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1 失恋確定したので仕事に生きてみる
しおりを挟む---先日、俺は失恋した。
ずっと前から好きだったあの人に告白する前に失恋した。
ここ1年くらいこの街で冒険者稼業をしていたが、最近冒険者を辞めたと聞いた。
・・・あの人はいつの間にか可愛い恋人を作って、デキ婚した。
相手は街で人気の雑貨店の跡取りだった。
最近見ないと思ったら、そういうことか。
俺の恋心は誰にも知られずに葬り去られた・・・。
俺の名はノア。
しがない薬師で錬金術師。
赤ん坊の時に拾って育ててくれた薬師の爺さんの跡を継いでこの店を切り盛りしている。
俺の名前は、拾ったときに唯一身元の分かりそうな首から提げていたプレートに刻まれていた言葉から取ったそうだ。
古代語で『自由』って意味らしい。
俺にも色々教え込んでくれて今更ながら爺さんの知識は異常だって分かったよ。
爺さん、古代語も分かるってあんた一体何者だったんだ?
俺には自分のこと何にも知らせずに儚くなっちまって・・・。
元々素質があったらしい俺は、物心つく前から爺さんの背中に負ぶさって薬の調合を眺めては覚えていったらしい。
しまいには爺さんの使う錬金術も見よう見まねで使い出して、こりゃ堪らんと慌てて魔力操作から教え込んだらしい。
・・・うん。
らしいって、だってちび過ぎて記憶にねえよ。
さて、今日も今日とて俺は薬草その他の素材を求めて迷宮に潜る。
冒険者ギルドに顔を出すと一斉に視線を向けられる。が、いつものことだ。いい加減慣れた。
クエストボードの依頼票を確認してから受付に声をかける。
「これから暫く迷宮に潜る。その間、店を閉めるからギルドの在庫で不足しているポーション類があれば納品する」
「確認してきますので少々お待ち下さい」
そういって受付の人が奥に確認しに行ったのをぼーっと見ていると、別のギルド職員がメモ書きを持ってやって来た。
「ノアさん、ついでで良いのでこれらの素材を採ってきて貰えますか?」
「・・・ああ、良いぜ。余裕があれば廻り道してもいいしな。いつものヤツか?」
「それ以外にも少々・・・コレなんですが」
「ああ、コレならボス部屋の手前の階層にあったな。良いぜ。久しぶりにボス戦しようと思ってたからな」
「・・・助かります。宜しくお願いします」
そんなやり取りをしているうちに確認を終えた職員が戻って来た。
「お待たせいたしました。今現在、初級ポーションと中級ポーション、毒消しポーションが少々心許ないので、納品して頂けると助かります!」
「分かった。じゃあ各50づつで良いか?」
「十分です! ありがとうございます。では料金は初級ポーションが一つ1500G、中級ポーションが2000G、毒消しポーションが1000Gで225000Gですね」
そういって金貨22枚と銀貨5枚と引き換えにポーション類を納品した。
ちなみにドコにそれだけ持っていたかというと、異空間収納鞄の中だ。
中々に貴重品だが、錬金術師の俺になら材料さえあれば割と簡単に作れる。
大容量や時間停止などがつくとかなりの値段にはなるが。
---内緒だが、マジックバッグとは異なる異空間収納魔法を俺は使っていて、容量は無限、時間停止付きなのでダミーのマジックバッグを使っている。
どうやら使えるヤツは滅多にいないらしく、それに気付いた爺さんが人前で絶対に使うなと俺に口を酸っぱくして言い聞かせていた。
曰く、国に捕まれば生きた輸送車として軍などで武器や食料などを死ぬまで運搬させられるだろうと。
確かに、それはイヤだ。
なので大事なモノはインベントリに、普段使いのモノはマジックバッグに入れている。まあ、取り出すときにバッグに手を入れる振りでインベントリから出すこともたまにあるが。
ともかく、こうして俺は迷宮に素材集めと称した憂さ晴らしをしに行くのだった。
ちなみに俺は薬師で錬金術師だがAランクの冒険者でもある。
自分で言うのも何だが、腰までの黒髪に金のメッシュが入った艶やな髪に銀色の切れ長の瞳で、素材を得るため、そして迷宮に潜るために鍛えた細マッチョの体はそれなりに見てくれは良いはずだ。
身長だって180cmはある。ちびではない。
だがモテない。
おそらくだが、ほとんど仕事をしない表情筋のせいだろう。
偏屈で無愛想だった爺さんと引き篭もり生活だった弊害か。
無愛想やら近寄りがたいやら、陰口を叩かれているのは知っている。
加えてソロで高ランク。
そういや威圧的だとも言われたな。
『孤独の薬師』なんて二つ名がついてるのも知っている。
孤独ってなんだよ。確かに俺は独りだけど、好きで独りなんじゃねえ。
無意識に首から提げたギルドタグを触る。
俺の名前になった『ノア』のプレートも一緒に通してあるソレを触るのは、爺さんが亡くなってはや6年。
独りを確かめる為か、独りじゃない事を確かめる為か・・・・・・。
チャリ・・・となった音にホッとして。
顔には出さず(出ず)心の中でムカつきながら独り迷宮に向かった。
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