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4 旅は道連れ世は情け 1
しおりを挟む物思いに耽ってしまったが、ハッと我に返り、アークさんに声をかける。
「すみません、アークさん。とりあえず食べましょう」
「あぁ、それ。さん付けとか敬語はなしでいい」
「・・・え、でも、アークさん、年上だし、ランクも」
「そんなの関係ない。同じ冒険者だしな。そういえば幾つなんだ?」
カラカラ笑ってそう言うので、まあ良いかと敬語は止めた。
「俺は21歳。アークは?」
「俺は32歳だ。割と離れているな」
「・・・もっと若いかと思った」
「そうか? 俺はノアが21歳なのに驚きだ。もう少し上かと思ってたよ」
「---あー、見た目老けてるって言われる。どうせモテないから、別に、いい」
「ええ? モテるだろう」
「---ない。一度も」
でなきゃ、迷宮に八つ当たりしに来ない。
「もったいない」
アークが何かぽそっと呟いた。
「え?」
「いや、何でもない。ところでスープ、出来たのか?」
「あ、味見して塩コショウしたら」
「じゃあ早く食べようぜ。待ちきれなかったんだ」
そう子供のようにはしゃぐので、思わず笑ってしまった。
爺さんが死んで独りぼっちになって、初めて好意を持った男は結婚してしまって。
どうしようもない寂しさで笑う事なんてここ暫くなかったのに。
心の隙間がほんの少し埋まった気がした。
アークが俺の笑顔を見て顔を赤らめていたが、きっと変な笑い顔だったんだろう。
恥ずかしい。
スープをよそってアークに渡す。ついでに作り置きのサンドイッチも出してやれば目が輝いていた。
「いやあ、迷宮内でこんなに美味い物食べたの初めてだな!」
そういってガツガツ食べるアークを見やる。
あっという間に食べ終わるのに所作が綺麗だ。
貴族や豪商の出なのかも。
跡を継がない三男以下や豪商の子供なんかはよく冒険者になったりするらしいし。
ぼーっとアークを見る。
俺とは対照的に、肩甲骨辺りの長さの銀髪をうなじのあたりで一括りにしている。
金の瞳に褐色の肌。
筋肉は盛り上がっていて体の厚みも俺の倍くらい。
・・・・・・羨ましい。
涎でも出てそうな顔をしていたのか、ジッと見ていたのに気付いたアークが頬を染めた。
---ゴメン。気色悪いよね?
「もっと食べる? 肉料理もあるけど」
誤魔化すように言えば、ぱあっと顔を綻ばせて頷いた。
・・・・・・可愛い。
---いやいや、何を思ってんだよ。
どうしちゃったんだ、俺。
なんかおかしい。
邪念?を振り払ってマジックバッグから唐揚げを出してやれば目を輝かせて食べ始めた。
良いなあ。こんなに良い食べっぷりの旦那とかいたら、料理のしがいがあるよね。
こんなに美味そうに食べてくれる人いないし。
・・・・・・そもそも手料理食べてくれる人って爺さん以外いなかったな。
俺って実は寂しいヤツだったんだなぁ。
なんかしんみりしちゃって、気付いたアークが様子をうかがってくる。
「どうした? 大丈夫か?」
「・・・・・・いや、手料理食べてくれる人、死んだ爺さん以外にいなかったなって思って。アークが初めてだなって。そういえば俺、友人もいないし・・・・・・独りぼっちだと思ったら、なんか・・・その・・・ゴメン」
不意にぽろっと涙が溢れた。
おかしいな。
爺さんが死んで、泣いて泣いて、もう涸れたと思ったのに。
---あ、これはアレだ。
成人する少し前から年に一度来る、情緒不安定な日。
一週間くらい続く、体が熱くなって意識がぼんやりする日。
最初になったときに爺さんがやっぱり口を酸っぱくして言ってた。
『その一週間は変な野郎を近づけるな! 襲われたくなけりゃ、家に結界張って引き籠もれ!』
『襲われる』の意味がよく分からないなりに、毎年その時期になると言われた通りに家ごと頑丈な結界の魔導具で覆って引き籠もっていたっけ。
なんで今?
まだ当分先のはず・・・。
ヤバい。
『襲われる』意味をここ数年で悟った。
コレは発情期。
俺は自分が何の種族か知らない。
発情期がある種族はけっこうあるが、俺は目立った種族特性もなく、外見もコレといった特徴が出てないからだ。
更にはギルドの鑑定魔導具でも『種族不明』だったんだよな。
だから最初コレが発情期って分からなくて。
初めてなったときに気を使ったんだろうな、爺さん。
はっきりと発情期って言わなかった。
徐々に教えてくれようとしたんだろうな。
でもその前にぽっくり逝っちゃったけど。
爺さんが生きてたら俺の事分かったのかな?
爺さん、凄え人だったしな・・・。
とにかくアークに断って、片付けてテントに籠もろう。
何、一週間くらい籠もっても食料なんかはインベントリの中だし、テントは外見は普通に一人用だが内部は拡張してあって店舗の居住区並みに充実している。
家に籠もるのとさほど変わらない。
そう思って一言断ろうとアークを見たら、なんか呆然としていた。
---なんで?
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