迷い子の月下美人

エウラ

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125 迷宮踏破と収束

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※この場合の収束は『混乱が落ち着く』という事です。




奥からずずずっと這いずってきたのは、全長10mはあろうかという毒蛇だった。

ボス部屋は20m四方のサイズだが、さすがにその巨体は圧迫感があった。

「アーク、状態異常無効化の魔法付与エンチャントかけるよ。毒は効かないからね。それ以外も効かないけど」
「サンキュ!」

アークと自分にエンチャントする。

「爬虫類って変温動物だよな。だったら寒さに弱いかな?」
「だと思うが・・・フェンリルヴァンが何度も倒してるって言うんだ、氷系の魔法は効くんだろう」
『はは、気付いたか』
「そもそもお前は氷の幻獣だろうが。他に魔法が使えるのか?」
『失礼な。これでも風魔法も使えるぞ・・・・・・少しだが』

最後は尻すぼみになって、アークに大笑いされた。

「仲が良いねえ」
『そうだろう!』
「何処が?!」
「・・・そういうところ」

内容はともかく、反応が一緒なんだもの。
きっと長い付き合いなんだろうなあ。

「ノア、凍らせて動きを止めてくれ」
「了解『ダイアモンドダスト』」

ノアの魔法であっと言う間に部屋の温度が氷点下まで下がった。

ミドガルズオルムの動きが鈍くなった。
ソレに合わせて尻尾の先から霜が付いてきて、徐々に氷になり固まっていく。

体の半分ほどが凍り付いて動かなくなった。

残る上半身は凍るまではいかないにしても、かなり動きが緩慢としていた。

そうなると、ただデカいだけの魔物。

毒を大量に吐き出してもアーク達はひょいひょいと避けていて当たらない。
まあ、エンチャントで当たっても無効化されるが。

最後は二人して、大剣とバスタードソードで細切れにしてお終い。

ぱあっと消えて、討伐の報酬が残された。

「ミドガルズオルムの鱗と牙、うわ、毒袋もあるな。後は大量の蛇肉・・・美味いのか?」
「鱗と牙は武器や防具の他に錬金術の材料にもなるし、毒袋も解毒薬にも毒薬にもなるよ。肉は淡白な白身で蒲焼きとか良いねえ・・・滋養強壮にもなるって。薬にもなりそう」

ノアがほくほくで鑑定をしている。
それを聞いていたアークは、内心でガッツポーズをした。

---滋養強壮・・・またたび酒的なヤツじゃないか?
これでもっとノアを抱き潰せる可愛がれるな・・・。

アークの思考を何となくヴァンは察したが、ノアは全く気付いていなかった。

『・・・やれやれ。リンドヴルムの子は天然か』

呆れながらも愛おしそうに見つめていたのだった。



「さて、一段落ついた。これで一応は間引きが完了したわけだ」
「そうだね。戻らないと、皆、心配しているよね。・・・・・・ところで、ヴァンはどうするの?」

アークとノアはヴァンに向き合った。
ヴァンはキョトンと首を傾げる。

---いや、ノアの真似したって可愛くねえ。
---ヴァン、可愛い---!

お互い、相反する反応を見せた。

ソレに噴き出した(ように見える)ヴァンは魔法で自身を仔狼サイズに変化させてアークの肩に乗ると言った。

『当然、お主らについて行くに決まっておろうが』
「「だよな・・・」」

アークは溜息を吐き、ノアは興奮で鼻息を荒くして言った。


その後、転移魔法陣に乗って地上一階層に戻ったのは、払暁ふつぎょう(空が白み始める頃)の時間だった。

迷宮を出てすぐにノアが出入り口を氷壁アイスウォールで固めて魔物が出られないようにした。

少し待って、出て来ないことを確認して。
思わず深い溜息を吐いた。

「・・・・・・ああ、長かったような短かったような・・・・・・」
「・・・・・・なんか、精神的なモンで疲れたな」
『お疲れさん、だな』
「---今回の原因はお前じゃないのか?」
「・・・え?」
『・・・・・・何の事かの?』

しれっと視線を逸らすヴァンに半目で睨むアーク。
疑問符を浮かべるノア。

「---まあ、良い。とりあえず帰ろう。ノア、翔ぶぞ」
「あ、うん」

そう言って二人して翼を顕現して翔んだ。
ヴァンはアークの肩にくっついたままだ。

『やはりその翼は彼奴のモノだが・・・・・・何か凄い魔力モノも混じっておるな・・・?』
「---ああ、精霊王の魔力だな」
『ほほう、精霊王の---ハア?!』
「俺達、精霊王の義息子むすこなんだ」
『へえっ?!』
「---ふはっ、お前のその驚きようでちょっと溜飲が下がったわ」
『・・・お前ら一体何なんだ---?!』

翔びながらわちゃわちゃしている二人・・・と一匹?を遠目で見ながらルドヴィカは思った。

---アイツら何やってんだ? と。



こうして朝日が昇る頃、てんやわんやだったスタンピードも漸く落ち着きを見せたのだった。






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