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266 眠り姫の目覚め 2
しおりを挟むアークの熱い舌がノアの口腔を嬲る。
歯列をなぞり、上顎を擽るとノアがぶるりと震えてキツくしがみついた。
「---っぁ・・・っ!」
息継ぎの合間に艶を含んだ吐息が漏れて、アークはふっと笑って、ちゅっと音を立てて顔を離した。
湯気が出そうなほど真っ赤な顔のノアが涙を溜めてアークを見つめていた。
泣きそうな顔と感情の戻った銀の瞳は、苦しかったからか、それとも羞恥のせいか・・・おそらく両方だろう。
アークは苦笑しながら抱き締め直した。
「・・・お帰り、ノア」
「---った、ただいま・・・っ」
ノアはアークの首筋に顔を埋めてぽろぽろと涙を溢す。
その体は震えていた。
おそらく、さっきまでアークと殺り合っていた記憶もしっかりとあるのだろう。
・・・ということは、夢を見てはいなかったのだろうか?
「---ノア、何処まで憶えてる?」
アークの言葉にビクッとしたノア。
しかしそれは一瞬で、再び体を震わせて言った。
「---全部・・・憶えてる・・・。連れ去られてから、アイツにベタベタ触られて・・・っ、さっきの戦闘も・・・」
「---ごめんな、辛いこと聞いて。でも、今までどうしてたのか、気になって・・・」
「・・・ううん。俺、攫われてからたぶん夢の中にいたんだと思うけど・・・急に不快な魔力が流れてきて、咄嗟に結界張って。でもその後はなんか勝手に体が動いていうこと効かなくて・・・目の前にアークがいるのに・・・」
ノアは苦しげにそう言った。
アークは抱き締めたまま、ノアを宥める。
「いや、ひとまず無事にコッチに戻ってきて良かった・・・。取りあえず詳しい事はあとだ。アイツを捕まえないと・・・」
そうだ、片が付くまで気を緩めないようにしないと。
そう思ってアイツを見ると、呆然としてこちらを見ていた。
「---何で・・・リンデン!! コッチに来なさいよ! アナタはアタシのモノでしょう!!」
金切り声で叫ぶダンダリアンを見て、ノアにしてはめちゃくちゃ眉を顰めてもの凄く嫌そうな顔をした。
「俺はアンタのモノじゃないし、ましてや父親でもないけど」
めちゃくちゃ冷たい声でそう言いきったノアを信じられないような目で見つめるダンダリアン。
「う、そ・・・・・・何で? アタシを愛してるって、言ったじゃない?」
「言うわけないだろ。いくら操られてたって、俺が愛してるのはアークただ一人だ。勝手な妄想は止めてくれ」
「---そんなこと、うそ、え? ・・・何で正気に戻ってんの?! 嘘よ! え? まさか魔法解けちゃったの?!」
ダンダリアンは焦っていて事態が飲み込めていないようだ。
アークに抱き締められて口付けをされていた時点で魔法は完全に消えたのだろう。
アークに逢う前の、最初の頃の冷たい無表情の顔で淡々とそう言うノアにショックを受けているようだ。
「元々、状態異常耐性のあるところに婚姻の腕輪の付与でそれなりの対策はしてあったし。・・・不覚にも動揺したせいで一時的に操られてしまったけど、魔法が弱まってきたから」
「ああ、コレならイケると踏んで熱烈な口付けをしたからな。番いの絆を甘く見るなよ?」
ダンダリアンの言葉にノアが言い返し、アークがドヤって言った。
ノアはアークの言葉に顔を真っ赤に染めて照れた。
「あっアレは、その、理由は分かるけども! ひ、人前では恥ずかし、くて・・・!」
「俺だって、あんな顔のノアを見せたくないからな、人前ではもうしない・・・・・・たぶん・・・」
「た、たぶんて・・・たぶんって・・・!! その間は何?!」
---一方その頃、戦闘を止めて上空でイチャイチャし始めた二人を見て、ギギ達は察した。
「あー、ノア、元に戻ったみたい」
「コッチの気も知らないでイチャコラしやがって・・・早くこっち来いや!」
「アーク、上手いことやったようだな」
「良かったねえ」
『・・・やれやれ』
《おーい、義父様もおるぞー。あれ、義母様か? どっちでもいいか》
そんな感じで地上でぐだぐだとしている5人?と一頭に気付いて降りてくるアークとノア。
未だに茫然自失のダンダリアンを、精霊王は指をちょっと動かすと変わった植物の蔓で囲って閉じ込めた。
「---んなっ?! 何すんのよ?!」
それに気付くも一瞬で閉じ込められたダンダリアンが喚くが、何処吹く風の精霊王。
《何って、お前を放って置くわけにいくまい? それに悪いコにはお仕置きが必要であろう?》
そう言ってにっこり笑ったが、その金の瞳は笑っていない。
《我の大切な愛し子であり義息子達をこんな目に遭わせた輩を、我が許すとでも?》
---こうなった詳しい理由は分からないけれど、義息子達が苦しんでいる様子に実はめちゃくちゃ怒っていたらしい精霊王だった。
《コレから出られるなどとゆめゆめ思うなよ。この檻は生涯、破れることはない。・・・我が滅びぬ限りな・・・》
---いやいや、精霊王って不老不死って話じゃ無かったっけ?!
それ、絶対無理なヤツ---!!
アーク達も含めて全員が戦慄したのだった。
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