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263 棲み着いたヤツの正体は 2
しおりを挟む「ああ。一つ言っておくけど、この子、アンタらのこと何一つ憶えてないわよ?」
憤っているアーク達の心を読んだのか、ソイツは妖艶に笑って、虚空を見つめるノアの肩を抱き寄せ、なんでもないようにそう言った。
「---な、に?」
「言ったでしょ、かなり抵抗されたって。強情だったのよ。あんなの操るのに邪魔な記憶だもの、綺麗サッパリ忘れて貰ったわ。この子の記憶は今は天涯孤独で独りぼっちで、皆から嫌われ者扱いされてた時のモノだけよ。ふふふ、ちょっと苦労したけどちゃぁんと忘れてくれたわ。おかげで躾けしやすくなって・・・ふふっ」
その時の様子を思い出したのか、愉しそうに笑う。
それを聞いたアーク達は顔を青くさせたあと、怒りで真っ赤にさせた。
---俺と番った事も、その後の幸せな日々も、全部、無かったことにされたのか・・・?!
「---貴様、よほど死にたいらしいな・・・」
アークが再び地を這うような低い声で呟く。
先ほどから全く目線も合わず、動かないノア。
こんなアークの声にも反応しないノアを見て、アークはやり切れない思いだった。
「あらやだ、こわーい。ふふふ、心配しなくてもちゃぁんと相手してあげるわよ。アタシ、これでもまだまだ死にたくないの。・・・だから」
抱き寄せていたノアに囁く。
「---リンデン、アタシの為に、アイツらを殺して?」
リンデンと呼ばれたノアは、その瞬間、虚ろな銀の瞳をアークに向けた。
何の感情ものらない、ガラス玉のような透き通った銀色。
他の冒険者達の瞳は濁ったような銀色だったがノアの瞳は違う。
---きっと、奥底では抗っているはず。
・・・必ず、取り戻す。
「---精霊王!!」
アークが叫ぶのとノアが跳んだのはほぼ同時だった。
ガキンッ!!
ノアのバスタードソードがアークの大剣と斬り結んだ瞬間、アークの背後に眩い金色の魔力が溢れて、瞬きの間に髪も瞳も黄金色の、この世の生物とは思えない美しい容貌の精霊王が立っていた。
《・・・久々に喚ばれてみれば、何やら不味い状況のようだの》
瞬時に状況を読み取った精霊王が溜息一つ落とすとそう言った。
「詳しい話は後で! 手を貸してくれ!」
ノアと斬り結びながらアークが叫ぶ。
《良かろう。もとより義息子の願いを断るつもりは毛頭無いからの。何なりと申せ》
「助かる! とりあえず、俺とノアの攻撃の被害を受けないようにレオン達を守ってくれ!」
アークの言葉に、精霊王が暫しジッと戦っている二人を観察する
《・・・ふむ。ノアは操られておるようだの・・・ちと厄介な。守るだけで良いのか? 避難させられるが?》
「---いや、待ってくれ、精霊王殿? 私達はこのままここに!」
慌ててレオニードが叫ぶと、ギギルル兄弟も言った。
「アークの手助けをしなくちゃ! 絶対あの野郎、他にも何かしでかす---ああ!!」
「ほらな!! おいでなすった! 魔物と操られた冒険者達が・・・!!」
見ると、前回のように大量の魔物に混じって冒険者達も襲ってきた。
《---なるほど。ではあの冒険者達を迷宮から出してやろう。それなら気兼ねなく戦えるのであろう?》
「---出来るの?!」
《ああ、我にならば転移など造作もない》
「・・・・・・転移、それって・・・」
何も知らないギギ達はサーッと顔を青くさせた。
それに気付いて精霊王が言葉を紡いだ。
《心配するな。大丈夫、我だけは命あるものも転移させられる。普通はスプラッタ、とノアに聞いたがな。我は精霊王だぞ? 信じよ》
そう言って綺麗な笑顔を見せたので、ギギルル兄弟もレオン達も、一瞬、ぽーっとなってしまった。
《では、ひとまず迷宮の出入り口に送ろうかの》
そう言った瞬時、冒険者達だけがパッと消えた。
本当に瞬き一つもしない間だった。
精霊王は誰にともなく、どや顔を披露した。
それが何故かノアを彷彿とさせて、ああ、この親にしてこの子あり・・・ということをしみじみ思ったのだった。
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