迷い子の月下美人

エウラ

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77 凄いヤツら(sideギギ&ルル兄弟)

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朝から迷宮に潜ったが、11階層は海のエリアだった。

厄介なことに海の向こう岸が下へ行く階段のある場所らしかった。
行くには陸地を大回りするか海上を飛んでいくかの二択なんだが。

「お兄、『フライ』でさっさと行くよ」
「お、おう」

弟のルルは魔法が得意だから、こういう時頼りになる。
俺は魔法はからっきしだからな。

ルルのお陰でこの階層はほぼ戦闘すること無く済んで、無事に12階層へと下りた。

12階層はありきたりな平原エリアだが、やっぱり魔物が手強かった。
休み休み狩りをして昼過ぎに13階層へ・・・。

そこがヤバいエリアだった。

砂漠だ。

熱い上に魔物が物理攻撃の効きにくいヤツばかり。
ルルの負担が倍増だ。

「・・・ルル、今回はここはナシだ。戻るぞ!」
「そうだね、さすがにキツいかな」

お互い納得しての撤退。

直ぐさま踵を返すと上の階層へと向かう。

12階層をやり過ごし、11階層まで戻るとルルの探索魔法に冒険者が引っかかったらしい。

「・・・うん。二人組かな? ---一瞬もの凄い魔力を感じたんだけど・・・・・・」
「危険は無いのか?」
「・・・うん、どちらかというと気持ちいい魔力なんだけど、その、とてつもなく強大な・・・高密度な感じのヤツだ」
「うん? とにかく凄え強いって事か」
「・・・・・・はあっ、お兄ってば脳筋・・・まあそうなんだけど」
「敵じゃ無いなら良い。行こうぜ!」

はいはいと言いながら『フライ』で飛んで来た道(海?)を戻っていると、先ほどの冒険者が帰ろうとしているところだった。

ルルは思わず雑な魔力操作でギギを砂浜に埋めてしまった。

いやだって、めちゃくちゃ凄いって、あの二人。
オーラが違う。

ビビった!

「お前なあ?!」

なんてお兄に怒鳴られても気にならないくらい凄いんだって!


結局お兄が切っ掛けで話をしたけど、なんか有り得ない話をして無くない?!

「竜王国の大公家の三男坊だ」

って、世間話みたいに・・・世間話か?
番いというノアも規格外が過ぎる。
混血なのにSランクの純血種とタメ張るって?

・・・・・・つくづく、敵じゃなくて良かったわ。



あの後、上に戻ってから別れたけど、暫くは迷宮に潜るって言ってたし、コレからちょくちょく顔を合わせそうだとお兄と笑った。



街に戻ったときにはまだ二人は帰ってきて無かった。

「お兄、先にお風呂使いなよ」
「おう、悪いな」

自分達の定宿に戻ってシャワーを浴びて汗を流す。
浄化でも良いが、お湯で洗うとさっぱりする気がするんだよな。

ルルが風呂から出た後、晩飯を食いに外へ出ると、遠目にアーク達が見えた。
あそこは一つしかねえ高級宿だな。
まああの二人ならそこに泊まってても不思議じゃねえな。

---なんて思いながらアーク達の方に向かって歩いていたら、俺達とすれ違った一人の男がアーク達をみつめながら立ち止まり・・・。

その次の瞬間、そいつがポツリとノア達に言ったであろう言葉が聞こえて、一瞬ドキッとした。

『---アリテシア?』


---親父がよく言っていた。
200年以上前に、助けられなかった黒兎族の人の話を。

とある人物の番いで、私利私欲のために攫われたという身重の黒兎族を救出する依頼を受けた親父達は、その番いが古の森へ逃げ込んだという情報を得て捜索するも見つからず、数日後、上位精霊が現れてこう言ったという。

『お前達の探す者は、大怪我を負い、我らの前で森へ還った』

---すなわち、瀕死の重傷の末、儚くなったのだと。

体は森へ還ったが、形見となる髪飾りや指環などは残っていたため、証拠として渡された。
それは確かにその番いの物だったそうだ。

もう少し早く見つけていれば・・・と皆、悔やんだそうだが。

その黒兎族の名前が---。

『アリテシア』

だったのだから・・・。


思わず振り返ってそいつを見たが、すでに黄昏時の雑踏に紛れて消えてしまった。


「アイツは一体・・・」
「・・・? お兄、どうかした?」
「ああ、いや・・・」

頭を振って誤魔化し、何処の御飯食べようかとルルが話すのを聞きながら、さっきの男のことを心の片隅に置いた。

「そーだなあ、肉の美味いところだろう!」
「何時もそれじゃん。野菜も食べなよ」
「あと、酒が美味い店!」
「・・・・・・お兄、人の話聞いてる?」

やれやれと食事処へ足を運んだ。




その頃・・・。



---まさか、な・・・・・・。

その男の呟きは雑踏に掻き消された。




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