迷い子の月下美人

エウラ

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70 サクサク進むぞ?!

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三階層は薄暗い洞窟仕様だった。

「このエリアは岩系と虫系が多いと思う」

グリューンが言った。
エメルは苦い顔だ。
多分、虫が苦手なんだろう。

「でもまあ、虫なら火魔法で焼いちゃえば良いし」
「・・・でもいやなモノはいやだ」

スカイが言うがエメルが泣きそうだ。
それを見たノアがエメルに言った。

「俺が全部やっつけてあげるよ。だから目を瞑ってて。エメルは回復役なんだから無理しなくて良いよ」
「え?」
「誰かエメルを連れて歩いてくれる? 俺が先頭で殲滅していくから」

気負いもせずに、散歩にでも行くような口調で言うノア。

「ノアが? 大丈夫なのか?」
「エイダンの隣街の上級迷宮ではソロで何度もボス戦してる。地底竜だったから似たような階層だよね。イケる」
「大丈夫だ。一人でも・・・・・・多分オーバーキルだ」

アークが遠い目をしている・・・。
Sランクにそんな目をさせるノアって一体・・・?!
ていうか、地底竜?! ソロで?! 何度も倒してるのか?!

グリューン達も遠い目をした。

取りあえずその案を採用して歩き出すこと数分。

ブーンという羽音が聞こえてきた。

「ひえっ?!」

エメルが目を瞑って耳を押さえた。
なるほど、これでは戦闘にならない。

「シン、盾は良いからエメルを抱えて歩いて」
「お、おう、分かった」

そういってヒョイッとエメルを抱える。

「うわって、シン?!」
「そのままジッとしてろ」
「う、うん・・・・・・」

顔を真っ赤にしたあと直ぐに真っ青にしたエメル。
虫の大群が迫ってきていた。

『インフェルノ』

頭の中で鍵の詠唱を唱えるノア。
瞬間、辺り一面が炎に包まれた。
熱風が吹き荒れる・・・が、結界も張っているのでこちらに被害は無い。

アークが剣を一閃して煙を払うと、辺り一面は焼け野原・・・と言うか岩が溶け崩れている。

「・・・・・・」

グリューン達は顎が外れるほど口を開けている。
さすがのアークも呆れてモノが言えない。

「・・・・・・ごめん、次はもっと威力を下げる」

これでも相当下げていたようだが。

「インフェルノ使えばこうなるわ」
「・・・・・・ごめんなさい?」
「インフェルノ?!」
「おいおい、マジかよ」
「・・・・・・凄ぉい・・・・・・」
「・・・・・・確かにオーバーキルだわ」

気まずい空気に耐えきれず、ノアが歩き出した。

「じゃあ皆、ドロップアイテム拾って下さい」

そういって自分も拾い出す。

皆は苦笑してあちこちに落ちているアイテムを回収するのだった。

その後も何度も虫や岩系魔物に出くわすたびにノアが殲滅していった。
・・・・・・文字通り、殲滅だった。

「俺、学習した。火よりも凍らせた方が被害が少ない」

そういって虫系には『アブソリュート・ゼロ』を使い、岩系には『レイン』からの『サンダー』で感電死。

他の皆はひたすらアイテム回収・・・・・・。

楽だったのか疲れたのか分からない感じだった。

こうして階層を重ね、今は5階層の安全地帯での休憩中だった。


「そろそろお昼ご飯、食べよう」
「お腹空いた---!!」
「いやでも、ノア達のお陰で半分も来た。凄いよね。俺達、何泊か泊まりながら行くつもりだったのに」
「ホント! 特に三階層・・・・・・死ぬほど助かった! ありがとうねえ!!」
「俺も楽しいし、別に・・・気にしないで」

思ったよりも平気だった。
もっと緊張するかと思ったけど、皆、優しくて気さくだった。

「よかったな、ノア」
「うん」

そういうわけで、ノアお手製の具沢山スープを皆に振る舞った。

ここの安全地帯にはまだ誰もいなかったが、どうやら迷路のような階層ではルートが幾つもあって、最短から最長まで運任せのようで、ノア達は幸運にも最短ルートだったらしい。

先に潜ったはずの冒険者にはまったく遭わなかった。


朝イチで潜ったらしいAランクのギギとルル兄弟はきっと10階層からスタートしたのだろう。

ちょっと会ってみたかったが、日帰りだしなあ。

無理はしない。



「一休みしたら次に進むぞ」
「「「おー!」」」

グリューンのかけ声に張りきって返事をする三人を微笑ましく見つめるアーク達だった。





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