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211 暗躍する者達(side冒険者ギルド)
しおりを挟む冒険者ギルドでここ数日のルーティンと化した一連の行動をしてからギルマスの執務室に向かう。
色々な下準備の為だ。
もちろんそんなことはノアは知らない。
「ギルマス、アルカンシエルだ」
「おう、入ってくれ」
勝手知ったるなんとやらで、言われずともソファに座る。
ノアは、こちらも言われずともルーティンと化した防音防御結界を展開する。
「相変わらず凄いなあ」
「ありがとうございます」
ギルマスの言葉をそのままの褒め言葉の意味で受け取ってニコリと微笑む。
素直で裏を読むことをしない。
そのくせ妙に勘が良いから、ノアの前ではあんまり悪巧みが出来ないんだが。
「---で、そっちの様子は?」
アークが切り出す。
ノアは特に何も聞かない。
アークを信頼しているから、アークが自分に知らせないことも意味があると分かっている。
だから今も、普通にお茶を出して飲みながら仔狼のヴァンを膝の上でモフっているだけ。
「街の方は、あらかた噂は浸透したようだな。お前を昔から知る者と新参者で噂の信憑性が分かれてる」
「ああ、顔馴染みはそうだろうな。問題はここに来て日の浅い冒険者達、それと一部の選民意識の高いヤツらだな」
予想通りの結果に腹黒く笑うアークとギルマスを半目で見つめるヴァン。
ノアはモフるのに夢中で気にしてもいない。
「王宮の方もだいぶ噂を撒かれてる。ノアとちょくちょく足を運んでいるが、目線で蔑んでくる者にこそこそ陰口にもならないくらい大っぴらに話す者。いやあ、我慢するのが辛いのなんのって・・・」
アークが愚痴る。
いくらノアが気にしないと言っても、アークには我慢ならないのだから。
それを堪えているのはひとえにノアの為。
後で目一杯憂さ晴らしさせて貰う。
「いやあ、良く堪えてるよな。だが安心しろ。舞台は整えてやる。何時でも言ってくれ。いやあ楽しみだなあ!」
「コッチが先だから、もう少し後だな。ふっふっふ・・・今に見てろよ」
ふっふっふ、はっはっは・・・と二人の悪巧みの笑い声が執務室に響き渡った。
『我は何も知らんし聞いておらんぞ・・・』
ノアにモフられて気持ち良くなったヴァンは他人のフリをした。
「邪魔したな」
「おう、また何時でも来い」
「お邪魔しました」
「おう、胃薬ありがとな!」
「何時でも卸すので言って下さい」
「助かる!」
そんなに需要あるんだな。
もっとたくさん作るか・・・。
そんな事を考えていたので、先ほどギルド内で噂話で騒いでいた冒険者達がちょっと青ざめて引いていたのに気付かないノアだった。
アークはしっかり睨んでいたが。
「・・・・・・スミマセンスミマセン、悪く言ってスミマセン」
「要塞都市の新迷宮のボス素材・・・マジであの人が?」
「セイクリッド・リョーゼンの迷宮のボス・・・一体どれだけ倒したんだよ?!」
先ほど解体場に出された素材に顎が外れるほどガン見していた冒険者達。
その全てがノアが狩ったものと分かると、真っ青を通り越して真っ白になっていた。
「ガチでヤバい人だった!!」
「何で? だって兎人の混血なんだろ?」
「馬鹿ですか? タダの混血じゃないでしょう? 聞いてないんですか?」
急に割って入ったギルド職員にビビる冒険者達。
「な、何をだよ?!」
「兎人と竜人の混血ですよ。それも竜人の特性が強い方の。アルカンシエル様みたいな強さですよ?」
そう言われてハッとする。
「・・・そういや、ウサ耳とか無いな」
「それに加えて、あの方の他の噂を知らないんですか? 金竜ですよ! 金竜の混血って話ですよ!」
「---え、アレってガセじゃあ・・・?!」
「下界で多くの方が目撃してるって話じゃないですか! 絶対に本当に決まってます!」
「---おい、後輩。いい加減仕事に戻れよ」
「う、は。スミマセン、パイセン!」
「はあ・・・お前らもいい加減捌けろ。邪魔だ」
先輩職員に促されて元の位置に戻る後輩職員。
去り際、先輩職員に睨まれた。
「お前らもいい加減にしないと死ぬぞ?」
・・・その意味に気付いて、ヒョッと縮こまった。
そうだ、竜人の番い至上主義はヤバいんだった。
どっちにとか関係ない。
確実に殺られる!!
冒険者達はひたすら二人の視界に入らないように隅っこで縮こまっていた。
それを見て溜飲を下げるギルド職員達。
それから数日は同じ様な光景が続いたそうだ。
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