迷い子の月下美人

エウラ

文字の大きさ
上 下
72 / 538

68 迷宮探索 4

しおりを挟む

「・・・・・・アレは・・・」

---そう。
あの街の迷宮下層にいたケサランパサラン。

森の木々にみっちり嵌まってはち切れそうになっていた。
鬱蒼とした暗い森の中に真っ白い毛玉・・・。

一瞬レイスの集団かと思ったが、間違いなくケサランパサランだった。

「ココにもいるんだ! 倒したら森水晶落とすかな?!」

ノアがワクワクして興奮している。

「錬金術の材料になるんだっけ」
「うん、それ以外にも鑑賞用に欲しいって貴族とかが多いかな。俺は錬金術の素材として欲しいんだけど」
「---ああ、ドロップ率が低いんだよな」

以前の採取での事を思い出したのか、アークがちょっとゲンナリした顔になった。

「まぁ、せっかくだから気の済むまでやれば良い。急いでないしな」
「ありがとう、ア-ク!」

それに付近には他の冒険者もいないようだし、この前のように水魔法で落として雷魔法で一発やれば良い。

「じゃあ、この前みたいによろしくね」
「オッケー」

そう言って早速魔法を使い出した。

アークは今回、ドロップアイテムを拾いつつ他の魔物達を倒していた。
ノアにはケサランパサランの方に集中して貰いたかったからだ。
もちろんノアも周りを見て普通に魔物を倒せるが、嬉々として森水晶をドロップさせているノアを煩わせたくなかったので。

安定の溺愛過保護である。


ケサランパサランを倒し始めて十数分。

一階層にいた先ほどのPTが漸く二階層に降りてきて最初に見た光景が、嬉々としてケサランパサランを倒すノアと、ドロップアイテムを回収しつつ他の魔物を屠っているアークで。

「・・・・・・は?」

辛うじて声が出たリーダー以外は口をあんぐりと開けたまま固まった。

最初、二階層なのに有り得ない強さの魔物にビビったが、それを上回るアーク達の戦闘技術に呆然となった。

「・・・え? ナニコレ、どういう事?! 凄まじいんだけど!!」
「・・・あの人達、たぶんAランク冒険者だよね」
「魔導師の方は、たぶん美丈夫さんの番いさんだよね。首に咬み痕がくっきり見える」
「---いやいや、二人とも強すぎでしょ!」

我に返ってめいめいに話し出すPTメンバー。
一歩も動けずにいると、それに気付いていたアークが近付いて行った。

「よお。さっきぶり。あんたら、この先に行くのか? 結構ヤベえぞ、ココ」
「---だよな。今日はもっと下に行くつもりで来たんだが、ちょっとこの強さは無理かな」

リーダーが応える。

「ああ、俺は『深緑』のPTリーダーで剣士のグリューンという。彼らは仲間の・・・」
「盾役のシンだ」
「魔導師のスカイ」
「回復術士のエメルです」
「アルカンシエルだ。アークで良い。向こうで魔法使ってるのがノア。俺の番いだ」

よろしくな、とニカッと笑った。

そのノアが一旦魔法を止めてコッチに来た。
・・・が、人見知りのため、途中で立ち止まってぴるぴるしていた。

アークが素早く近づいてノアを抱き締める。

「悪いな、人見知りで」
「いっ、いや、気にしない」
「・・・・・・ノア、です」
「・・・・・・ほああ・・・可愛いねえ」

思わずといった風にエメルが呟いたのに『深緑』メンバーがこくこくと頷いた。

「・・・・・・アーク、そろそろ進もうか?」
「もういいのか?」
「ん、結構ドロップしたし、先も気になる」

確かに、倒した数が数だけに結構手に入った。
ノアはちらっとグリューン達を見てからコテンと首を傾げた。

「あの、貴方たちは、この先に行く?」
「ああ、いや、ちょっとココの魔物は俺達には強すぎるから諦めて戻ろうかと思って。今日は運が悪かった。何時もはもっと弱いのが出るんだけどなあ・・・」

ノアは少し考えてからアークに言った。

「・・・・・・アーク、一緒に行く?」
「うーん、まぁ俺は構わんが、ノアはいいのか?」
「ん、いい人達みたいだし、ココにも詳しそうだし」
「---えーと?」

グリューンが戸惑いがちに聞いてきた。

「ああ、いや、あんたらがいいなら、一緒に進もうかって、ノアが」
「えっ!! いいのか?!」
「俺達は今日は10階層の転移魔法陣を目指しているんだが、あんたらは?」
「俺達も今日はそこまで行こうとしていたんだが」
「じゃあ、一緒に行こう。俺達がサポートするから、な」

グリューン達は顔を見合わせて頷いた。

「---じゃあ、頼む。俺達も出来るだけ頑張るからな」
「了解。ちなみに俺はSランクでノアはAランクだ、よろしくな」
「---Sランク?!」
「・・・・・・俺達は皆、Aになったばかりだ。ノアはAになって長いのか?」
「うん、5年は経ってるかな」
「俺達は昨日街に着いたばかりだから、ココは今日が初見なんだ。経験者がいると助かる」

それを聞いて苦笑するグリューン達。

「Sランクなら経験者なんて関係なく攻略出来るだろうに、こっちの方が助かるよ」

二人の申し出に心から感謝した。

「よろしくお願いします。ああ、ポーションとか入り用の時は言って? たくさんあるから」

ノアが言った言葉にポカンとする『深緑』メンバー。

「---へ?」
「ノアは薬師だから、作れるし在庫もある。まぁ値段はそれなりにするけどな」
「---薬師?!」
「えっと、冒険者なんだよね?」
「本業は薬師」

そう言ってタグを見せると、皆は目を瞠って絶句した。

「・・・・・・薬師マイスター・・・・・・?!」


ノアはコテンと首を傾げて、アークは苦笑いだった。






しおりを挟む
感想 1,191

あなたにおすすめの小説

【完結】捨てられた双子のセカンドライフ

mazecco
ファンタジー
【第14回ファンタジー小説大賞 奨励賞受賞作】 王家の血を引きながらも、不吉の象徴とされる双子に生まれてしまったアーサーとモニカ。 父王から疎まれ、幼くして森に捨てられた二人だったが、身体能力が高いアーサーと魔法に適性のあるモニカは、力を合わせて厳しい環境を生き延びる。 やがて成長した二人は森を出て街で生活することを決意。 これはしあわせな第二の人生を送りたいと夢見た双子の物語。 冒険あり商売あり。 さまざまなことに挑戦しながら双子が日常生活?を楽しみます。 (話の流れは基本まったりしてますが、内容がハードな時もあります)

冷遇された第七皇子はいずれぎゃふんと言わせたい! 赤ちゃんの頃から努力していたらいつの間にか世界最強の魔法使いになっていました

taki210
ファンタジー
旧題:娼婦の子供と冷遇された第七皇子、赤ちゃんの頃から努力していたらいつの間にか世界最強の魔法使いになっていた件 『穢らわしい娼婦の子供』 『ロクに魔法も使えない出来損ない』 『皇帝になれない無能皇子』 皇帝ガレスと娼婦ソーニャの間に生まれた第七皇子ルクスは、魔力が少ないからという理由で無能皇子と呼ばれ冷遇されていた。 だが実はルクスの中身は転生者であり、自分と母親の身を守るために、ルクスは魔法を極めることに。 毎日人知れず死に物狂いの努力を続けた結果、ルクスの体内魔力量は拡張されていき、魔法の威力もどんどん向上していき…… 『なんだあの威力の魔法は…?』 『モンスターの群れをたった一人で壊滅させただと…?』 『どうやってあの年齢であの強さを手に入れたんだ…?』 『あいつを無能皇子と呼んだ奴はとんだ大間抜けだ…』 そして気がつけば周囲を畏怖させてしまうほどの魔法使いの逸材へと成長していたのだった。

【完結】兄の事を皆が期待していたので僕は離れます

まりぃべる
ファンタジー
一つ年上の兄は、国の為にと言われて意気揚々と村を離れた。お伽話にある、奇跡の聖人だと幼き頃より誰からも言われていた為、それは必然だと。 貧しい村で育った弟は、小さな頃より家の事を兄の分までせねばならず、兄は素晴らしい人物で対して自分は凡人であると思い込まされ、自分は必要ないのだからと弟は村を離れる事にした。 そんな弟が、自分を必要としてくれる人に会い、幸せを掴むお話。 ☆まりぃべるの世界観です。緩い設定で、現実世界とは違う部分も多々ありますがそこをあえて楽しんでいただけると幸いです。 ☆現実世界にも同じような名前、地名、言葉などがありますが、関係ありません。

誰よりも愛してるあなたのために

R(アール)
BL
公爵家の3男であるフィルは体にある痣のせいで生まれたときから家族に疎まれていた…。  ある日突然そんなフィルに騎士副団長ギルとの結婚話が舞い込む。 前に一度だけ会ったことがあり、彼だけが自分に優しくしてくれた。そのためフィルは嬉しく思っていた。 だが、彼との結婚生活初日に言われてしまったのだ。 「君と結婚したのは断れなかったからだ。好きにしていろ。俺には構うな」   それでも彼から愛される日を夢見ていたが、最後には殺害されてしまう。しかし、起きたら時間が巻き戻っていた!  すれ違いBLです。 初めて話を書くので、至らない点もあるとは思いますがよろしくお願いします。 (誤字脱字や話にズレがあってもまあ初心者だからなと温かい目で見ていただけると助かります)

ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?

音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。 役に立たないから出ていけ? わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます! さようなら! 5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!

田舎育ちの天然令息、姉様の嫌がった婚約を押し付けられるも同性との婚約に困惑。その上性別は絶対バレちゃいけないのに、即行でバレた!?

下菊みこと
BL
髪色が呪われた黒であったことから両親から疎まれ、隠居した父方の祖父母のいる田舎で育ったアリスティア・ベレニス・カサンドル。カサンドル侯爵家のご令息として恥ずかしくない教養を祖父母の教えの元身につけた…のだが、農作業の手伝いの方が貴族として過ごすより好き。 そんなアリスティア十八歳に急な婚約が持ち上がった。アリスティアの双子の姉、アナイス・セレスト・カサンドル。アリスティアとは違い金の御髪の彼女は侯爵家で大変かわいがられていた。そんなアナイスに、とある同盟国の公爵家の当主との婚約が持ちかけられたのだが、アナイスは婿を取ってカサンドル家を継ぎたいからと男であるアリスティアに婚約を押し付けてしまう。アリスティアとアナイスは髪色以外は見た目がそっくりで、アリスティアは田舎に引っ込んでいたためいけてしまった。 アリスは自分の性別がバレたらどうなるか、また自分の呪われた黒を見て相手はどう思うかと心配になった。そして顔合わせすることになったが、なんと公爵家の執事長に性別が即行でバレた。 公爵家には公爵と歳の離れた腹違いの弟がいる。前公爵の正妻との唯一の子である。公爵は、正当な継承権を持つ正妻の息子があまりにも幼く家を継げないため、妾腹でありながら爵位を継承したのだ。なので公爵の後を継ぐのはこの弟と決まっている。そのため公爵に必要なのは同盟国の有力貴族との縁のみ。嫁が子供を産む必要はない。 アリスティアが男であることがバレたら捨てられると思いきや、公爵の弟に懐かれたアリスティアは公爵に「家同士の婚姻という事実だけがあれば良い」と言われてそのまま公爵家で暮らすことになる。 一方婚約者、二十五歳のクロヴィス・シリル・ドナシアンは嫁に来たのが男で困惑。しかし可愛い弟と仲良くなるのが早かったのと弟について黙って結婚しようとしていた負い目でアリスティアを追い出す気になれず婚約を結ぶことに。 これはそんなクロヴィスとアリスティアが少しずつ近づいていき、本物の夫婦になるまでの記録である。 小説家になろう様でも2023年 03月07日 15時11分から投稿しています。

公爵家の五男坊はあきらめない

三矢由巳
BL
ローテンエルデ王国のレームブルック公爵の妾腹の五男グスタフは公爵領で領民と交流し、気ままに日々を過ごしていた。 生母と生き別れ、父に放任されて育った彼は誰にも期待なんかしない、将来のことはあきらめていると乳兄弟のエルンストに語っていた。 冬至の祭の夜に暴漢に襲われ二人の運命は急変する。 負傷し意識のないエルンストの枕元でグスタフは叫ぶ。 「俺はおまえなしでは生きていけないんだ」 都では次の王位をめぐる政争が繰り広げられていた。 知らぬ間に巻き込まれていたことを知るグスタフ。 生き延びるため、グスタフはエルンストとともに都へ向かう。 あきらめたら待つのは死のみ。

【完結】実はチートの転生者、無能と言われるのに飽きて実力を解放する

エース皇命
ファンタジー
【HOTランキング1位獲得作品!!】  最強スキル『適応』を与えられた転生者ジャック・ストロングは16歳。  戦士になり、王国に潜む悪を倒すためのユピテル英才学園に入学して3ヶ月がたっていた。  目立たないために実力を隠していたジャックだが、学園長から次のテストで成績がよくないと退学だと脅され、ついに実力を解放していく。  ジャックのライバルとなる個性豊かな生徒たち、実力ある先生たちにも注目!!  彼らのハチャメチャ学園生活から目が離せない!! ※小説家になろう、カクヨム、エブリスタでも投稿中

処理中です...