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142 ノーザンクロスの冒険者ギルドへ
しおりを挟む雪がちらちらと降り始めたノーザンクロスの街は、雪雲のせいで薄暗い。
まだ夕方も早い時間だというのに、街灯がぽつぽつと灯りだした。
「・・・・・・あの街灯、魔導具だね。ふーん・・・ある程度暗くなると、自動で点灯するように作られているんだ。空気中の魔素を吸収する仕組みで、仄かに暖かくなるようになってる」
ノアが立ち止まってジッと見つめている。
鑑定しているのだろう。
普通はそこまでの精度は無いんだけどな。
「良く分かるな。積もって見えなくならないように熱で雪を溶かすんだ。主要な道にも埋め込まれていて、雪が積もりにくくなっている。竜王国にも雪は降るから、こういう魔導具は一般的なんだ」
「へえ。俺の住んでいたところは暖かいから知らなかったな。アークと旅が出来るようになって良かった。知らないことがたくさんあって、それを知ることが出来て嬉しい」
そういってはにかむノアが可愛過ぎてこのまま宿に引き返したい!
そう思っていても、冒険者ギルドには顔を出さねば・・・。
ヴァンはアークの気持ちに気付いていて、フンと鼻息を吐いた。
ノーザンクロスの冒険者ギルドは雪に耐えられるように頑丈に作られていた。
石組みの無骨な壁で扉も二重構造。
「雪と寒さ対策なのかな?」
雪の多い土地ならではなのか。
だが室内は明るい壁紙で、もちろん空気も暖かい。
これも魔導具か。
ノアは初めて目にする寒さ対策の魔導具に興味津々で周りの冒険者や職員の視線に気付いていない。
またぴるぴるする前にと、アークは空いている受付窓口に行って声をかける。
「Sランクのアルカンシエルとノアと従魔のヴァンだが、ここのギルマスはいるか? 会えるなら会いたいんだが・・・」
「---! し、少々お待ち下さい」
慌てた様子の職員がギルマスの予定を確認してくれる。
「急いでないから、無理なら良い。顔出しだけなんでな。暫く滞在予定だし・・・」
アークがそう言ったら慌てて職員が応えた。
「だっ大丈夫です! すぐにお会いになるそうです。こちらへどうぞ!」
そういって二階の執務室に案内してくれた。
その間もノアは周りを観察するのに忙しくて、ギルマスの執務室に向かっていることに気付いていなかった。
そしてヴァンは相変わらずアークのフードで寝ている。
そんな二人(と一匹)をギルド中の者が見つめていた。
「こちらにギルドマスターがおります」
「ありがとう」
職員がノックをして中に入れてくれた。
ここで漸く、ノアはギルマスの部屋に来たことに気付いた。
「・・・ごめん、アーク・・・」
どれだけ魔導具や内装に気を取られていたんだと、シュンとして俯いたノアの頭をぽんと撫でる。
「謝る事じゃないよ。寧ろ人見知りが出なくて良かった。だから気にするな」
「・・・うん」
・・・俺っていつまで経っても人見知り酷くて、アークに迷惑かけてる。
そう思っていたら、アークが考えを読んだように耳元で囁いた。
「そのままで良いんだぜ。俺だけいれば良いんだろ?」
その声にドキッとした。
ノアはかあっと頬を染めてコクコク頷いた。
『・・・・・・ヤンデレ。それを許容するノアもノアだな。・・・・・・ある意味似た者夫夫か?』
ヴァンがぼそっと聞こえない声で呟いた。
---アークには聞こえていたようでニヤリとされたが・・・。
まあ、幸せそうだから別に良いか、とヴァンは何度寝か分からない眠りについたのだった。
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