156 / 538
152 鎮魂祭と雪祭り 5
しおりを挟むギギルル兄弟を宿に連れて来てから、再びのんびりと街中に繰り出す。
ギギ達は宿でひと息吐いてから散策するそうだ。
鎮魂祭には参加すると言っておいたからあとで合流出来るかな?
街の中では至る所で灯籠が売っていた。
野菜を売る店にも並んでいた。
「昨日言ってたヤツかな?」
「ああ。思ったよりも小さいんだな」
「今のうちに買っとこうか」
そういってノアが近くの屋台で売っている灯籠を買っていた。
アークも一つ買って説明を聞くと、夕方頃に広場に行けば良いらしい。
「中の魔石に少し魔力を注ぐと光って自然と空に浮かぶからね。その時に死者の魂に、浄化されて来世に無事に逝けるようにお祈りするんだよ」
そういって屋台のおじさんが笑った。
「そう言えば、あんたらだろ? 広場の花と竜とフェンリルの氷像作ったの。あれ、昨日皆がこぞって見に来てて凄かったぜ! 暗くなってきたらまた魔導具で光るから、見ると良いよ」
そう言われて、そんなに凄かったかなと首を傾げるノアだったが、アークは何となく察した。
---ノアが無詠唱で作ったってだけでも凄いのに、精緻な花と竜とフェンリルだったもんな・・・。
アークが遠い目をする。
その時の騒ぎが目に浮かぶようだった。
夕方、暗くなってきた頃に雪がまた降り出した。
寒くないようにもふもふのフードを被ると、ノアは教えて貰った氷像のライトアップに興味があったので、アークを誘ってみた。
「ちょっと早めに行ってみない?」
「そうだな、雪も降り出してきて暗くなってきたし、ちょうど良いかな?」
街灯もちらちらと光りだして、舞い落ちる雪を仄かに照らし出した。
灯りの中を花弁のようにひらりと落ちる雪は幻想的だった。
そんな中をアークと手を繋いで寄り添いながらゆっくり歩いて行く。
広場に近付くにつれて人が多くなってきた。
ノアのように早めに来た人が結構いるようだ。
氷像にも灯りが灯っている。
魔石の種類なのか刻まれた魔法陣の効果なのか、赤や青、緑、黄色などの光が照らし出す氷の像はキラキラと乱反射し、とにかく綺麗だった。
その中でも人集りが出来ていたのがノアの作った氷像で・・・。
「・・・・・・やっぱり・・・」
「・・・ええ? どうして?」
心底不思議そうに首を傾げるノアの頭を苦笑してフードの上からポンポンと撫ぜるアーク。
そこに聞き慣れた声が聞こえた。
「いやいや、だってノアのだから!」
「あれ、やっぱりノアのだったねえ」
振り向けばギギルル兄弟がいつの間にかいて、ノア達に近づいて来ていた。
「よお、さっきぶり!」
「だからお兄、煩いって。ごめんね、騒々しくて」
賑やかなギギと申し訳無さそうなルルが対称的で周りも笑いが溢れる。
冒険者装備を外してすっかり普段着の2人は、体格も良く容姿も整っていて男らしい顔立ちなので、周りの人が黄色い歓声を上げていた。
生憎と2人共まだお相手はいないようだが、竜人族のように番いとかあるのだろうか?
気になったノアは2人に聞いてみた。
「そう言えばギギ達はアークみたいに番いがいるの?」
「あー、そういうのがあるっちゃあるんだが、気長に探すヤツもいればさっさと気になったヤツと婚姻するのもいるし、でも竜人ほど執着はしないかな」
「へえ・・・」
「婚姻後に番いが見つかって離縁する事もあるし、番いと分かってもそのまま今の相手と婚姻関係を続けたり。魔人族にとっては、単なる相性が良い相手、くらいかな?」
「・・・なるほど?」
「ま、ノアはアークと番って幸せなんだろ? それが一番だって」
「そうそう。もし周りが何か言ってきても気にする必要は無いよ。---まあ、アークがそんなことさせないだろうけど」
ルルが言った最後はぽそぽそしてて聞き取れなかった。
でもまあ、竜人族と魔人族の番いの認識の違いが分かってスッキリしたノアだった。
暫くギギ達と歓談していたら、いつの間にか広場に領主と冒険者ギルドのマスターがいて、鎮魂祭の開幕をしていた。
「今年も無事に一年、乗り切る事ができて嬉しく思う。我らの生活は戦士達や尊い犠牲のもとに得られた安寧だ。感謝し、彼等の魂を今日この時、浄化し来世へと送り出そう」
領主の挨拶を合図に共にめいめい灯籠に灯りを灯す。
あちこちで仄かな橙色の光が空へと舞い上がっていく。
ノアとアークも灯籠に灯りを灯すと手を離した。
ふわりと浮いていく。
隣ではギギ達も灯していた。
「---母さん、爺さん。俺は幸せだから、心配しないで」
「何かあってもノアは俺が護ります」
そういって2人はお互いをぎゅっと抱き締めた。
無数の灯籠がゆらゆらふわふわと空の彼方へと消えた頃、パーンと音が響いた。
驚いて見上げると、音の数だけ、魔法で作ったらしい花火が咲いていた。
「鎮魂祭が終わり、雪祭りの合図だ」
側にいた住民が教えてくれた。
「これから夜通し大騒ぎさ! 君達も楽しんで!!」
そう言う間にも、皆がわあっと騒ぎだす。
俺達は挨拶だけでもと、領主とギルマスの元へ向かった。
ギギ達もついてくる。
「---領主殿」
「・・・おお、ヴァルハラ大公子息殿!! 楽しんでおりますか?」
「とても幻想的でした」
「これからもっと盛り上がりますよ!」
「・・・あの、花火って俺があげても大丈夫ですか? 記念に、その・・・」
「ええ、ええ、もちろんですとも!」
「あ、ありがとうございます!」
「・・・良いのか?」
それを聞いたアークとギギ達がちょっと引いたが、気にせずにノアは魔法を放った。
パンッと軽快な音に似合わない大輪の花火が幾つも空を彩り、ノーザンクロスの街全体を明るく照らし出した。
有り得ないくらいの規模で光ったそれは、静かに消えたあと、光る雪となって街中に降り注いだ。
「・・・・・・奇跡だ」
誰かが言った言葉を皮切りに、一瞬静まり返った広場はわあっと弾けるような大騒ぎになった。
「・・・・・・あちゃあ・・・・・・」
「・・・言わんこっちゃない」
「・・・・・・だと思った」
「「・・・・・・」」
騒ぎだす周りにポカンとするノア。
同じくポカンとする領主、ギルマスを放ってアークは翼を顕現してノアと翔び立った。
ギギ達も浮遊する。
住民達で足の踏み場がなかったからだ。
「---やらかしたな」
「ノアらしいけどね・・・」
「・・・・・・ごめんなさい?」
「・・・いや、気にするな。皆、喜んでたし」
ご愁傷様・・・。
---領主達、後始末は任せた。
そんな気持ちで宿へと向かったのだった。
※ちょうど年末っぽいお話になりました。皆様も良いお年を!
297
お気に入りに追加
7,354
あなたにおすすめの小説
冷遇された第七皇子はいずれぎゃふんと言わせたい! 赤ちゃんの頃から努力していたらいつの間にか世界最強の魔法使いになっていました
taki210
ファンタジー
旧題:娼婦の子供と冷遇された第七皇子、赤ちゃんの頃から努力していたらいつの間にか世界最強の魔法使いになっていた件
『穢らわしい娼婦の子供』
『ロクに魔法も使えない出来損ない』
『皇帝になれない無能皇子』
皇帝ガレスと娼婦ソーニャの間に生まれた第七皇子ルクスは、魔力が少ないからという理由で無能皇子と呼ばれ冷遇されていた。
だが実はルクスの中身は転生者であり、自分と母親の身を守るために、ルクスは魔法を極めることに。
毎日人知れず死に物狂いの努力を続けた結果、ルクスの体内魔力量は拡張されていき、魔法の威力もどんどん向上していき……
『なんだあの威力の魔法は…?』
『モンスターの群れをたった一人で壊滅させただと…?』
『どうやってあの年齢であの強さを手に入れたんだ…?』
『あいつを無能皇子と呼んだ奴はとんだ大間抜けだ…』
そして気がつけば周囲を畏怖させてしまうほどの魔法使いの逸材へと成長していたのだった。
【完結】捨てられた双子のセカンドライフ
mazecco
ファンタジー
【第14回ファンタジー小説大賞 奨励賞受賞作】
王家の血を引きながらも、不吉の象徴とされる双子に生まれてしまったアーサーとモニカ。
父王から疎まれ、幼くして森に捨てられた二人だったが、身体能力が高いアーサーと魔法に適性のあるモニカは、力を合わせて厳しい環境を生き延びる。
やがて成長した二人は森を出て街で生活することを決意。
これはしあわせな第二の人生を送りたいと夢見た双子の物語。
冒険あり商売あり。
さまざまなことに挑戦しながら双子が日常生活?を楽しみます。
(話の流れは基本まったりしてますが、内容がハードな時もあります)

誰よりも愛してるあなたのために
R(アール)
BL
公爵家の3男であるフィルは体にある痣のせいで生まれたときから家族に疎まれていた…。
ある日突然そんなフィルに騎士副団長ギルとの結婚話が舞い込む。
前に一度だけ会ったことがあり、彼だけが自分に優しくしてくれた。そのためフィルは嬉しく思っていた。
だが、彼との結婚生活初日に言われてしまったのだ。
「君と結婚したのは断れなかったからだ。好きにしていろ。俺には構うな」
それでも彼から愛される日を夢見ていたが、最後には殺害されてしまう。しかし、起きたら時間が巻き戻っていた!
すれ違いBLです。
初めて話を書くので、至らない点もあるとは思いますがよろしくお願いします。
(誤字脱字や話にズレがあってもまあ初心者だからなと温かい目で見ていただけると助かります)

【完結】兄の事を皆が期待していたので僕は離れます
まりぃべる
ファンタジー
一つ年上の兄は、国の為にと言われて意気揚々と村を離れた。お伽話にある、奇跡の聖人だと幼き頃より誰からも言われていた為、それは必然だと。
貧しい村で育った弟は、小さな頃より家の事を兄の分までせねばならず、兄は素晴らしい人物で対して自分は凡人であると思い込まされ、自分は必要ないのだからと弟は村を離れる事にした。
そんな弟が、自分を必要としてくれる人に会い、幸せを掴むお話。
☆まりぃべるの世界観です。緩い設定で、現実世界とは違う部分も多々ありますがそこをあえて楽しんでいただけると幸いです。
☆現実世界にも同じような名前、地名、言葉などがありますが、関係ありません。

婚約者に会いに行ったらば
龍の御寮さん
BL
王都で暮らす婚約者レオンのもとへと会いに行ったミシェル。
そこで見たのは、レオンをお父さんと呼ぶ子供と仲良さそうに並ぶ女性の姿。
ショックでその場を逃げ出したミシェルは――
何とか弁解しようするレオンとなぜか記憶を失ったミシェル。
そこには何やら事件も絡んできて?
傷つけられたミシェルが幸せになるまでのお話です。
ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?
音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。
役に立たないから出ていけ?
わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます!
さようなら!
5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!

公爵家の五男坊はあきらめない
三矢由巳
BL
ローテンエルデ王国のレームブルック公爵の妾腹の五男グスタフは公爵領で領民と交流し、気ままに日々を過ごしていた。
生母と生き別れ、父に放任されて育った彼は誰にも期待なんかしない、将来のことはあきらめていると乳兄弟のエルンストに語っていた。
冬至の祭の夜に暴漢に襲われ二人の運命は急変する。
負傷し意識のないエルンストの枕元でグスタフは叫ぶ。
「俺はおまえなしでは生きていけないんだ」
都では次の王位をめぐる政争が繰り広げられていた。
知らぬ間に巻き込まれていたことを知るグスタフ。
生き延びるため、グスタフはエルンストとともに都へ向かう。
あきらめたら待つのは死のみ。
【完結】実はチートの転生者、無能と言われるのに飽きて実力を解放する
エース皇命
ファンタジー
【HOTランキング1位獲得作品!!】
最強スキル『適応』を与えられた転生者ジャック・ストロングは16歳。
戦士になり、王国に潜む悪を倒すためのユピテル英才学園に入学して3ヶ月がたっていた。
目立たないために実力を隠していたジャックだが、学園長から次のテストで成績がよくないと退学だと脅され、ついに実力を解放していく。
ジャックのライバルとなる個性豊かな生徒たち、実力ある先生たちにも注目!!
彼らのハチャメチャ学園生活から目が離せない!!
※小説家になろう、カクヨム、エブリスタでも投稿中
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる