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220 ささくれた心を癒して 1
しおりを挟む「ノア、用事は済んだからもう帰ろうな」
ノアを抱き上げて魔法騎士団の鍛錬場をあとにするアーク。
周りの目を気にも止めずにスタスタと歩いて馬車乗り場に向かうと、先に用意して貰っていたのだろう。
来るときに乗ってきたヴァルハラ大公家の馬車が停まっていた。
アークは御者に声をかけるとさっさと中に入り、馬車を走らせた。
帰路の馬車の中でもアークはノアを横抱きで膝の上に乗せたまま。
というかノアが横抱きのまま正面からアークに抱き付いて離れない、が正解か。
---憂さ晴らしがてらノアの実力を知らしめる作戦だったが・・・。
確かに憂さ晴らしにはなったのだろう。
騎士らにも観客にもノアの力は十二分に伝わったはずだ。
・・・だが、ノアは無表情の下でかなり怒っていたようだった。
おそらく噂のように親達の事を罵倒されたのだろう。
自分自身の事には頓着しないクセに、身内の事となると敏感で・・・。
---ああ。
アレか、俺との番い関係で否定的なことを言われたかな?
不釣り合いだ、みたいな。
それは俺でも怒り狂う。
「・・・ゴメンな、一人にして」
「・・・・・・」
ノアは首をふるふると振っている。
「・・・・・・アーク、悪く、無い」
ぽそぽそと話すノアに切なさと愛おしさが募って思わずギュッと抱き締めた。
ヴァルハラ大公家に戻ると、心得たように出迎えたアヴィールやルフトが甲斐甲斐しく世話を焼き、アークに引っ付いて離れないノアを優しく見つめながら部屋に入るのを見送った。
使用人達が出来ることはここまで。
「アルカンシエル様にたくさん慰めて貰って下さいね」
邸の者達は今日のあらましをザッと聞いていた。
噂に踊らされた輩をノアの憂さ晴らしに使って噂を払拭すると。
その為に魔法騎士団の鍛錬場で舞台を整えたと。
作戦は成功したのでしょう。
ですがあの様子だと、叩きのめしはしたがノア様のお心は傷付いたのでしょう。
きっとたくさん心無い言葉を投げかけられたのでしょうね。
「私達は事後のフォローですね」
「・・・そうですね。ああ、大変ですよ、きっと丸一日は籠もるでしょうね」
「違いない」
ほのほの笑いながら仕事に戻っていった。
「ノア、お風呂入るか? いっぱい動いて汚れたろう?」
「・・・アークも一緒」
「もちろん」
服をギュッと握り締めて上目遣いでのノアのお強請りに願ったりなアークはにこっと笑って浴室に直行すると手際良くノアの服を脱がせていく。
貴族の正装なんかはやたらと釦や装飾が付いていて、着るのも脱ぐのも面倒くさい。
使用人達が世話をするからというのもあるのだろうが自分一人では着脱不可だろう。
アークは着慣れているが、ノアはほとんど着たことが無い上にアークに世話を焼かれて自分では着たことが無いため、されるがままだ。
さっさと裸に剥かれて、ノアは先に浴室に向かう。
アークもサッと裸になり、おざなりに脱いだ服をポイッと籠に投げ入れると後に続いた。
中に入ると、ぽつんと所在なさげに立っているノアを認めて、慌てて後ろから抱き付く。
何か、こう、何処かに消えてしまうのではないかという儚さを醸し出していて・・・。
思わずギュッと抱く力を籠めた。
「・・・・・・アーク、俺、ここにいるよね?」
「ああ」
「俺、アークの番いだよね?」
「もちろん。俺の番いだ。好一対だ」
「・・・・・・俺、俺は俺だよね? アークは俺が良いんだよね?」
「当然だ。ノアはノアで、他の誰でも無い。ノアだから愛してるんだ」
「・・・・・・俺・・・俺、は・・・・・・あーく、っを、あいしてる・・・」
「ああ、知ってる」
「---っ」
ノアを後ろから抱き締めていたアークの腕に、ぽたぽたと雫が落ちてくる。
---少し前からノアが泣きそうなのには気付いていた。
情緒不安定なのは先ほどの戦闘のせいかと思っていたが、抱き付いて項に触れて気付いた。
帰るときにはほとんど感じなかった甘い薫りが溢れてきている。
発情期だ。
そういや、しょっちゅう抱き潰していたが、初めて番いになった後に要塞都市で一度なって以来、来てなかったな。
ノアがスンスンと泣きながら俺の薫りを嗅いでいる。
無意識なのだろうが、俺も煽られそうだ。
マズい。
『ヴァン、悪いがノアが発情期に入った。ルフトに連絡してくれるか? ノアのインベントリに食料とかは入ってるから心配ないが一週間くらいは籠もると思う』
『・・・了解した。ノアは大丈夫か?』
『かなり情緒不安定になってる。さっきの戦闘の影響もあるかもしれない。とにかく結界を張るから誰も入れなくなるが、心配するな』
『分かった。伝えよう』
ヴァンとの念話を切ってノアを見ると、ぼろぼろ泣いている。
「ノア、ザッと風呂に入ってからベッドで愛し合おうな。発情期だからそんなに泣き虫になってるんだよ。俺が頭から爪先までたっぷり愛してやるからな」
「・・・・・・はつじょうき・・・」
「そうだ。俺とは3回目だな」
「・・・・・・あいしてくれる?」
「ああ。好きなだけ、甘えて良いからな」
「---うん」
振り向いて正面から抱き合うと口付けをしながらシャワーを浴びておざなりに洗うと寝室に直行した。
「ノア、何時もの防音結界魔法やってくれ」
「ん」
あっと言う間に展開すると、待ちきれないように口付けを再開する。
「あーく、おれを、あいして」
その言葉にうっそりと笑って応える。
「イヤというほど愛してやる」
※次話、R18予定です。
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