98 / 538
94 乗りかかった舟
しおりを挟むあの後アーク達から、大まかに精霊王の件を聞いて倒れそうになったギギルル兄弟。
まあ、そうなるよな。
---さすがに全部を話す訳にもいかないから、母親が古の森に逃げ込んだ後、ノアが精霊王に命を救われた件と大賢者がノアを引き取って育てた件を(精霊王の魔力と父親封印云々を除いて)ザッと話して聞かせた。
「---そんな大層な話を俺等にするんじゃねえよ?!」
ギギがアークに噛み付く。
「死ぬかと思った・・・精霊王とか・・・大賢者とか・・・お伽話のような話・・・・・・」
ルルは顔色が若干青い。
「お前たちは悪いようにしないだろう?」
「しねえよ! しねえけど、気持ちの問題だ!!」
アークは確信犯だな。
それにまだ何か隠してる。
・・・・・・相当ヤバい事柄なんだろうな。
アークがニヤリと笑う。
いやいや、藪蛇だからな、突っ込まねえぞ?!
ノアは純粋に俺等への信頼からだろうが・・・。
「・・・・・・勘弁してくれ」
巻き込みやがって。
ギギとルルは苦い顔をした。
「そういや、大賢者のいたPTって知ってるか?」
急にアークが話を変えてきた。
何だ?
・・・・・・まだ何かあるのか?
隠し事の一つか?
「・・・・・・知っているが、俺達が生まれた頃にはすでに伝説だったな」
「・・・そう言えば二人は何歳なんだ?」
ノアがおずおずと聞いてきた。
そういや、種族とか教えてないもんな。
長命種なのは分かってるだろうが。
「ああすまない、隠してる訳じゃ無いんだが。俺達は魔人族で、350歳だ。そして実は俺達は双子なんだ」
「そうそう」
「---ぇ、そうなんだ? え、双子?!」
「二卵性双生児ってヤツで、あんまり似てはいないかもな」
「色味や体格は似てるけどね」
「双子ってこと自体珍しいからな。長命種は孕みにくいから。大抵は歳の近い兄弟に見られるぜ」
ギギルル兄弟は言われ慣れてるのか気にしない性分なのか、カラカラと笑って言った。
「そっか。長命種って本当に若い見た目なんだね。アークよりも少し年上ぐらいにしか見えない」
ノアがほっとした。
それを見てアークが苦笑している。
「何だ? 何かあったか?」
ギギが心配顔で聞いてくる。
「・・・いや、ノアがな、自分が221歳って事にショックを受けててな」
「・・・・・・え、ああ、そういや200年以上前の出来事だもんな。でも、何で・・・・・・あ、あー・・・」
思い至って納得した。
「そういや200年ずっと寝てて、目覚めて21年だって言ってたな、精霊王の件の話で。・・・そりゃあ実質21年しか生きてないのにいきなり200年歳くってたってなりゃあ・・・うん、そうだよな」
ギギが苦笑した。
ルルはそれに対してなんてこと無いように言った。
「別に拘んなくていいんじゃ無いの? お爺さんに育てられてアークと出会った今があれば、年齢なんて関係ないよ?」
長命種の200年なんて瞬きくらいの時間だよ、と言うルルに、そっか、そうだよねと微笑んだノアが可愛すぎる!
ルルと悶えたら殺気が飛んできた。
---いやいや、そういう感情じゃ無いから!!
だからアーク、威圧すんなって!
「ゴホンッ---で? その大賢者のPTが何だってんだ?」
「・・・・・・うーん、そうだな・・・」
ギギが仕切り直す。
アークがどう言おうか少し考えているうちにノアがポロッと零した。
「父さんが・・・」
「---へ?」
「爺さんのPT仲間だったって」
「・・・・・・は??」
ギギとルルがギョッとして固まった。
アークはあちゃあ、という顔をしている。
ギギとルルが錆びた道具のように、ギギギ・・・と首を動かしてアークを見た。
「・・・・・・まあ、ぶっちゃけて言うと、ラグナロク・ニヴルヘイムのPT仲間の竜人が父親だそうだ」
精霊王の件で倒れそうだったからどう上手く言おうかと思案したんだが、手遅れだったようだ。
ノアのフライングで、アークはもう良いかと開き直った。
「精霊王から聞いたのは竜人ということくらいだ。ノアの瞳の色が父親の色だとお爺さんが言ってたらしい。それくらいしか分からない」
アークの説明を聞いたギギはふむ、と考える。
「・・・・・・確かに伝説と謳われた彼らのPT仲間に竜人がいたのは聞いたことがある。だが、かなり昔にPTを解散して個々に活動していたようだから詳しくは分からないな」
ギギが思い出すようにしながら話してくれたが、ルルも同じような情報しか持っていないらしい。
「・・・・・・やはり竜王国に帰らないと情報が集まらないかな・・・」
ふむ、とアークが思案する。
ノアも仕方ないと溜息を吐いた。
「今回は母さんの事が分かっただけでも凄い事だし。思ったよりも早く知れて良かった。それにいい出会いもあったし」
「・・・そうだな。助かったよ、ありがとう二人とも」
「いや、少しでも役に立てたなら良かった」
「本当だよ。素晴らしい出会いだった。うちの父さんも、ノアの事を知ったらきっと喜ぶよ。・・・知らせてもいいかな? ノア、アーク」
ルルが眉を下げて聞いてきた。
きっと二人の父親は今も心の何処かで黒兎人の事で罪悪感を持っているのだろう。
「もちろん。少しでも安心させてやってくれ」
「---ありがとう。必ず・・・・・・」
「・・・すまない、ありがとう」
ほっとしたルルに、同じ思いだったのだろう、ギギも頭を下げる。
「---じゃあ、はい! 湿っぽい話はこれでお終い!!」
ノアが手を合わせて、パンッと音を立てた。
「そうだな。今日は本当にありがとう。楽しかったよ」
「---ああ、美味しかったし楽しかったよ」
「何かあれば冒険者ギルドに言付けてくれ。俺達はあちこち寄り道しながら竜王国に向かう予定だ」
「乗りかかった舟だ。俺達も何か手がかりを探してみよう。竜王国にも行ってみたかったんだ。ここの迷宮も適当に熟して一度帰郷して親父に会いに行ってくる。そうしたら竜王国に向かおう」
「ああ、楽しみに待ってる」
お互いの予定を教え合って、ギギ達は宿から去って行った。
「とりあえず、ここの迷宮を踏破してからだな」
「---うん、そうだね!」
食材楽しみーなんて言っているノアを愛でつつ、久しぶりの故郷に思いを馳せるアークだった。
397
お気に入りに追加
7,354
あなたにおすすめの小説

侯爵令息セドリックの憂鬱な日
めちゅう
BL
第二王子の婚約者候補侯爵令息セドリック・グランツはある日王子の婚約者が決定した事を聞いてしまう。しかし先に王子からお呼びがかかったのはもう一人の候補だった。候補落ちを確信し泣き腫らした次の日は憂鬱な気分で幕を開ける———
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
初投稿で拙い文章ですが楽しんでいただけますと幸いです。

【完結】兄の事を皆が期待していたので僕は離れます
まりぃべる
ファンタジー
一つ年上の兄は、国の為にと言われて意気揚々と村を離れた。お伽話にある、奇跡の聖人だと幼き頃より誰からも言われていた為、それは必然だと。
貧しい村で育った弟は、小さな頃より家の事を兄の分までせねばならず、兄は素晴らしい人物で対して自分は凡人であると思い込まされ、自分は必要ないのだからと弟は村を離れる事にした。
そんな弟が、自分を必要としてくれる人に会い、幸せを掴むお話。
☆まりぃべるの世界観です。緩い設定で、現実世界とは違う部分も多々ありますがそこをあえて楽しんでいただけると幸いです。
☆現実世界にも同じような名前、地名、言葉などがありますが、関係ありません。

公爵家の五男坊はあきらめない
三矢由巳
BL
ローテンエルデ王国のレームブルック公爵の妾腹の五男グスタフは公爵領で領民と交流し、気ままに日々を過ごしていた。
生母と生き別れ、父に放任されて育った彼は誰にも期待なんかしない、将来のことはあきらめていると乳兄弟のエルンストに語っていた。
冬至の祭の夜に暴漢に襲われ二人の運命は急変する。
負傷し意識のないエルンストの枕元でグスタフは叫ぶ。
「俺はおまえなしでは生きていけないんだ」
都では次の王位をめぐる政争が繰り広げられていた。
知らぬ間に巻き込まれていたことを知るグスタフ。
生き延びるため、グスタフはエルンストとともに都へ向かう。
あきらめたら待つのは死のみ。
冷遇された第七皇子はいずれぎゃふんと言わせたい! 赤ちゃんの頃から努力していたらいつの間にか世界最強の魔法使いになっていました
taki210
ファンタジー
旧題:娼婦の子供と冷遇された第七皇子、赤ちゃんの頃から努力していたらいつの間にか世界最強の魔法使いになっていた件
『穢らわしい娼婦の子供』
『ロクに魔法も使えない出来損ない』
『皇帝になれない無能皇子』
皇帝ガレスと娼婦ソーニャの間に生まれた第七皇子ルクスは、魔力が少ないからという理由で無能皇子と呼ばれ冷遇されていた。
だが実はルクスの中身は転生者であり、自分と母親の身を守るために、ルクスは魔法を極めることに。
毎日人知れず死に物狂いの努力を続けた結果、ルクスの体内魔力量は拡張されていき、魔法の威力もどんどん向上していき……
『なんだあの威力の魔法は…?』
『モンスターの群れをたった一人で壊滅させただと…?』
『どうやってあの年齢であの強さを手に入れたんだ…?』
『あいつを無能皇子と呼んだ奴はとんだ大間抜けだ…』
そして気がつけば周囲を畏怖させてしまうほどの魔法使いの逸材へと成長していたのだった。
緑宝は優しさに包まれる〜癒しの王太子様が醜い僕を溺愛してきます〜
天宮叶
BL
幼い頃はその美貌で誰からも愛されていた主人公は、顔半分に大きな傷をおってしまう。それから彼の人生は逆転した。愛してくれていた親からは虐げられ、人の目が気になり外に出ることが怖くなった。そんな時、王太子様が婚約者候補を探しているため年齢の合う者は王宮まで来るようにという御触書が全貴族の元へと送られてきた。主人公の双子の妹もその対象だったが行きたくないと駄々をこね……
※本編完結済みです
※ハピエン確定していますので安心してお読みください✨
※途中辛い場面など多々あります
※NL表現が含まれます
※ストーリー重視&シリアス展開が序盤続きます

幽閉王子は最強皇子に包まれる
皇洵璃音
BL
魔法使いであるせいで幼少期に幽閉された第三王子のアレクセイ。それから年数が経過し、ある日祖国は滅ぼされてしまう。毛布に包まっていたら、敵の帝国第二皇子のレイナードにより連行されてしまう。処刑場にて皇帝から二つの選択肢を提示されたのだが、二つ目の内容は「レイナードの花嫁になること」だった。初めて人から求められたこともあり、花嫁になることを承諾する。素直で元気いっぱいなド直球第二皇子×愛されることに慣れていない治癒魔法使いの第三王子の恋愛物語。
表紙担当者:白す(しらす)様に描いて頂きました。

新しい道を歩み始めた貴方へ
mahiro
BL
今から14年前、関係を秘密にしていた恋人が俺の存在を忘れた。
そのことにショックを受けたが、彼の家族や友人たちが集まりかけている中で、いつまでもその場に居座り続けるわけにはいかず去ることにした。
その後、恋人は訳あってその地を離れることとなり、俺のことを忘れたまま去って行った。
あれから恋人とは一度も会っておらず、月日が経っていた。
あるとき、いつものように仕事場に向かっているといきなり真上に明るい光が降ってきて……?
※沢山のお気に入り登録ありがとうございます。深く感謝申し上げます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる