迷い子の月下美人

エウラ

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193 大公家と初対面 2

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ゲンナリしながらサロンに向かうと、今か今かと待ち構えている4人が見えて、更に気分が下がった。

何時もそうだった。

俺は二人の兄達からかなり歳が離れている。
長兄は今230歳で、次兄は227歳。
長命故に子が出来にくい竜人としてはポンポンと生まれた方だ。

だがそのあとはぱったり。

それから約200年後、俺が生まれた。

二人とも好一対の為、周りが呆れるほど愛し合っている。
何時までもラブラブで、上の兄2人が成人してもところ構わず、目のやり場に困るほどイチャイチャしていたらしい。
・・・・・・さすがに人前で一線は越えなかったが、それに近しいことをしてはいたようだ。

・・・ご苦労様。

まあ、何が言いたいかというと、そんなイチャイチャの挙げ句に授かった歳の離れた三男を猫可愛がりに溺愛したのだ。

しかも邸中の者がだ。
上は言わずもがな大公家の夫夫、下は使用人まで。
更には大伯父にあたる竜王陛下までも。

---俺、良く厚顔無恥で傲岸不遜に育たなかったな!
俺、偉い!なんて考えつつ。

「・・・ただいま戻りました」
「うむ。無事で何より!」
「「「お帰り!!」」」

扉を開けるとまずは挨拶を交わす。
皆が帰宅を喜んでくれる。

・・・確かに、ノアの言うとおりだな。
家族や知人に迎え入れられて、帰る場所がある。
当たり前の事が実は奇跡だったんだと・・・。

さっきのノアの少し寂しげな顔が浮かんだ。

「---どうかしたか?」

父の言葉にハッとする。
物思いに耽ってしまっていた。

「いや、その。竜王国に着いたときの事を思い出して」
「何々? 聞いても良い話?!」

母がグイグイ来る。
ちょっと離れてくれ。

「そういえばノアちゃん、寝ちゃったんだって?」
「ええ、気疲れしてたようで。初めて実際に会うという事で知らず知らずのうちに緊張していたみたいで」
「じゃあ、暫くはアークの話を聞いても時間は大丈夫だな? さあさあ、憂いは晴らしておかないと! ほらほら!」

そういって母に背中を押されてソファに座らせられた。

そっと置かれた紅茶を一口飲んで唇を湿らせると、仕方なく話し出した。

「・・・竜王国の門の出入り口で、門衛達に『お帰りなさい』って声をかけられて、何時ものことだと言ったら、ノアが『こうしてお帰りって言ってくれる人がいて帰る場所があるというのは幸せな事だよ』って・・・」
「・・・それは・・・」

両親も兄達も執事達も、その場にいた全員がシンとした。

「---今まで、育てのお爺さんが唯一、その人でその場所だったんだろう。その事は、番った最初に聞いて知っていた。・・・分かっていただったんだ。・・・でも、本当は分かっていなかったのかも」
「・・・アーク」
「それを言ったときのノアが、寂しげな笑顔だったんだ。天涯孤独なノアに、俺、家族になってやるって・・・傲慢だった。もっと早くここに連れて来てやれば良かったかなって・・・」

番った喜びに浮かれて・・・。
ノアはやっと出来た家族に本当はすぐに会いたかったんじゃないかって。

「それはそれは、嬉しそうだったんだ。『こんな俺にたくさんの家族が出来た』って。さっきも、こんな自分を家族と思って受け入れてくれるかなって、不安がって・・・」

アークは両手で顔を覆って項垂れた。
少しの間、その場は静まり返った。

少ししてウラノスが言った。

「アークは間違ってないと思うよ。だって、記録媒体の手紙に映るノアは、戸惑いの感情はあったけど、何時だってアークの側で嬉しそうだった」
「・・・そうだね。あまり顔には出ないけど、アークが大好きって気持ちが溢れてた。幸せな顔してたよ」

アンジェリクも頷いている。
兄達も、周りの使用人も、うんうんと首を振っていた。

「---そ、うかな・・・」
「好一対の私達が言うんだ。気持ちが何となく通じるだろう? それともノアの負の感情でもあったか? ん?」

ウラノスが微笑んで聞いてきた。
少し考えて・・・。

「---いや、そういえば、ないかも」

ノアは何時も驚いたり不安になったりはするけど、俺に対して嫌な気持ちを持ったことはなかったように思う。

「家族はさ、こう言ってはアレだけど、今のアークにとってノアが一番のように、ノアにとってもアークが一番で。つまりお互いが一番同士って事なんだよ。俺達は家族だけど二人にとってはその次の位置付けなんだ」
「そうそう。だからノアがアークよりも私達を選ぶことはないと思うぞ?」

ウラノスとアンジェリクがそう言った。

・・・ん?

「---ん? なんの話だ?」
「え? ノアが私達を構うのがイヤだったんじゃないの? だから会わせたくなくて観光だとか蜜月って理由つけてのんびり帰ってきたんでしょ?」
「・・・・・・え?」
「母さん、反対だろう? からだろう」
「どっちでも良いよ、そんなのどうせ同じ事だし」
「・・・・・・何、どう・・・え?」
「・・・あらイヤだ、この子、無自覚?」
「竜人の独占欲」
「肉親にも嫉妬するんだなあ」
「・・・・・・は?」
「あのアークがねえ・・・」
「番いって凄いなあ」

---は?
嫉妬?

立て続けに話す家族の言葉を噛み砕いてみる。

「---・・・・・・は、あぁ。・・・・・・そういう・・・」

家族の事ももちろん嘘じゃないし、紹介もちゃんとするつもりだったけど、そうか。
俺、無意識にノアを囲おうとしてたんだ。
酷い独占欲に嫉妬。
巣に閉じ込めて誰にも見せたくない。

「・・・・・・閉じ込めるは無かったんだけどな」
「番い至上主義と言っても、欲望には勝てない事もある。でも彼は黙ってお前に閉じ込められるようなじゃあ無いだろう?」

そういってアークを見つめたウラノスは、優しげな雰囲気を消して大公家当主の顔になった。


「---アルカンシエル、お前、何処まで知っている?」


サロンの空気が酷く張り詰めたのが分かった。







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