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57 夕御飯じゃなくて晩餐だった
しおりを挟むすったもんだの末に機嫌の直ったノアがお腹を空かせていたので一階の食堂へと足を運ぶ。
ちなみにアーク達の部屋は最上階である三階の角部屋で、実は一番高い部屋だった。
料理だって頼めばルームサービスしてくれる。
ノアが拒否るかもしれないのであえて言わなかったが。
アークは大公家という高位貴族な上、Sランク冒険者で稼ぎはかなりのモノだから基本、金銭感覚が普通じゃない。
一応一般的な貨幣価値は理解しているが、それだけだ。
そこら辺は、いくら世間知らずと言われようとノアの方がよっぽどしっかりしているので、値段を聞いたら気絶くらいはするかもしれない。
部屋を出る前に着替えをする。
旅装を解いて、冒険者装備を外す。
本当はシャワーを浴びたいが時間がもったいない為、浄化魔法で済ます。
高級宿ということで、それなりに良い服に着替えるのだが、いつの間にかノアの服を購入していたアークがその服一式をノアに着せた。
白色のスタンドカラーのシャツにパンツ、薄いグレーに金糸で刺繍がしてある膝丈のベストは腰の細さを強調するデザイン。
アークは黒い開襟シャツに黒いパンツスタイル。
腰までのベストは濃いグレーに銀糸で刺繍がしてある。
対称的でありながら互いの色を差し色にしている、シンプルなのに美しい物だった。
「いつ用意したの?」
「エイダンの街でノアが熱を出したときに必要なモノの調達しに行ってな、その時に頼んでおいたんだ。さっそくの出番で良かったよ」
「・・・ありがとう。綺麗だし格好いい」
「良かった。ノアも最高に似合ってる」
二人とも少し衣装を変えるだけで印象ががらりと変わる。
食堂へと足を踏み入れた途端にざわめきが消えた。
貴族らしい客が数組食事をしていたが、二人を見た途端、固まった。
アークはノアの手を取り、ゆったりと歩いている。
誰が見ても高位貴族が番いをエスコートしているようにしか見えない。
そんな中、給仕に鍵を見せると個室へ案内された。
個室へ消えた二人を見て、ざわめきが戻る。
「先程の方って・・・・・・」
「・・・ええ、あのお姿は確か竜王国の大公家の・・・」
「番い様、お綺麗だったね・・・どちらの方かな」
等と囁きあっていた。
個室は部屋と同じように防音結界だった。
料理はどうやら決まった物がフルコースで出てくるようだ。
「緊張してる?」
「ん、こんなところで食べたこと、無い、から」
ノアが人見知り状態になってしまった。
確かに一般人は滅多に入らない場所だしな。
「テーブルマナーって分かるか?」
「小さい時から爺さんに仕込まれてるけど、実際に外でやったことない。こんな食事処に入ったことも無いし、一人だし・・・」
「そっか、心配なら俺の真似をすれば良い。腐っても高位貴族だからな。マナーは完璧だ」
そういってドヤ顔を決めたアークにぷっと噴き出したところで前菜が運ばれてきた。
「取りあえず、無事にオーガスタの街に着いたので、乾杯」
「うん。乾杯」
そういって食前酒を口に含んで味わう。
前菜に手を付けると、空腹が勝ったのか、ふにゃっと顔を緩ませて黙々と食べ出した。
「美味しい」
「そうだな」
スープ、メインの肉料理、デザートまでなんの問題もなく綺麗な所作で食べきった。
---完璧だな。
大賢者様は何処まで考えてマナーを叩き込んだんだ?
普通の竜人にはここまでのモノは要らないだろう。
もしかしたらノアの父親は高位貴族出身なのかもしれないな。
万が一ソッチ関係で引き取られても苦労しないように教えたのかもしれない。
なんにせよノアが恥をかかずに済むようにという親心なんだろうな。
葡萄酒を飲み干してノアに声をかける。
「満足したか?」
「ん、もうお腹、いっぱい。幸せ」
ちょっと赤い顔でにへらと笑う。
・・・これは酔ってるな。
もともとほぼ飲酒はしないと言っていたが、弱いのか、慣れればイケるのか分からんな。
分からんが、このノアはマズい。
色っぽすぎて、我慢できねえ・・・・・・。
テーブルに食事代を多めに置いて給仕を呼ぶ。
「ご馳走さま。美味しかった。私達は部屋に戻るよ。釣りはとっておいてくれて良い」
「ありがとうございました」
ちょっとふらふらなノアを片手で抱き上げて顔を自分の肩に凭れさせて見えないようにして個室を出た。
またざわめきが消えたが、無視をして自分達の部屋へと戻っていった。
そしてその後に再びざわめきが戻り、皆はアレやコレを想像するのだった・・・・・・。
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