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107 要塞都市ライズ
しおりを挟む猫獣人の村を出てからは大きなトラブルも無く、途中の小さな村や小規模な町をスルーして野営しながら進むことおよそ一ヶ月。
段々と冷えてくる空気と、様変わりしてきた周りの景色に驚きながら着いた先には、分厚くて高い石組みの壁が無骨にそびえ立っていた。
「---はえぇ・・・大きい」
ノアが思わず見上げて呟く。
20mはあるんじゃないだろうか。
見上げすぎてフードが脱げたことに気付いてないノア。
「ノア、俺達はアッチに並ぶぞ」
アークがノアの手を引っ張って誘導する。
例によって冒険者専用の出入り口である。
未だに上の方を見ながらポカンとしているノアは引っ張られるまま歩いて行った。
「?! ・・・冒険者ギルドのタグを見せてくれ」
冒険者専用出入り口の両脇に立つ門衛が、アークとフードが外れたノアを見て驚いていたので首を傾げる。
---驚く要素、あったかなあ?
アークは特に何も言わずに普段通りだったのでノアもそれ以上気にしなかったが。
---俺達は見た目からして普通じゃないからなあ。
ノアは無自覚だけど、とアークは頭の中で思っていた。
門衛に冒険者ギルドのタグの提示を求められたので出す。
アークが先に提示して、慌ててノアも首から出して見せると、門衛は再び動揺したがすぐに何もなかったようにしゃきっとした。
「タグの確認はオッケーです。ようこそ要塞都市『ライズ』へ! 歓迎致します、Sランク冒険者殿!」
門衛のその声にノアがビクッとし、周りの門衛や冒険者達、一般門の人達にざわめきが起こった。
アークは何時ものようにノアを抱き締める。
「---俺の番いは人見知りなんだ。あんまり騒がないでやってくれるかな」
「・・・し、失礼しました!」
大きな声の門衛が恐縮気味に謝った。
気にするなと言うように、アークはにこっと笑って言った。
「ここのお勧めの宿とか教えてくれるか?」
「それでしたら、宿は『黄金の角』でその一階の食事処の『白樺亭』が美味いですよ。値段は張りますが、防犯性にも優れております」
そう言ったのは反対側にいた門衛だった。
「どちらも家族経営で、オーナーがご兄弟なんですよ。それぞれの御家族が協力しあって宿と食事処を切り盛りしてます。宿には泊まった事がありませんが食事は保証しますよ!」
いつの間にかわさわさと集まってきた他の門衛達が情報をくれた。
「冒険者ギルドは入って中央の広場を右に行きます。反対に左側が薬師ギルドです。・・・あの、番い殿? 冒険者だけど、薬師でもありますよね? 薬師ギルドのタグも見えたので・・・」
「---ああ、そういう・・・ありがとうございます。これですね?」
ノアがキョトンとしたあと、納得の顔で首のチェーンを引っ張り出して見せた。
途端にざわっとなる。
「---く、薬師マイスター・・・・・・?!」
「マジか、初めて見たわ・・・!」
「え、Sランク冒険者って言ってなかった?! いや、どっちも凄いんだけど!」
などなど・・・。
---ここでの騒ぎが都市中に広まるのはあっという間だろう。
・・・やれやれ、ここでも何かやらかしそうだなあ・・・・・・。
アークは密かに溜息を吐いた。
だがアークは基本、ノアのする事に文句は言わない。
トラブルがあれば自分が処理すれば良いと思っているからだ。
そしてそれが可能だからこその番い至上主義なのである。
とりあえずはお勧めの宿とやらに向かおう。
そうして着いた先は、白い壁に、この地に適応した植物が花を咲かせていて、カラーリーフの蔦が良い具合に這っている宿屋兼食事処の『黄金の角』『白樺亭』だった。
提げられた看板には白樺に黄金の角が描かれていた。
「・・・・・・可愛い」
密かに可愛い物好きなノアが明らかに興奮してぴるぴるしている。
最近よく表情が動くようになったノアが、今、この瞬間も頬をほんのり赤くして綻んでいて、アークの脳内も『ノアが可愛い』を連呼していた。
それをおくびにも出さずに中に入ると、受付の従業員に声をかけた。
「すまない。門衛にここを勧められたんだが、部屋は空いているか?」
「いらっしゃいませ! うおっ・・・?! おおお部屋ですね? 少々お待ちください! ---父さ---ん!!」
顔を出した受付の青年が慌てて奥に入っていってしまった。
「・・・・・・なんだ! 煩いぞエド!」
「だってだってすっごい美形さん二人が---!! 俺じゃあ接客緊張するよ---! 無理だよ---!」
「はああ?!」
---なんてやり取りが奥から聞こえて来て、アークとノアは顔を見合わせてクスリと笑った。
「・・・家族経営って言ってたね」
「ああ、雰囲気も柔らかくて良いんじゃないか?」
「そうだね。部屋、あるといいねえ」
なんて話していたら奥からバタバタと足音がした。
「お、お客様、お待たせしました! 息子が失礼を・・・」
そう言ってやって来たのは40代のがっちりした熊獣人で、さっきの受付にいた人もよく見れば焦げ茶色の熊耳が付いていた。
そして息子の指摘通りの美形二人(正確には番い)が立っていて、見た瞬間固まった。
「だから言ったろ?!」
どや顔をする息子。
いや、それ、どや顔するところじゃない!
「---し、失礼しました! それでお泊まりですか?」
再起動したオーナー?らしき熊獣人さんが話し出した。
ああ良かった。
「ああ、二人で一部屋を。俺達は番いなんで。あるかな?」
「はい、ございます。お食事はここの食事処で朝昼晩とも食べられますが、その都度、別料金がかかります。ですので、宿代は部屋の料金のみになりますね。部屋には簡易のシャワーが付いてまして料金は無料ですが、石鹸などはご自分でご用意お願いします」
そこは当然だな。
浄化魔法でお風呂に入らないヤツも多いからな。
「じゃあ、ひとまず一週間。延長は・・・」
「最終日の前日までに延長の申し込みをお願いします」
「分かった」
「・・・では、ギルドタグを拝見致します・・・・・・冒険者ですよね?」
タグの提示を求めてからハッとして聞き直してくるオーナー?にアークはふはっと笑ってタグを出した。
ノアも続けて出す。
「ありがとうございます---ぅ?! は?! Sランク?!」
「へえっ?! はあ?! す・・・凄え・・・オリハルコン・・・え? 二人とも?!」
アークとノアは門での出来事がここでも起こって、声を出して笑った。
「しばらく厄介になる。よろしくな。アークでいい」
「ノアです。よろしく」
ここでも楽しく過ごせそうだ。
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