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98 海龍の龍玉(sideオーガスタ領主)
しおりを挟む「これをお納め下さい」
冒険者ギルドのギルドマスターであるスサンダが急にアポイントメントをとってオーガスタ領主の元を訪れた。
領主のミズイーラが対応すると、厳重な箱に収められたモノを渡された。
先だって、森水晶をギルド職員に納品された時の事を思い出して内心ビクビクしていたら、それとは違ったようで、ホッと息を吐いた。
「・・・これは一体、何だ?」
かいもく見当がつかないミズイーラがスサンダに問うと、思ってもみない返答がきた。
「北の迷宮の30階層に棲む『海龍』の『龍玉』でございます」
「---りゅっ・・・?! 真か?!」
思わず叫んで立ち上がってしまったが、それくらいの驚きであった。
アレを倒してドロップさせた者がいるのか?!
壁で控えている侍従も驚愕の顔を隠し切れていない。
「Sランク昇級試験を受けた冒険者がドロップさせたモノでございます。そしてその冒険者は無事にSランク昇級試験に合格致しました。この『龍玉』は記念にと我がギルドに納められたモノ。せっかくですので、領主様へと献上する事に致しました」
「---もしや、その冒険者とは・・・・・・」
それを聞いたミズイーラは、めちゃくちゃ嫌な予感がしていたが念のためにスサンダに聞いてみた。
「ノアと申します」
---やっぱり---!!
壁の侍従も予想がついていたようで、今度は無表情で立っていた。
「聞き及んでいらっしゃると思いますが、Sランク冒険者のアルカンシエル殿の番いでございます」
「・・・・・・聞いている。この前は『森水晶』を納品してくれた。相当な実力者のようだな」
内心ガクブルしながらも顔には出さずに対応する。
スサンダは分かっているのか、少し口の端が上がっているが・・・・・・。
「この街始まって以来の、初昇級です。街中が浮かれております。・・・・・・このまま行けば、迷宮の初踏破も目前かと思われます」
「・・・・・・そこまで・・・?!」
北の迷宮といえば、入るたびにエリアが変わり、魔物も変化する厄介なところだ。
物理特化や魔法特化等の攻略しにくいエリアもあり、中々攻略が進んでいないのが現状だった。
それを攻略出来ると言うのか・・・?!
スサンダを見ると、真顔だ。
これは、攻略出来ると確信しているのか。
確かに竜人とさらに竜人の混血のSランク冒険者二人が本気を出せば、イケるのだろう。
「・・・・・・次に来るときは、また吉報であることを祈る。ご苦労であった」
「・・・では、御前、失礼致します」
スサンダが帰った後、ソファにだらしなく凭れかけた俺を侍従が窘める。
「シャキッとして下さいよ。こちらの『龍玉』は宝物庫でよろしいですか?」
「---あー、うん。それで頼む。・・・・・・はあ、マジで敵に回さなくて良かった。龍玉見るたびに思い出しそうだ・・・」
ミズイーラが苦い顔で言った。
「はいはい、思い出した方が私は嬉しいんですけどね。貴方様はすぐ調子に乗るので、少し控えめなくらいが良いんですよ」
「---辛辣だよなあ、お前、侍従だろ?」
「侍従である前に貴方の乳兄弟ですので。隠居なさっている大旦那様からぞんざいに扱って良いとお許しが出てますので」
そう言われてさらに苦い顔をするミズイーラ。
それをほのほのと笑って侍従は宝物庫に向かった。
・・・まさかこの後、ほんの数日の間に迷宮が初踏破されるとは夢にも思っていないミズイーラだった。
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