアの両親の事情に絡んだ、いわば元凶だったので竜王国としてもコレの処遇を検討したいのだが・・・」
「・・・では後日、魔人国の国王陛下と竜王国の国王陛下とで話し合いの場を設けましょう。そこでお互いの国の妥協案を探りましょうか」

レオニードの言葉にカフカは少し考えてからそう言った。

「そうだな。ではその様に兄王に話を通しておくとしよう」
「こちらも魔人国の国王に伝えて日程の調整を致します。---お疲れ様でした。数日はゆっくり出来ると思いますよ」
「助かる。さすがに色々疲れた。暫くゆっくりしたい」

レオン達もさすがに疲弊していた。
一安心して気が抜けたからかもしれない。

カフカがテーブルの蔓の檻を指差してレオニードに聞いた。

「ソレ、こちらのギルドでお預かりしてもよろしいですか?」
「・・・良いですか、精霊王様?」

念の為、精霊王にお伺いをたてるレオニードに快く応える精霊王。

《ああ、構わんよ。邪魔だからもう少し小さくしておこう。何、絶対に破れない檻だから心配無い。何かあればノアとアークに言ってくれればすぐに召喚されてやるから遠慮するな》
「ありがとうございます。では皆様お疲れ様でした」



がやがやと去って行くアーク達を見送ったあと、執務室に結界を張り直すカフカとラミエル。

二人ともダンダリアンをジッと睨んでいたが、やがてラミエルが塵芥を見る目で言った。

「---が私と同じ種族かと思うと反吐が出ますね」
「ラミエルはそんなヤツと同じじゃ無いでしょう?」
「それでも、こんなヤツ一人のせいで、一族全員がそう思われるのは我慢ならない」
「私は分かっていますよ」

そう言ってカフカはラミエルをギュッと抱き締めた。

「それにラミエルは私以外に手は出さないでしょう?」

---一途だものね。

そう囁いて口付けるカフカ。
ラミエルも抱き締め返し口付けを返そうとしているとダンダリアンが喚いた。

「---ちょっと! アンタ、同族っていうなら助けなさいよ!」
「今の話、聞いてなかったのか? 耳が遠いんだな、この年増」
「---ハア?! 誰が年増よ! アタシは永遠の20歳・・・って・・・・・・ん? アンタ、見たことあるような・・・?」
「昔、お前に殺されかけただよ」
「---っ? ええ?! あ---っ!! アンタあの時のガキ!! な、何で生きてんのよ?!」
「私が助けたからだよ、クズ野郎。散々迷惑かけやがって・・・ただで済むと思わないことだ」
「カフカ、口汚い」
「あ、すまない」
「ちょっと---!! 何よ、イチャイチャ見せつけてんじゃないわよ!!」
「煩い。『沈黙』」
「****---!!」

ラミエルが『沈黙』で静かにさせて、カフカは漸くラミエルと久しぶりの口付けを交わす。

コイツのせいで忙しくて最近ご無沙汰だったのだ。
後始末を考えるとまだまだ忙しくなりそうだが、だからこそ、ほんの一時だけでも触れ合いたい二人だった。



ギルド職員が声をかけるまで、暫く口付けを堪能していたのだった。









※二人のイチャコラは需要があれば書こうと思います(イチャコラはともかく閑話の予定はあります)。

しおりを挟む
感想 1,184

あなたにおすすめの小説

悪役令息に転生して絶望していたら王国至宝のエルフ様にヨシヨシしてもらえるので、頑張って生きたいと思います!

梻メギ
BL
「あ…もう、駄目だ」プツリと糸が切れるように限界を迎え死に至ったブラック企業に勤める主人公は、目覚めると悪役令息になっていた。どのルートを辿っても断罪確定な悪役令息に生まれ変わったことに絶望した主人公は、頑張る意欲そして生きる気力を失い床に伏してしまう。そんな、人生の何もかもに絶望した主人公の元へ王国お抱えのエルフ様がやってきて───!? 【王国至宝のエルフ様×元社畜のお疲れ悪役令息】 ▼この作品と出会ってくださり、ありがとうございます!初投稿になります、どうか温かい目で見守っていただけますと幸いです。 ▼こちらの作品はムーンライトノベルズ様にも投稿しております。 ▼毎日18時投稿予定

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です! 小説家になろうでも10位獲得しました! そして、カクヨムでもランクイン中です! ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。 いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。 欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・ ●●●●●●●●●●●●●●● 小説家になろうで執筆中の作品です。 アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。 現在見直し作業中です。 変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました

氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。 ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。 小説家になろう様にも掲載中です

もう人気者とは付き合っていられません

花果唯
BL
僕の恋人は頭も良くて、顔も良くておまけに優しい。 モテるのは当然だ。でも――。 『たまには二人だけで過ごしたい』 そう願うのは、贅沢なのだろうか。 いや、そんな人を好きになった僕の方が間違っていたのだ。 「好きなのは君だ」なんて言葉に縋って耐えてきたけど、それが間違いだったってことに、ようやく気がついた。さようなら。 ちょうど生徒会の補佐をしないかと誘われたし、そっちの方に専念します。 生徒会長が格好いいから見ていて癒やされるし、一石二鳥です。 ※ライトBL学園モノ ※2024再公開・改稿中

魔王を倒した手柄を横取りされたけど、俺を処刑するのは無理じゃないかな

七辻ゆゆ
ファンタジー
「では罪人よ。おまえはあくまで自分が勇者であり、魔王を倒したと言うのだな?」 「そうそう」  茶番にも飽きてきた。処刑できるというのなら、ぜひやってみてほしい。  無理だと思うけど。

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

処理中です...