103 / 534
99 閑話 淡い恋心(sideノア)
しおりを挟む※アークと出逢う一年くらい前の話がメインです。冒頭の失恋相手の事とか、以前も気にかけて下さった読者さんがいたので、書いてみました。
読まずとも本編に影響はありません。
俺が住むアインの街には、人気の雑貨店がある。
代々昔から続く老舗らしいそこは、今は改築され、可愛らしい外装の店舗になっている。
そこに跡継ぎでいわゆる看板息子と呼ばれる、雑貨店にお似合いの可愛らしい青年がいた。
歳は俺と同じだが、もっと下に見えるその容姿で売り子をしているので、当然、店は繁盛していた。
俺は可愛らしい雑貨も好きなので、店を通り過ぎる時に何時もチラッと店先に飾られたモノを流し見ていたのだが。
その日はたまたま、店内にいた冒険者らしき男と目が合った・・・ように思う。
いや、一瞬だし、コッチはフードを深く被っていたし、気のせいだろう。
だけど、太陽のような黄金色の髪と綺麗な空色の瞳が頭の隅に残っていた。
「---お客様ぁ、どうしましたぁ?」
その冒険者は暫く窓の外を見つめていたが、看板息子に声をかけられてハッとした。
「・・・いや、さっき店の前を通ったローブ姿の青年が・・・」
「---ああ、アレね? アレは駄目ですよ、お客様ぁ! 偏屈で無愛想で無口な、薬を作るだけしか能が無い役立たずですってぇ」
「・・・・・・そうなのか?」
「街の皆がそう言ってますぅ。それよりもぉ、何か買っていって下さいねぇ?」
甘えたように腕に絡みつく看板息子に気を取られて、この後冒険者はローブの青年・・・ノアの事を頭から消していた。
しかし、それから再会したのはすぐだった。
冒険者ギルドのクエストボードの前にいるローブの青年に既視感を覚えて、声をかけた。
青年は無言でスッと距離をとって逃げるように出ていってしまったが。
ギルド職員に聞いたところ、Aランク冒険者で人見知りが激しいから、初対面では何時ものことだと。
妙に気になって、それからは見かけるたびに声をかけ続け一ヶ月、何とか挨拶をするくらいにはなった。
・・・しかし、最近この街に移って来たローランはノアがこの街で村八分なのを知らなかったのだ。
ノアに声をかけるたびに、街の皆に、如何にノアが駄目人間で人嫌いかを訥々と諭され、それを信じてしまったローランは次第に距離を置き出した。
姿を見かけても声をかける事をしなくなり、目も合わせない。
ノアは元々そういう待遇に慣れていたので、やはり気紛れや物珍しさだったのだな、と何時もの生活に戻ったのだが・・・。
---人の好意なんて、そんなものか・・・。
淡い恋心に育ちつつあったノアの胸はチクリと痛んだ。
結局、独り。
---でも、遠くから思うだけでもいいよな。
そう自分を納得させた。
暫くして、彼が雑貨店の跡取り息子とデキ婚したと聞いた。
そういえば、最近、冒険者を辞めたらしいと・・・。
そっか、そういうことか。
俺は誰にも知られずに失恋したのか。
・・・失恋って言っていいのかも分からないくらいの感情だったけど。
幸せそうな二人を見るのが少し辛くて、連日のように迷宮に潜っては八つ当たり気味に魔物を倒してドロップアイテムを拾う。
その日も何時ものようにギルドに寄ってポーションを卸すと迷宮に籠もった。
途中の階層でテントを張って、竈にスープをかけて煮込む間にポーション作製・・・出来ずにテントから慌てて出てみれば。
竈の前で鍋をかき混ぜる美丈夫が・・・。
---いや、誰?
アークとの出逢いからのその後の怒涛の展開に、俺の些末な失恋の記憶はすっかり上書きされて、一欠片も思い出す事なく綺麗サッパリ忘却の彼方へと飛んでいった。
---そんな程度の淡い恋心とも言えないものだったんだ。
優しくされて、ちょっと絆されただけの・・・。
今もコレからも、俺にはアークだけだよ。
・・・・・・だからアーク、そんなに牽制しなくても俺はアーク以外には靡かないから。
もう番いなんだから。
一生アークだけの俺だよ。
嫉妬深い、そんなアークも大好きだけどね。
268
お気に入りに追加
7,355
あなたにおすすめの小説
夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました
氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。
ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。
小説家になろう様にも掲載中です
【完結】実はチートの転生者、無能と言われるのに飽きて実力を解放する
エース皇命
ファンタジー
【HOTランキング1位獲得作品!!】
最強スキル『適応』を与えられた転生者ジャック・ストロングは16歳。
戦士になり、王国に潜む悪を倒すためのユピテル英才学園に入学して3ヶ月がたっていた。
目立たないために実力を隠していたジャックだが、学園長から次のテストで成績がよくないと退学だと脅され、ついに実力を解放していく。
ジャックのライバルとなる個性豊かな生徒たち、実力ある先生たちにも注目!!
彼らのハチャメチャ学園生活から目が離せない!!
※小説家になろう、カクヨム、エブリスタでも投稿中
フェンリルさんちの末っ子は人間でした ~神獣に転生した少年の雪原を駆ける狼スローライフ~
空色蜻蛉
ファンタジー
真白山脈に棲むフェンリル三兄弟、末っ子ゼフィリアは元人間である。
どうでもいいことで山が消し飛ぶ大喧嘩を始める兄二匹を「兄たん大好き!」幼児メロメロ作戦で仲裁したり、たまに襲撃してくる神獣ハンターは、人間時代につちかった得意の剣舞で撃退したり。
そう、最強は末っ子ゼフィなのであった。知らないのは本狼ばかりなり。
ブラコンの兄に溺愛され、自由気ままに雪原を駆ける日々を過ごす中、ゼフィは人間時代に負った心の傷を少しずつ癒していく。
スノードームを覗きこむような輝く氷雪の物語をお届けします。
※今回はバトル成分やシリアスは少なめ。ほのぼの明るい話で、主人公がひたすら可愛いです!
【書籍化確定、完結】私だけが知らない
綾雅(要らない悪役令嬢1/7発売)
ファンタジー
書籍化確定です。詳細はしばらくお待ちください(o´-ω-)o)ペコッ
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。
優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。
やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。
記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。
【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ
2024/12/26……書籍化確定、公表
2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位
2023/12/19……番外編完結
2023/12/11……本編完結(番外編、12/12)
2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位
2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」
2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位
2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位
2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位
2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位
2023/08/14……連載開始
もふもふと始めるゴミ拾いの旅〜何故か最強もふもふ達がお世話されに来ちゃいます〜
双葉 鳴|◉〻◉)
ファンタジー
「ゴミしか拾えん役立たずなど我が家にはふさわしくない! 勘当だ!」
授かったスキルがゴミ拾いだったがために、実家から勘当されてしまったルーク。
途方に暮れた時、声をかけてくれたのはひと足先に冒険者になって実家に仕送りしていた長兄アスターだった。
ルークはアスターのパーティで世話になりながら自分のスキルに何ができるか少しづつ理解していく。
駆け出し冒険者として少しづつ認められていくルーク。
しかしクエストの帰り、討伐対象のハンターラビットとボアが縄張り争いをしてる場面に遭遇。
毛色の違うハンターラビットに自分を重ねるルークだったが、兄アスターから引き止められてギルドに報告しに行くのだった。
翌朝死体が運び込まれ、素材が剥ぎ取られるハンターラビット。
使われなくなった肉片をかき集めてお墓を作ると、ルークはハンターラビットの魂を拾ってしまい……変身できるようになってしまった!
一方で死んだハンターラビットの帰りを待つもう一匹のハンターラビットの助けを求める声を聞いてしまったルークは、その子を助け出す為兄の言いつけを破って街から抜け出した。
その先で助け出したはいいものの、すっかり懐かれてしまう。
この日よりルークは人間とモンスターの二足の草鞋を履く生活を送ることになった。
次から次に集まるモンスターは最強種ばかり。
悪の研究所から逃げ出してきたツインヘッドベヒーモスや、捕らえられてきたところを逃げ出してきたシルバーフォックス(のちの九尾の狐)、フェニックスやら可愛い猫ちゃんまで。
ルークは新しい仲間を募り、一緒にお世話するブリーダーズのリーダーとしてお世話道を極める旅に出るのだった!
<第一部:疫病編>
一章【完結】ゴミ拾いと冒険者生活:5/20〜5/24
二章【完結】ゴミ拾いともふもふ生活:5/25〜5/29
三章【完結】ゴミ拾いともふもふ融合:5/29〜5/31
四章【完結】ゴミ拾いと流行り病:6/1〜6/4
五章【完結】ゴミ拾いともふもふファミリー:6/4〜6/8
六章【完結】もふもふファミリーと闘技大会(道中):6/8〜6/11
七章【完結】もふもふファミリーと闘技大会(本編):6/12〜6/18
勇者一行から追放された二刀流使い~仲間から捜索願いを出されるが、もう遅い!~新たな仲間と共に魔王を討伐ス
R666
ファンタジー
アマチュアニートの【二龍隆史】こと36歳のおっさんは、ある日を境に実の両親達の手によって包丁で腹部を何度も刺されて地獄のような痛みを味わい死亡。
そして彼の魂はそのまま天界へ向かう筈であったが女神を自称する危ない女に呼び止められると、ギフトと呼ばれる最強の特典を一つだけ選んで、異世界で勇者達が魔王を討伐できるように手助けをして欲しいと頼み込まれた。
最初こそ余り乗り気ではない隆史ではあったが第二の人生を始めるのも悪くないとして、ギフトを一つ選び女神に言われた通りに勇者一行の手助けをするべく異世界へと乗り込む。
そして異世界にて真面目に勇者達の手助けをしていたらチキン野郎の役立たずという烙印を押されてしまい隆史は勇者一行から追放されてしまう。
※これは勇者一行から追放された最凶の二刀流使いの隆史が新たな仲間を自ら探して、自分達が新たな勇者一行となり魔王を討伐するまでの物語である※
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる