148 / 538
144 窓越しの六華
しおりを挟む急いで宿に戻ると、アークの頭やノアのフードにもうっすらと雪の華が散っていた。
それを宿の軒下で払うと中に入る。
まだ夕方だがすでに宿泊しようとする客で受付がいっぱいだった。
雪が降り出したのと鎮魂祭目当ての宿泊客なのだろう。
ここは貴族向けの高級宿だからか客層も富裕層が多いようだ。
そんな中に一級品だが明らかに冒険者の装備の二人組(+α)が入り込んだモノだから、宿泊希望の一部の客らしき男が声を荒げた。
「おい! そこな冒険者風情が何故ここに泊まるのだ?! 其奴らを追い出して代わりに私を泊めるべきだ! 冒険者など安宿で十分ではないか!!」
それに便乗したのか、数人が賛同して騒ぎ出したのを冷めた目で見るアークと宿の従業員、それと貴族らしき客。
「・・・・・・やれやれ。コレだからモノを知らぬ輩は・・・。このような辺境地では冒険者が騎士や傭兵の方々と協力して魔物を討伐し、我らの安全を護ってくれておるというのに・・・」
わざと声を大にして、騒ぐ男に聞こえるように言う貴族の男性。
それに頷く周りの客と従業員。
それを聞いて顔を真っ赤にさせて怒鳴ろうとした迷惑な男を無視して、その貴族はアークの元へ歩み寄った。
それを一瞥してアークが声をかけた。
「久しいな、ラウエル卿。何時こちらへ?」
「ご無沙汰しております、ヴァルハラ大公子息様。つい二日前でございます。鎮魂祭の時期は毎年こちらに滞在しております故」
サリエリ・ラウエルは竜王国の貴族で侯爵だ。
夜会で何度も会っている顔馴染みである。
「そうか。ああ、私の事はアルカンシエルで良い。ここでは冒険者だからな。こちらは私の番いでノアと言う」
「・・・ノアです」
アークに抱き上げられたまま、人見知りを発動してしまい、名前しか言えなかったノア。
「すまんな、人見知りで。父達にもまだ紹介出来てなくてな・・・」
「まあ、それはそれは・・・! 次に大公閣下にお会いした時に自慢できます。ノア様ですな。大変お可愛らしいことです。・・・そういえば、領主様にはお会いになりましたか?」
「ああ。それでここを紹介されたのでな、先に宿を取っておいたのだ。雪が降り出したので冒険者ギルドから今戻ったところだ」
そう話しているのを側で聞いていた迷惑な男は、顔を真っ赤から青白くさせた。
自分が喧嘩を売ったのがただの冒険者ではなく、この国の王位継承権を持つ大公家の子息だと気付いたからだ。
一緒になってがなっていた輩も真っ青になっている。
「ヴァルハラ様、お部屋の鍵でございます」
「---ああ、ありがとう。ではラウエル卿、またな」
「ええ、いずれまた」
従業員に礼を言い、ラウエル卿にも挨拶をして階段を上がっていったアーク達を見送った後の受付の前は阿鼻叫喚だったが、アーク達は与り知らぬ事だった。
部屋に入るとノアをソファに座らせてフードを下ろし、自分とノアの額をコツンと合わせた。
「・・・やはり体温が高い」
ぽそっと呟くアークに、ぽやんとしていて聞き取れなかったノアがコテンと首を傾げる。
「ノア、楽な格好に着替えようか」
そう言いながらアークはマジックバッグからポーションを出すと、口に含んでからノアに口付けて口腔内に注いで嚥下させた。
何度か注ぎ、ポーションが空になるときにはノアは下穿きだけになっていた。
ぽーっとしながらされるがままのノアにクスリと笑うと、アークはゆったりした服(アークの服)を着せる。
ノアはぽけっとしながらも嬉しそうに笑った。
---彼奴も同じ事をしておったなあ・・・。
甲斐甲斐しく世話を焼くアークを床のふかふかなラグの上に寝そべったヴァンが薄目を開けて見ていた。
ヴァンは竜人の番い至上主義は我らの番い至上主義に通ずるモノがあるな、と心の中で思っていた。
実はフェンリルも似たようなモノで、番いには貢物をこれでもかと贈り、甲斐甲斐しく世話を焼くのだ。
ヴァンは番った事が無いので今は他人事のように思っているが、番いが出来ればきっとこうなるのだろう。
---ノアが気にしないのだから他人が口を出す事じゃ無いな・・・。
お互い幸せなら、それが正解なのだろう・・・。
感じる幸せなど他人それぞれだ。
窓越しに見る六華は、街灯の薄灯りの中、ひらひらと嬉しそうに踊っているように見えた・・・。
※クリスマスイヴと言うことで、23時にもう一話投稿予定です。
R18です、注意。
348
お気に入りに追加
7,354
あなたにおすすめの小説
【完結】捨てられた双子のセカンドライフ
mazecco
ファンタジー
【第14回ファンタジー小説大賞 奨励賞受賞作】
王家の血を引きながらも、不吉の象徴とされる双子に生まれてしまったアーサーとモニカ。
父王から疎まれ、幼くして森に捨てられた二人だったが、身体能力が高いアーサーと魔法に適性のあるモニカは、力を合わせて厳しい環境を生き延びる。
やがて成長した二人は森を出て街で生活することを決意。
これはしあわせな第二の人生を送りたいと夢見た双子の物語。
冒険あり商売あり。
さまざまなことに挑戦しながら双子が日常生活?を楽しみます。
(話の流れは基本まったりしてますが、内容がハードな時もあります)
冷遇された第七皇子はいずれぎゃふんと言わせたい! 赤ちゃんの頃から努力していたらいつの間にか世界最強の魔法使いになっていました
taki210
ファンタジー
旧題:娼婦の子供と冷遇された第七皇子、赤ちゃんの頃から努力していたらいつの間にか世界最強の魔法使いになっていた件
『穢らわしい娼婦の子供』
『ロクに魔法も使えない出来損ない』
『皇帝になれない無能皇子』
皇帝ガレスと娼婦ソーニャの間に生まれた第七皇子ルクスは、魔力が少ないからという理由で無能皇子と呼ばれ冷遇されていた。
だが実はルクスの中身は転生者であり、自分と母親の身を守るために、ルクスは魔法を極めることに。
毎日人知れず死に物狂いの努力を続けた結果、ルクスの体内魔力量は拡張されていき、魔法の威力もどんどん向上していき……
『なんだあの威力の魔法は…?』
『モンスターの群れをたった一人で壊滅させただと…?』
『どうやってあの年齢であの強さを手に入れたんだ…?』
『あいつを無能皇子と呼んだ奴はとんだ大間抜けだ…』
そして気がつけば周囲を畏怖させてしまうほどの魔法使いの逸材へと成長していたのだった。

【完結】兄の事を皆が期待していたので僕は離れます
まりぃべる
ファンタジー
一つ年上の兄は、国の為にと言われて意気揚々と村を離れた。お伽話にある、奇跡の聖人だと幼き頃より誰からも言われていた為、それは必然だと。
貧しい村で育った弟は、小さな頃より家の事を兄の分までせねばならず、兄は素晴らしい人物で対して自分は凡人であると思い込まされ、自分は必要ないのだからと弟は村を離れる事にした。
そんな弟が、自分を必要としてくれる人に会い、幸せを掴むお話。
☆まりぃべるの世界観です。緩い設定で、現実世界とは違う部分も多々ありますがそこをあえて楽しんでいただけると幸いです。
☆現実世界にも同じような名前、地名、言葉などがありますが、関係ありません。

侯爵令息セドリックの憂鬱な日
めちゅう
BL
第二王子の婚約者候補侯爵令息セドリック・グランツはある日王子の婚約者が決定した事を聞いてしまう。しかし先に王子からお呼びがかかったのはもう一人の候補だった。候補落ちを確信し泣き腫らした次の日は憂鬱な気分で幕を開ける———
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
初投稿で拙い文章ですが楽しんでいただけますと幸いです。

誰よりも愛してるあなたのために
R(アール)
BL
公爵家の3男であるフィルは体にある痣のせいで生まれたときから家族に疎まれていた…。
ある日突然そんなフィルに騎士副団長ギルとの結婚話が舞い込む。
前に一度だけ会ったことがあり、彼だけが自分に優しくしてくれた。そのためフィルは嬉しく思っていた。
だが、彼との結婚生活初日に言われてしまったのだ。
「君と結婚したのは断れなかったからだ。好きにしていろ。俺には構うな」
それでも彼から愛される日を夢見ていたが、最後には殺害されてしまう。しかし、起きたら時間が巻き戻っていた!
すれ違いBLです。
初めて話を書くので、至らない点もあるとは思いますがよろしくお願いします。
(誤字脱字や話にズレがあってもまあ初心者だからなと温かい目で見ていただけると助かります)
ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?
音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。
役に立たないから出ていけ?
わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます!
さようなら!
5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!

婚約者に会いに行ったらば
龍の御寮さん
BL
王都で暮らす婚約者レオンのもとへと会いに行ったミシェル。
そこで見たのは、レオンをお父さんと呼ぶ子供と仲良さそうに並ぶ女性の姿。
ショックでその場を逃げ出したミシェルは――
何とか弁解しようするレオンとなぜか記憶を失ったミシェル。
そこには何やら事件も絡んできて?
傷つけられたミシェルが幸せになるまでのお話です。
聖女召喚されて『お前なんか聖女じゃない』って断罪されているけど、そんなことよりこの国が私を召喚したせいで滅びそうなのがこわい
金田のん
恋愛
自室で普通にお茶をしていたら、聖女召喚されました。
私と一緒に聖女召喚されたのは、若くてかわいい女の子。
勝手に召喚しといて「平凡顔の年増」とかいう王族の暴言はこの際、置いておこう。
なぜなら、この国・・・・私を召喚したせいで・・・・いまにも滅びそうだから・・・・・。
※小説家になろうさんにも投稿しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる