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91 竜の片鱗
しおりを挟むアークと二人で来た道を戻っていると、道の先の広場に一人の男が仁王立ちしていた。
周りには野次馬達がたくさんいて、さっきの里長のアダムもいた。
・・・・・・アダムはその男を止めているようだが。
「・・・・・・なるほど、アイツがアリテシアの元許婚か。アダムの兄と言っていたな。確かイヴァンだったか」
「・・・・・・母さんを襲おうとしたヤツ?」
よく見ると、その時の傷の後遺症なのだろう、足が少し不自由そうだ。
ポーションでも直らなかったのだろう。
半殺しって言ってたしな。
直すにはさっきのエリクサー程の高性能なポーションがいるだろうが、簡単に手に入るモノでは無いからな。
ルシアスにこっそり口止めしてきて良かった。
『このエリクサーを秘密に、ですか? もちろんです。ノアの害になるような事は絶対にしませんよ』
そういってノアとウルスラに聞こえないように約束してくれた。
「・・・・・・で、そいつが何の用だ?」
ノアが怪訝そうに首を傾げる。
「何となく想像できるが・・・・・・逆恨みか、お前を手に入れようとするって所か?」
「俺? 何で?」
「ノアの母親に固執していたらしいからな。振られたうえにボロ雑巾のように痛めつけられて矜持はズタボロだろう。それが今、目の前に生き写しのノアとお誂え向きに竜人の俺だ」
トラウマが刺激されまくりだろうな。
「だからって、アークが傷付けられるのは我慢ならないし、俺はアークのモノだからアイツには指一本触れさせないよ?」
まあ、アークに傷を付けられるヤツなんてそうそういないだろうけどね。
二人は悠々と歩いて行った。
ノアは母の元許婚のイヴァンを前に、首を傾げる。
『何か用か?』という意味での仕草がイヴァンに刺さったらしい。
顔を赤くして怒鳴った。
「俺のところに戻ってこい! アリテシア!!」
その言葉にピクッとしたノアは低い声で言った。
「───俺はアリテシアじゃねえよ。そもそも俺には番いがいる。誰が貴様のような男に靡くか」
「竜人の何処が良いんだ! 俺だって・・・・・・!」
「竜人だからじゃねえ!! アークだから愛してるんだ! 他人にとやかく言われる筋合いはねえよ!」
ノアにしては珍しく大声で、はっきり愛の言葉を叫んでいた。
それと同時に、イヴァンに対して無意識に威圧をしていて、気付いたらイヴァンは気絶していた。
「───アレ?」
「・・・・・・ノア、お前の気持ちは良く分かったから、その辺で止めとけ。瞳の瞳孔が割れてる」
アークに言われて、気付くと少し竜化していた。
爪は鋭く尖り、銀の瞳の瞳孔は縦に細くなっていた。
無意識に翼も顕現させている。
慌てて翼を消して心を落ち着かせると、爪も瞳も元に戻った。
「───ごめん」
「俺は熱烈な愛の告白が嬉しかったがな」
「───!! う、ぁ・・・・・・」
アークに抱き締められながら真っ赤になってどもるノアに皆の視線が微笑ましかった。
「申し訳ありません、ノア、アルカンシエル殿・・・・・・愚兄がとんだ非礼を・・・・・・」
アダムが気絶したイヴァンを足蹴にしながら頭を下げる。
「貴方のせいではないが、謝罪は受け取る。ノアに感謝する事だな」
「ありがとうございます。ノア、申し訳ありませんでした」
「・・・・・・イヴァンはともかく、アダムは母さんの従兄弟でしょう? 良い兎人だし、許します」
暗に『イヴァンと縁を切れ』と言うノアに晴れ晴れとした笑顔でアダムが言った。
「ええ。イヴァンは身内ではありませんので、今後も安心して里帰りして下さい。きっとルシアスもウルスラ叔父さんも喜びますよ」
周りの人もイヴァンを快く思っていなかったようで、これ幸いと話に乗ってきて、イヴァンが目を覚ます頃には、村外れの小さな家に独りで住むことになったようだ。
その時には、ノアとアークはすでに里を立った後だったのだが。
「血の繋がった家族に会えて良かったな」
「───うん、とてもいい人達だった。もちろん、爺さんも、血の繋がりとか関係なく、家族だけど・・・・・・天涯孤独だと思っていたから、生きている家族がいて嬉しい」
「次は俺の家族だな。番いだからもちろん、ノアの家族だ」
「っふふ、たくさんいて、嬉しい」
そうしてオーガスタに戻ったノア達は、再び迷宮攻略に精を出すのだった。
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