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217 俺の大切な好一対 4
しおりを挟む---金竜がいる。
魔法騎士団の鍛錬場に、幻の金竜がいる。
誰が言い出したのか、そんな情報が駆け巡って、嘘か真か、事の真偽を確かめるように、仕事そっちのけで大勢の者が鍛錬場に駆けつけた。
鍛錬場はコロシアムのように周りに観客席を設けてある為、そこへの出入りは比較的自由だった。
そこは、ノアの来訪の話を聞いた者、あまりの衝撃波に何事かと様子を見に来た者などでごった返していた。
そこで皆が目にしたのは、その背に黄金色の翼を広げて金のメッシュの入った黒髪をたなびかせたアルカンシエルの番い・ノアだった。
銀の瞳の瞳孔も縦に割れている。
騎士団の鍛錬場では、今もノアが絶賛戦意喪失中の騎士達を容赦なく千切っては投げ、魔法で一撃、剣で一撃、殴る蹴るを繰り返してはポーションをかけて直して、再度ぶん投げる・・・ということをしている。
途中、2mもあるかと思われる戦鎚を片手で振り回し出したあたりで逃げ出す者もいた。
もはや周りで静観している者達が止めに入ろうかと思うほど、ノアは淡々とルーティンのように熟していた。
実際にはノアの防御結界に阻まれて誰も止めに入れないのだが。
そういうわけで鍛錬場は騎士達の屍(正確にはまだ生きている)の山だらけだった。
聞こえるのは騎士であろう男達の情けない命乞いや断末魔(一応生きている)。
凄まじい爆音と何かが潰れる音。
斬撃の音や魔法の光等ばかり。
屍(何度も言うが一応生きている)の山の天辺で瀕死の騎士達を無表情で踏みつけている金竜。
観客席に集まった者達は、初めはざわざわしていたが、数分後には顔色をなくして無言になった。
腰が抜けて動けない者もいるようだ。
そんな結界の中・・・。
無表情の顔の下で、ノアは静かに怒っていた。
ソレはもう、めちゃくちゃ怒っていたのだ。
確かに顔も知らぬ両親だが、ここに来るまでに知ったノアの両親は、本当に凄くて立派で格好良くて優しい人達なのだ。
それに育ての爺さんだって・・・!
それを貶された。
自分が貶されるのは構わない。
慣れてるし、確かに今までずっと身元不詳だったからだ。
だが両親や爺さんの事を知った今、三人を貶されるのは我慢できない!!
更に何でアークとのことを部外者が騒ぐのか、否定するのか意味が分からない!
そりゃあ、家柄や血筋を重んじる人もたくさんいるし、気にならないとは言えない。
でも、アークは俺が良いんだって言った。
誰でもない、ノアが良いんだって。
だから俺もアークだけ。
アークだから好きなんだ。
ソレを赤の他人が否定することは許さない。
アーク、アーク、アーク、アーク、アーク!!
この世で一番大好きで大切な俺の好一対。
「ッアーク」
「呼んだか、ノア」
---え・・・。
「・・・・・・アーク?」
「ああ」
「な、なん・・・え、え?」
いつ来たの?
え、え?
「迎えに来たよ。後で来るって言ったろ?」
「ぅ、えあ・・・へぇっ?」
結界がスウッと解除されたのを見て近づくアーク。
無理矢理入る事も出来なくはないが、双方にフィードバックがあって多少なりとも負担がかかるので基本、やらない。
側に立つと、ややパニック状態のノアが挙動不審になっている。
結界を解除したときに威圧も爪も翼も消え、瞳孔も元に戻った。
何時ものぽやっとしたノアだった。
ソレをクスッと笑って見ていると、ノアはぴたりと動きを止めてぼろぼろ涙を溢し始めた。
アークがぎょっとした。
泣かれるのはちょっと想定外だった。
「---ノア?! どうした? 何で泣いてる? 何か嫌なことでも・・・あり過ぎたか」
アークが苦笑する。
そりゃあ泣くほどの事があったに決まってる。
すまないとアークは心の中で謝った。
「---ないで・・・」
「・・・ん?」
「きら・・・いで・・・」
「・・・ノア?」
小さな囁き声を聞き取るようにノアに近づく。
「・・・嫌い、っに・・・ならな・・・で・・・っ」
「・・・・・・ノア」
「俺っ・・・こと、嫌いに、ならな・・・いで・・・!」
こんな残虐で痛めつけて半殺しのような・・・。
こんな事をする俺を、嫌って、捨てないで。
「あーくに、捨てられたらっ、生きて、いけなっ・・・!」
「・・・・・・ノア、心配ない」
さっきまで無表情で無感情だったノアは一気に感情を取り戻し、静かに涙を溢しながらアークの胸元に縋った。
「捨てないよ。例え死んでも、ノアの事は手放さないよ。竜人の執着を甘く見て貰っては困る」
---ソレにノア以外に欲情しないし。
耳元で囁かれて、ノアは思わずカーッとなった。
「涙、止まったみたいだな」
「・・・・・・あーく、のバカ」
「ふふふ」
こうして鍛錬場での集団私刑が逆転したノアの単独私刑は、アークの登場で唐突に終わりを告げた。
「行こうか」
「・・・うん」
アークに抱き上げられて鍛錬場をあとにしようとして、ノアはあっと気づいた。
「アーク、ちょっと待って、あの、カイン」
「---はい、何か」
「あのね、ポーション。たくさんあるからアレらに使って」
そう言ってノアはカインにマジックバッグになっている巾着を渡すと、そこにマジックバッグ(に見せかけたインベントリ)から大量に移し替えた。
「あ、ありがとう御座います!! 助かります!」
「---じゃあ、あとはよろしく。邪魔したな」
「はい、ご苦労様でした、アルカンシエル様」
皆が唖然としている中、二人は平然と鍛錬場をあとにしたのだった・・・。
後に残されたのは、ポーションを貰ってほくほく顔のカイン達だった。
一方、観客席にいた野次馬どもは、鍛錬場のあまりの惨劇に腰を抜かして呆然としていたのだった。
---嘘だろう・・・・・・?
そう言ったのは誰だったか・・・。
これで噂は別のものに切り替わるだろう。
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