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210 ノアとアークを見守り隊(side竜王国冒険者ギルド)
しおりを挟む竜王陛下への奏上からおよそ半月。
今や竜王国では知らない者はいないだろうと言うくらい噂になっている事があった。
それはヴァルハラ大公家の三男でSランク冒険者のアルカンシエル様と番いのノア様の事だ。
かなり前、そう、冒険者ギルドには二人が番った直後にギルドの情報網で一報が入っていた。
何なら『ノアとアークを見守り隊』が結成されてからは常に最新情報が入ってきた。
しかしそれはあくまで見守り隊の範疇での情報共有であったため、大っぴらに発言することは出来ず・・・。
隊員達は常日頃から悶々とした日々だった。
それが今回、お二人が帰国して竜王陛下に御挨拶をしたという情報が入り・・・。
すわ、情報解禁か?!
・・・なんて浮き足立っておりましたが。
「・・・・・・なーんで、あんな事言われなきゃイケないわけ?」
ギルド職員の後輩がぼやく。
何時も被っている猫が数匹、散歩中のようだ。
「まあ、そう言うな。アイツらはろくに知りもしない事を上っ面だけで面白おかしくさえずっているバカな小鳥だ。その内粛清される存在だ」
同じくギルド職員の先輩が呟く。
淡々と話しながら仕事を熟す姿はもはやベテランである。
他の職員も概ね同意見だ。
聞いていた者達もうんうんと頷いている。
「でもさあ・・・・・・アルカンシエル様はともかく、ノア様の噂が酷すぎない?! 誰が見たってお似合いじゃんか。なのに僻み妬みやっかみの多いこと! くそったれが」
「はいはい。お前、逃げた猫を捕まえてきてしっかり被れよ? そろそろ来んぞ」
「ふぁーい」
リオンの言葉に何処からか探してきた猫を被って受付業務に戻るサリナス。
そして待ち人来たり。
冒険者ギルドに入ってきたのは噂の二人。
アルカンシエル様とノア様だ。
ここ数日、毎日ギルドに来ては狩った魔物の素材を売ったり、作ったポーションを卸したりしていて、人見知りの酷いノア様もだいぶ人慣れして、世間話もするようになっていた。
「こんにちは。今日も売りに来ちゃいました」
優しく声をかけてくれるノア様、最高!
「いらっしゃいませ、こんにちは。ありがとうございます。助かります!」
「売った後、ギルマスに用があるんだが、いるか?」
おや、何でしょう?
気になりますが、猫被りで顔には出しませんよ。
「ええ、おりますので、声をかけておきますね。ポーションは何時ものですか?」
「うん。後、他のギルドでも好評だったので、特製胃薬を今日は持ってきました」
「え! あの胃薬を?! それは喜びます!」
---主にギルマスが!
と続けそうになるのを何とか堪える。
そうこうしていると、ギルド内の冒険者達の中でノア様の噂をこれ見よがしに話す輩が現れました。
「アイツって兎人族の混血なんだって?」
「兎人って孕むのが仕事の弱っちい種族だろ? 誰にでも媚び売って股を開くっていうじゃねえか」
「恥ずかしくないのかね?」
「大体Sランクだって高ランク冒険者に寄生してなったんじゃねえの?」
「ははは、違いねえ!」
最近来た新参者の冒険者達ですねえ。
ノア様の狩った魔物を見てないんですね?
この後、目を剥くと良いですよ!
アルカンシエル様、堪えてますね!
カッコいいです!
普通なら威圧で殺ってます!
ノア様の為ならここは一発ガツンと・・・!
「・・・しねえよ、今は、な?」
眉間にめちゃくちゃ皺を寄せて酷く昏い声で呟くアルカンシエル様。
・・・何か考えがあってのことでしょうか?
「---心の声、ダダ漏れてんぞ、後輩」
「え」
先輩にぽそっと言われてハッとする。
猫がまた逃げてた?!
「気にしないよ。大丈夫、ありがとうね」
「ちょっと訳ありでな。ギルマスにも相談するから大丈夫」
二人ともそっと声をかけてくれた。
「こ、こちらこそ、踏み込んだ事をスミマセン」
「心配してくれたんだよね。大丈夫、ありがとう。でも俺、あれくらい言われ慣れてるから」
「そんな・・・いえ、その・・・何かあれば何時でも話、聞きます。だから、何時でも声をかけてくださいね」
「・・・・・・うん」
気恥ずかしそうにはにかんで、解体場に向かっていくノア様を見送って、さっきから噂話に花を咲かせる冒険者達をぎっとひと睨みして深呼吸をする。
「本当、むかつく!」
「・・・・・・うん、まあ、その内何とかなるんじゃない?」
わざと噂を放置しているみたいだしね。
何かやらかすんだろう。
とりあえずは隣でぷんすか怒っている可愛い後輩を宥めるとしようか。
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