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37 変わった薬師(side薬草屋&素材屋)
しおりを挟む今日来た儚げ美人と美丈夫はちょっと変わった番いだった。
線が細いがしなやかな筋肉をしている綺麗な美人はどうやら薬師らしく、うちの薬草を見て無表情な顔を綻ばせた。
一方、番いの旦那(誰がどう見ても旦那だろう)はガッチリした美丈夫で、荒事にも慣れていそうだった。
ノアと名乗った美人はなんて言うか、ちょっと常識外れというか浮世離れした感じだったが、薬草の事になると凄かった。
マイスターのタグを見せられたときには手が震えちまった。
その若さでそれを得られる稀少さも分かっていなさそうだが、旦那の方はかなりしっかり者のようで安心した・・・が。
Sランク冒険者だったとは!
思わずタグを見せて欲しいと詰め寄り、ちょっと引かれてたな。
更には美人さんが錬金術師でAランク冒険者だってのには驚いたのなんのって・・・。
錬金術師なんてアイツしか知らないし、素材もそこにしか無いだろうと紹介状を書いて地図を渡した。
今頃は店に辿り着いただろう。
アイツの驚いた顔が見られなくて残念だ。
◇◇◇
---珍しく俺の店に客が来た。
ということは紹介状を書いて貰えたのだろう。
うちに紹介状を出すような店はアイツ・・・薬草屋ぐらいだ。
あの爺さんに気に入られたならマシなヤツだろう。
が、自分の目で見ないことには信用ならねえ。
「ここ、こんにちは」
どもりながらもしっかりコッチを見て声をかける様子に好感が持てた。
だが、俺が恐くてビクビクしてるんじゃねえよな・・・?
---ああ、人見知りか。
体全体で『貴方が恐いんじゃないですよ。人見知りなだけですよ』ってぴるぴるしながら訴えてる。
---兎か!
その背後を見ると、瞳孔がやや縦長になったガタイのいい美丈夫。
竜人の番いか。
一目見て分かった。
酷い独占欲に執着。番い至上主義って話だ。
大丈夫、俺は無害だよ。
目で訴えて、二人を中に入れた。
中に入ったノアは思わずと言った感じで言葉を漏らした。
そういって貰えると嬉しいぜ。
苦労して集めた素材だ。
だからこそ生半可なヤツに扱って貰いたくなかった。
薬師タグと冒険者ギルドタグを見せられ、錬金術師だと言われたときは顔には出なかったが混乱して、思わず錬金術を見せてくれと口走っていた。
そんなに簡単なモノではないことは重々承知の上だったが、意外にも軽くオッケーが出て驚いた。
ただし他言無用との事だが。
---確かに他には言えない。
なんだコレ。王都の錬金術師ギルドにもいないぞ、こんなヤツ。
当の本人はその凄さに気付いていない。
コレは番いの旦那に言い聞かせねばと意気込んでいると、旦那は良く分かっていた。
聞けば番う前にすでに長年騙され続けていたそうで、これからは自分が護ると言い切った。
さすがはSランク冒険者の竜人。
それを平然と受け止めてるノア。
彼の種族は一体何なのだろう。ぴるぴるする様子に兎かとも思ったが、耳も尻尾もないし?
ともかく、素材を前に大はしゃぎのノアを窘めるべくアークが歩み寄るのを見ながら、アイツは苦労しそうだなあと他人事のように見ていた。
天然人垂らしで美人で箱入り。
でも全身から『アークが大好き』って気持ちが溢れている。
あの隣に居て大好きオーラを浴びてるアークは本当に幸せなんだろう。
それがずっと続くことを願っている。
◇◇◇
結局、かなりの素材を購入したノアは、薬草屋と同じようにほくほく顔だった。
「あの、コレはお近づきの印に」
そういってノアは最後に、さっき錬金術で作った腕輪を店主にさしだした。
「---え?」
「護りの付与を付けました。素材集めって危険が伴います。だから御守りです。この街に来たらまた寄ります」
だから、無事で過ごして下さい。
・・・って、こんな高価なもの?!
「ノアの為にも貰ってくれ」
「アークさん・・・分かった。じゃあありがたく。お前さん達も達者でな。待ってるからな」
「本当にありがとうございました。また!」
「じゃあな」
そういって手を挙げ、彼らは出ていった。
「良いのかな、こんな凄いもの・・・」
はにかむノアの顔が浮かんだ。
「・・・腐ってないで。俺もまだまだ頑張れる」
薬草屋の爺さん、良い仕事をしてくれたな。
さあ、俺にとっては今日が再出発だ。
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