迷い子の月下美人

エウラ

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21 薬師ギルドと悪いヤツ&・・・(other side)

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ノアとアークが街を出て間もなく・・・。


「おい! どういう事だ?!」

怒鳴る男の目の前では今、薬師ギルド長である男が膝をつきガタガタと震えている。

「そっそれが、今日の昼前に薬師ギルドに例のSランク冒険者が、あ、現れ・・・ノアと共に、この街を、でっ出ると・・・」
「だから、何故そういうことになったのかを聞いておるのだっ!!」
「も、申し訳・・・理由はわ、分かり、かねます・・・・・・!」
「---ええい!! もういいわ! この役立たずめ!!」

追い出された薬師ギルド長は転げるように部屋を出て行った。

「おい! お前は何か聞いているのか?!」

男は影に控える者に声をかける。
先程から怒鳴っている男はこの街を治める男爵だ。

「詳しいことは特に何も・・・。ですがこれは単に番ったSランク冒険者が番い相手を連れて次の街へと移動しただけかと思われます」
「何故だ! 何故そう思う?!」

唾を飛ばしながら醜い腹の贅肉を揺らす男爵。

「そのSランク冒険者はすでに迷宮を踏破したので、この街に留まる必要性を感じなかったのでしょう。次の街へと移動するのは当然かと。そしてせっかく得た番いを置いて行くなどとは微塵も思いませんでしょうな」
「ぐぬぬ・・・! そうさせないためにアイツノアをこの街に縛り付けようと算段をつけている矢先に、さっさと出ていきおって! 忌々しい! ノアを人質にあのSランクを扱き使ってやったのに!」

そう言いながらドスドスと部屋を出て行った主を冷めた目で見つめる影の男。

---そんなこと出来るわけ無いだろう。
瞬殺されるわ。
これだから馬鹿な御貴族様は・・・。

・・・はあ。
Sランク冒険者が故意に見逃してくれたお陰で生きていられるというのに・・・。

ノア番いの為に我慢したのだろうが、彼が何もせずに去ってくれて助かった。

・・・俺達の事も勘付いていたようだし。
面倒ごとはゴメンだったんだろうが。

ここも潮時だな。
馬鹿な貴族に付き合っていたら命が幾つあっても足りん。

今日ばかりは肝が冷えた。

「お前達、出るぞ」
「・・・よろしいので?」
「証拠は十分揃った。アレはもう終わりだ」
「畏まりました。ではその様に」
「出来次第、立つ」

気配が消えた。
優秀なアイツらは10分もしないうちに整えるだろう。

あぁ、次の仕事の前に少し休めると良いなあ・・・。


そうしてもまたひっそりと街を出た。
行き先は王都、そこを統べる場所。

---王家の影の一部は秘密裏に悪政を強いる貴族達を監視し証拠を集める。

今回は数年前に匿名でタレコミがあり、領主と薬師ギルドとの癒着や横領などの調査を行っていたのだ。

---たった数年だが、ノアあの子の苦労をいやと言うほど知った。
番いがアルカンシエル殿とは思わなかったが、やっと幸せになれそうな確信を持って、その街を後にした。

彼らは俺達とは反対の門から出ている。

次の行き先はアルカンシエル殿の故郷かな。
番いを連れて一度帰郷するのだろう。

ノアが彼の故郷を聞いたら驚くのかな。
その顔が見られないことが少し残念に思えるくらいには情が移っていたようだ。

俺達には縁遠い感情だったが・・・。

二人とも達者でな。




それから一月後、証拠を持って乗り込んできた騎士団によって領主である男爵と薬師ギルド長は捕縛され、多くの関係者もそれぞれ処罰された。

その中にはノアの家の家賃をぼったくっていた家主もいたらしい。

実はノアが街を出た次の日、あの家は長年の雨風に限界を迎えていたようで、魔法が解けたと同時に呆気なく崩れ落ちた。

言われた通り、ノアは何処も補修をしていなかったから当然といえる。

お陰で崩れた廃材の撤去に余計な金がかかったようだ。
自業自得だ。

そして、不正に家賃を要求していたことで、騎士団の方で正当な家賃分の差額をノアのギルドタグに返還、振り込みをしていた。

お爺さんの時から合わせて20数年分に及んだ金額はかなりの額になった。
もちろん家主はほとんどを使い豪遊していたので、返還するだけのお金が無く、借金奴隷となって長年炭鉱などでの労働になった。


・・・・・・こうして・・・。

ノアの預かり知らぬところでが繰り広げられていた。


冒険者ギルドにはほぼお咎め無しだった。


「ノアさん、元気にしてるかな?」
「アルカンシエル殿と一緒だもん。心配ないよ!」
「ギルド経由でたまに職員から連絡貰うしね」
「幸せそうだよって」
「「良かったね---!」」





一方その頃・・・。

とある街の冒険者ギルドでタグの中の金額を確認していたノア。

「---っくちゅん」
「お、大丈夫か? 風邪か? それとも誰かの噂話かもな?」
「・・・噂話するような友人知人なんかいないよ。噂されるような事もしてないし」

ぁ、言ってて自分がもの凄く駄目なヤツに思えてきた。
思わずポロリと涙が零れる。

「---泣くな泣くな! 俺がいつも側で愛してやるからな? 俺がいれば良いよな?」
「ん、アークがいるから平気。アークがいれば別に友人は要らないかな?」

---俺、人見知りだもんね。
うん?
よく考えたらこれって俺にとってはめちゃくちゃ良いことずくめだった!


「うん、アークがいれば良い」
「だろう?」

アークが破顔した。

「ところで知らないお金が増えてるんだけど・・・何で?」
「ん-? あぁ、これ? 国の騎士団経由だな。・・・アレか」
「何?」
「それは『ノア殿の家賃の差額分』という名目で振り込まれたモノですね」

職員さんが教えてくれた。

何でも俺が借りていた家の家賃が相応のモノでは無かったため、払いすぎた分を戻してくれたんだって。

へえ。
まあ、旅の資金が増える分には良かったな。

「・・・・・・それで済ませるノアが可愛い」
「可愛くないってば」
「ずっと側に居るからな」
「うん。よろしく頼むよ」


そのやり取りを見て職員一同、ほっこりしていた。

---この気持ちを他の街のギルド職員達とも分かち合いたい!

その一心でギルドの情報網を使って『ノアとアークを見守り隊』を結成して、こっそり?やり取りをしていたのだった。


それをアークだけが知っていた。
というか、アークがさせたようなモノだった。

冒険者ギルドの情報網はピカイチだからな。











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