迷い子の月下美人

エウラ

文字の大きさ
上 下
232 / 534

228 エキシビションマッチ

しおりを挟む

わいわいと楽しそうなノア達とは対称的に静まり返る訓練所。

そんなことお構いなしにアークがギルマスに声をかける。

「ギルマスー、始めて良いか?」
「あ、ああ。ノアは結界魔法頼むぞ」
「了解」

心なしかウキウキ声のノアが無詠唱で瞬時に結界魔法を展開すると、観客席からはざわっとした声が上がった。

ついさっき見たまんまの魔法に、動揺したのだ。
やはりアレは本当なのだと。

とてもそういう風に見えないノアがあんなに強いなんてと、信じられないでいたからだ。

それでもまだ信じられない、信じたくないという気持ちが強いのだろう。
アーク達の手合わせに皆が固唾を呑んで見守る中・・・。

それは不意に始まった。


キィン!

甲高い金属音が響いた瞬間、結界で来るはずの無い風圧が襲ってきた、ような感覚に囚われた。

皆、瞬きすら忘れて見つめていたはずなのに、何が起こったのか皆目見当がつかなかった。

おそらく見えていたのはヴァンとギギルル兄弟にギルマスとサブギルマス。
後はAランクの冒険者で辛うじて、というところか。

最初にお互いの得物で斬り結び、その音が響いたようだった。
あまりに速い動きで衝撃が後から来たようだ。

気付いた時にはもの凄い速さで二人の打ち合いが行われていた。
それもほとんどその場を動いていない。

避けるのも受けるのも紙一重で、あのスピードで有り得ないと皆が唖然としていた。

ちなみにアークは大剣でノアはバスタードソードだが、ノアはあんなに細腕で打ち負けていない。

アークもノアも心なしか笑って見える。

数分間続いた剣での打ち合いだが、ノアが一旦距離を取ると剣をしまい、次に戦鎚を出した。

映像でも出た、ノアよりも長さのある大きなヤツだ。
絶対重いだろう、アレ。
だってノアが持った瞬間、訓練所の地面が重みで沈んでるんだから!

「・・・・・・アレ、話に聞いた魔導銀ミスリルゴーレム叩き潰したっていうヤツじゃないか?」
「・・・そうだと思う。うっわ、あんなので殴られたら死ぬって。なにあれ、ノアの足元、重みで抉れてんじゃん」

ギギルル兄弟がご丁寧に説明してくれるおかげでヤバい情報が追加された。

観客席からは悲鳴が上がっている。
想像したんだろうか。

ギギルル兄弟は、この手合わせの本当の意味を知っているので『いい気味だ』と内心思った。
ノア達と別行動をしていた二人は、街中の噂をしっかり収集していて、ギルマス達と色々探っていたのだ。

そうしてノアには内緒でこっそりとアークと連絡を取り合い、この舞台を準備したのだ。

---まあ、純粋に二人の手合わせを見たかったのもあったが。


そうこうしているうちに、アークが岩や氷などを魔法でガンガン作ってノアに放ち始めた。

大小さまざまで、大きいのはノアが隠れるくらい、小さいのは豆粒くらいとバリエーション豊富に大量に飛ばしていく。

それを楽しそうに戦鎚で砕き、打ち払い、片手で振り回す。
もう片方、左手には小振りな刀を持ち、小さい粒を綺麗に斬っていた。

そこに今度は魔法を無詠唱で放ち、サンダーでピンポイントに撃ち落とした。

その次には戦鎚を消して、魔法戦に突入した。

やはり無詠唱で焔や水、氷、雷などをガンガン放つ。
それを今度はアークが大剣で斬り、消滅させていた。

「---魔法って、剣で切れるんだ・・・」
「いやいや、普通は斬れないって! お前、俺が斬ってるトコ見たことあんのか?!」
「・・・・・・無いね? え、じゃあアークも十分異常じゃん・・・」
『何、気合いと根性を入れれば斬れるんじゃ無いか?』
「「んな訳あるか?!」」

そんな二人と一頭のツッコミを他所に、観客席はざわざわしたり静まり返ったりと忙しい。

「ギルマス、彼等の実力を知ってました?」
「情報としてはな・・・。直に見るのは初めてだ」
「・・・・・・敵で無くて本当に良かったですね」
「まったくだ」

ギルマス達も心底安堵した。
その数分後。

ギギルル兄弟達の掛け合いの合間にノアが結界の中に一回り小さな結界を張って、その中に魔法を放った。

「『インフェルノ』」

無詠唱でも問題ないが、コレはパフォーマンスなので、場を盛り上げるためにノアがワザと短縮詠唱をしたようだ。

魔法を放った瞬間、二重結界のはずなのに熱風が訓練所を覆った。

結界の中、地面が高温で溶けている。
そこに今度は別の魔法を放った。

「『アブソリュート・ゼロ』」

結界内は一気に絶対零度の寒さになり、訓練所内の者は大なり小なり、寒さに震えた。

いや、寒さのせいだけじゃ無い。

インフェルノはアブソリュート・ゼロに消火されて、一面真っ白な氷に覆われていた。

---コレを自分が食らったら・・・・・・。



そんな最悪を想像して、震えが止まらなかったのだ。






※忙しくて書き終わらなかった。
何とか今日中に投稿出来ます。

しおりを挟む
感想 1,184

あなたにおすすめの小説

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました

氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。 ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。 小説家になろう様にも掲載中です

【完結】実はチートの転生者、無能と言われるのに飽きて実力を解放する

エース皇命
ファンタジー
【HOTランキング1位獲得作品!!】  最強スキル『適応』を与えられた転生者ジャック・ストロングは16歳。  戦士になり、王国に潜む悪を倒すためのユピテル英才学園に入学して3ヶ月がたっていた。  目立たないために実力を隠していたジャックだが、学園長から次のテストで成績がよくないと退学だと脅され、ついに実力を解放していく。  ジャックのライバルとなる個性豊かな生徒たち、実力ある先生たちにも注目!!  彼らのハチャメチャ学園生活から目が離せない!! ※小説家になろう、カクヨム、エブリスタでも投稿中

フェンリルさんちの末っ子は人間でした ~神獣に転生した少年の雪原を駆ける狼スローライフ~

空色蜻蛉
ファンタジー
真白山脈に棲むフェンリル三兄弟、末っ子ゼフィリアは元人間である。 どうでもいいことで山が消し飛ぶ大喧嘩を始める兄二匹を「兄たん大好き!」幼児メロメロ作戦で仲裁したり、たまに襲撃してくる神獣ハンターは、人間時代につちかった得意の剣舞で撃退したり。 そう、最強は末っ子ゼフィなのであった。知らないのは本狼ばかりなり。 ブラコンの兄に溺愛され、自由気ままに雪原を駆ける日々を過ごす中、ゼフィは人間時代に負った心の傷を少しずつ癒していく。 スノードームを覗きこむような輝く氷雪の物語をお届けします。 ※今回はバトル成分やシリアスは少なめ。ほのぼの明るい話で、主人公がひたすら可愛いです!

【書籍化確定、完結】私だけが知らない

綾雅(要らない悪役令嬢1/7発売)
ファンタジー
書籍化確定です。詳細はしばらくお待ちください(o´-ω-)o)ペコッ 目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。 優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。 やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。 記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。 【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2024/12/26……書籍化確定、公表 2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位 2023/12/19……番外編完結 2023/12/11……本編完結(番外編、12/12) 2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位 2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」 2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位 2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位 2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位 2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位 2023/08/14……連載開始

いじめっこ令息に転生したけど、いじめなかったのに義弟が酷い。

えっしゃー(エミリオ猫)
BL
オレはデニス=アッカー伯爵令息(18才)。成績が悪くて跡継ぎから外された一人息子だ。跡継ぎに養子に来た義弟アルフ(15才)を、グレていじめる令息…の予定だったが、ここが物語の中で、義弟いじめの途中に事故で亡くなる事を思いだした。死にたくないので、優しい兄を目指してるのに、義弟はなかなか義兄上大好き!と言ってくれません。反抗期?思春期かな? そして今日も何故かオレの服が脱げそうです? そんなある日、義弟の親友と出会って…。

もふもふと始めるゴミ拾いの旅〜何故か最強もふもふ達がお世話されに来ちゃいます〜

双葉 鳴|◉〻◉)
ファンタジー
「ゴミしか拾えん役立たずなど我が家にはふさわしくない! 勘当だ!」 授かったスキルがゴミ拾いだったがために、実家から勘当されてしまったルーク。 途方に暮れた時、声をかけてくれたのはひと足先に冒険者になって実家に仕送りしていた長兄アスターだった。 ルークはアスターのパーティで世話になりながら自分のスキルに何ができるか少しづつ理解していく。 駆け出し冒険者として少しづつ認められていくルーク。 しかしクエストの帰り、討伐対象のハンターラビットとボアが縄張り争いをしてる場面に遭遇。 毛色の違うハンターラビットに自分を重ねるルークだったが、兄アスターから引き止められてギルドに報告しに行くのだった。 翌朝死体が運び込まれ、素材が剥ぎ取られるハンターラビット。 使われなくなった肉片をかき集めてお墓を作ると、ルークはハンターラビットの魂を拾ってしまい……変身できるようになってしまった! 一方で死んだハンターラビットの帰りを待つもう一匹のハンターラビットの助けを求める声を聞いてしまったルークは、その子を助け出す為兄の言いつけを破って街から抜け出した。 その先で助け出したはいいものの、すっかり懐かれてしまう。 この日よりルークは人間とモンスターの二足の草鞋を履く生活を送ることになった。 次から次に集まるモンスターは最強種ばかり。 悪の研究所から逃げ出してきたツインヘッドベヒーモスや、捕らえられてきたところを逃げ出してきたシルバーフォックス(のちの九尾の狐)、フェニックスやら可愛い猫ちゃんまで。 ルークは新しい仲間を募り、一緒にお世話するブリーダーズのリーダーとしてお世話道を極める旅に出るのだった! <第一部:疫病編> 一章【完結】ゴミ拾いと冒険者生活:5/20〜5/24 二章【完結】ゴミ拾いともふもふ生活:5/25〜5/29 三章【完結】ゴミ拾いともふもふ融合:5/29〜5/31 四章【完結】ゴミ拾いと流行り病:6/1〜6/4 五章【完結】ゴミ拾いともふもふファミリー:6/4〜6/8 六章【完結】もふもふファミリーと闘技大会(道中):6/8〜6/11 七章【完結】もふもふファミリーと闘技大会(本編):6/12〜6/18

勇者一行から追放された二刀流使い~仲間から捜索願いを出されるが、もう遅い!~新たな仲間と共に魔王を討伐ス

R666
ファンタジー
アマチュアニートの【二龍隆史】こと36歳のおっさんは、ある日を境に実の両親達の手によって包丁で腹部を何度も刺されて地獄のような痛みを味わい死亡。 そして彼の魂はそのまま天界へ向かう筈であったが女神を自称する危ない女に呼び止められると、ギフトと呼ばれる最強の特典を一つだけ選んで、異世界で勇者達が魔王を討伐できるように手助けをして欲しいと頼み込まれた。 最初こそ余り乗り気ではない隆史ではあったが第二の人生を始めるのも悪くないとして、ギフトを一つ選び女神に言われた通りに勇者一行の手助けをするべく異世界へと乗り込む。 そして異世界にて真面目に勇者達の手助けをしていたらチキン野郎の役立たずという烙印を押されてしまい隆史は勇者一行から追放されてしまう。 ※これは勇者一行から追放された最凶の二刀流使いの隆史が新たな仲間を自ら探して、自分達が新たな勇者一行となり魔王を討伐するまでの物語である※

処理中です...