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176 神聖な霊山で暫し心の洗濯 2
しおりを挟む皆が着席して一旦落ち着いたところで、ルドヴィカが切り出した。
「何故殿下が来たのか、ですが、公務をサボって大公家に遊びに来ていたからです。そこにたまたまアークがここに着いたと連絡が入って、止める間もなくここに来ちゃったというわけで。そこで俺に連絡が来たので超特急で翔んできました。あ、ちなみに俺は魔法騎士団長のルドヴィカ・アルバトロスといいます。アークの従兄弟で乳兄弟ね。そこのお二人、初めましてだよね。よろしく!」
ルドヴィカが困った子供を見るように笑って言ったあと、ギギ達に明るく自己紹介をした。
リュカリオン殿下は眉を寄せてバツが悪そうにそっぽを向いた。
それを見てノアはあれ?と思った。
そういえば見た目に反して殿下の言動が少し幼い感じが・・・。
もしかして、俺より年下・・・?
・・・・・・いやいや、そもそも俺は221歳でアークより実質年上だった・・・凹む。
「・・・あの、失礼ですがリュカリオン殿下はお幾つで・・・?」
「・・・・・・20だ」
リュカリオンの様子に気付いたのか、おずおずと聞いたルルにムスッとしながら応えるリュカリオン。
20歳かぁ。
俺より一つ下だが顔立ちや体格は俺よりガッチリしてて男前だ。
アークに似て褐色の肌、腰くらいの銀髪に金色の瞳だからおそらく銀竜なんだろう。
それにしても、と考える。
王族だし教育もしっかりされているだろうし、20歳で反抗期っていうのも無くは無いのだろうが、何が嫌だったんだろうか。
ノアはすでに独りで生活していたから、その辺りの感情がよく分からない。
もちろん反抗期らしい事も無かった気がする。
「・・・公務はサボっちゃ駄目だろう。常日頃、『兄上を支えるんだ』と言ってたのは嘘だったのか?」
「っ違う! 嘘じゃない! ただ、公務がちょっと、イヤだったんだ・・・。高位貴族の年頃の息子達とお茶会で・・・ギラギラとした目で圧をかけてくるから・・・・・・」
「---ああ、うん・・・。そっか、ソレはイヤだな。竜人は番い至上主義だけど、王族は政略とか無くもないもんな・・・。どうでもいい奴を相手にして愛想笑い・・・・・・辛いよな」
リュカリオンを諭していたかと思えば、どんどんとどんよりした空気を背負い出すアークに、お前も通ってきた道なんだなと、皆が思った。
王族(高位貴族)怖え・・・・・・。
あと、お茶会って公務なんだ?!
驚いていたら、アークがコソッと、月イチで決められている公務扱いの交流会の事なんだって。
腹の探り合いとか狙った獲物を狩る場所とか、ノアはよく分からなかったが、ギギ達は納得していた。
「---ああ、まあ何だ。そんなヤツら気にするなってこと。・・・ともかく、リュカリオン殿下は城に戻って下さい。護衛振り切って来たでしょ? 殿下の逃亡劇の割を食うのは彼等なんですよ。首が飛ぶとまでは言いませんが、責任問題で減俸とか普通にあるんです。そこら辺良く考えて行動して下さいね」
ルドヴィカにそう言われてハッとしたリュカリオン殿下。
「---ああ。すまなかった。アークも悪かったな。・・・・・・ノア殿、驚かせてすまなかった。アークとゆっくり過ごしてくれ」
「・・・・・・はい、ありがとうございます」
ノアがはにかみながら返事をした。
心なしかリュカリオンの褐色の頬が桜色に染まった。
アークはイラッとしたが顔には出さずにルドヴィカに声をかける。
「ルドヴィカ、一緒について行ってくれるな?」
「元よりそのつもりで来たのでちゃんと送り届けるよ。・・・あ、大公家ではレーゲン様やアヴィールが閣下達を止めてたので、これ以上の突撃は無いと思うぜ」
思い出したようにニカッと笑った。
「・・・・・・助かる。父達には数日羽を伸ばしてから帰るつもりだと伝えておいてくれ」
「了解。---んじゃ、お邪魔しました! 殿下、行きますよ!」
「分かっている。邪魔したな」
「「「「お気を付けて」」」」
『またな』
来たときよりは静かに、それでもバタバタとしながら去って行く二人を見送って、皆はホッと肩の力を抜いた。
「あー、心臓に悪いわ」
「まさかの第二王子殿下とか・・・まあ、そういえばアークも大公家の三男だしなあ・・・忘れてたわ」
「悪かったな」
いろんな意味で。
アークがニヤリと笑う。
「---色々と大変なんだね、王族って」
ノアが他人事のように言うが、お前もすでに仲間入りしてるからな?
アークが苦笑した。
「これでも他の国からしたら緩い方だと思うけどな。振り切ったとはいえ護衛無しで出歩けるのも竜人だからってのもあるし、護衛も体裁上のところが大きい。皆、普通に強いからな」
「あー、確かに。そういうのも堅苦しくて面倒くさいね。俺、アークの番いで良かったよ」
「だろう?! 割と自由に過ごせるし! 家族の過保護が無ければもっと・・・いや、ノアにはあれくらいあった方が・・・?」
「・・・・・・アーク?」
後半はブツブツ小声でよく分からない。
「いや、とりあえず数日はのんびり出来そうだから、宿を取ってゆっくりしようぜ」
「「賛成!!」」
「門衛さんに聞けばオススメ教えてくれるよね」
『御飯が美味いところが良いな』
「そうだね!!」
和やかに笑いながら門衛に宿を聞いて、アーク達はようやく街中へと繰り出したのだった。
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