4 / 11
初めての共同作業 後
しおりを挟む岩山に辿り着いて確認すると、山の中腹に巣くっているのか見えた。
「どうやって行く?」
あいにくと岩肌は絶壁で、周りにイケそうな道は無い。
「---風魔法、使えるか?」
「今更、ここで聞くの? 使えるけど。・・・・・・ああ、そういう・・・」
呆れて言い返すが、使えなかったらどうするつもりだったんだ。
まあ、俺も人のこと言えないけど。
セインの事、Aランクって事しか知らないもんな。
風魔法で体を浮かして翔んで行く。
セインも軽々と翔んで行った。
いやまじ、ここまで来て出来なかったらどうするつもりだったのか、そこら辺、小一時間ほど問い詰めたい。
グリフォンが俺達に気付いて騒ぎ出した。
セインが先手必勝とばかりに突き進もうとするのを手で制して、俺は水魔法で出した水球でグリフォンの顔を覆った。
苦しくて藻掻くが、それくらいじゃ水球は外れない。
暫く藻掻いていたが、溺れて息絶えた。
ソレを確認してからマジックバッグに収納する。
振り向くと、セインはポカンとしている。
---あ。
「え? え? なにそれ、何なの?! 俺の出番一つもないんだけど、ええ・・・?!」
「・・・・・・えーと、ごめん?」
つい、いつもの通りにやっちゃった。
いや、素材を取るのにはコレが効率的で綺麗なもんで、ほとんどこのやり方で済ましてたから、ルーティンと化していた。
「・・・・・・はぁ・・・、さすがアルクってか。そういう感じで素材の品質を高くしてるんだ?」
風魔法で下に下りながらセインがはーっと溜息を吐く。
「ああ、まあ・・・つい。・・・だからごめんて」
「いや別に怒ってるんじゃなくて、そういう魔法の使い方があるんだと思ってさあ。・・・なるほど、次は俺もそうやろう。コレなら潰さないで済むな!」
急にガッツポーズで張り切るセイン。
うん、まあ、頑張れ。
下の開けた場所で昼ご飯を広げる。
俺がマジックバッグに手製の弁当を入れていたので、セインの分も出してやると喜んで食べてくれた。
水筒にスープを作って入れておいたので、ソレもカップに注いで渡す。
「美味い! アルク、料理人になれるんじゃないか? 何で冒険者なんてやってるんだ?」
不思議そうに聞かれて、ああ、そう言えば言ってなかったなと思い至った。
「俺が冒険者になったのは、天狼を探すためなんだ」
「天狼を・・・? 何故? どこにいるのか分からないのに・・・」
「うん。探して見つけて、言いたいことがあってさ。その為に冒険者になって世界中をまわってるんだ」
たぶん自己満足の為。
生きる意味を見いだしたいだけかも知れない。
けど。
「ケジメ・・・かな」
恋い焦がれている気持ちに、決着を着けないと。
きっと、前に進めないから。
「---そうか。アルクの気持ちはアルクのモノだから、俺は否定も肯定もしないけど。そっか・・・見つかると良いな」
何とも言えないようなセインの顔が心に引っかかったが。
昼休憩をしてから、元来た道を戻って街へと入る。
寄り道はせずにまっすぐギルドに向かった。
今は早い時間だからまだそんなに混んではいないだろう。
案の定、受付窓口はかなり空いていた。
「お帰りなさい、セイリオスさん。依頼達成の報告ですか?」
「ああ、これ。グリフォン狩ってきたからよろしく」
「・・・ぇ、本当ですか?! エミルさん! グ、グリフォンですって! 準備しといて下さいよ!」
「まじ?!」
受付の子が興奮して大騒ぎになった。
「あの、とりあえず依頼完了の手続き・・・」
アルクがおずおずとギルドタグを出して言った。
「あああ、スミマセン! ただいまっ!!」
セインも苦笑してタグを出す。
魔導具で確認して、達成のポイントが入った。
「セイリオスさん、いい加減Sランク昇級試験受けたらどうですか? もったいない」
受付の子がセインに声をかける。
でもセインは眉間にシワを寄せている。
「・・・・・・面倒」
面倒って言ったよ、この人。
そんな理由で昇級蹴ってるんだ?
変わってるなあ。
「へえ、ポイント溜まってるんだ?」
「あっ、アルクトゥルスさんも今回ので溜まりましたよ!! セイリオスさんと一緒にSランク昇級試験受けます?!」
え、マジかぁ・・・。
上がると自由度も高いけど、制約も付くんだよなぁ・・・。
例えば、スタンピードとか戦は今のところ無いけど、国からの要請があれば駆り出されたりする。
基本、ギルドは国とは別機関だけど、国が潰れればギルドの存続も危うい。
だからか、そういう有事の際は垣根を越える約束になってるんだって。
まあ断れるけど、心証は良くない。
だから・・・。
「・・・・・・あー、今は良いかな?」
「ええ---、もったいない!」
---面倒臭い。
俺も人のこと言えなかった(笑)。
「じゃあ、エミルのところに行くかー」
「了解」
すでに手ぐすね引いて待っている姿に二人して噴き出しながら向かった。
「---良い金になったな」
道すがら、セインがぽそっと呟いた。
今日はこのまま宿に戻ろうということになって、そちらに向かって歩いているところだ。
「うん、かなりの額で嬉しい。暫くは大きな依頼を受けなくても大丈夫だな」
「何だ、俺が何時でも手伝ってやるのに」
「ちまちまやるから大丈夫だよ。・・・・・・あ、パーティー解除してないや」
うっかり忘れてた。
まあ、後でも良いか。
「なあ、別にこのままでも良いよ? 俺とずっとパーティー登録してよう?」
「・・・・・・いや、だって俺は数日したらこの街を出るんだけど?」
セインがなんてことないように告げた言葉にギョッとした。
ずっと、なんて無理だろう。
俺は俺のために冒険者になって旅をしているんだ。
それにセインを付き合わせる気はない。
「大丈夫だよ。俺だって別に目的があって冒険者になった訳じゃないんだ。だから、暇つぶし? アルクが気にすることはないよ」
「・・・・・・だが・・・」
「ほら、とりあえず宿で一休みしよう」
セインに言われて、宿が目の前なのに気付いた。
「---うん」
渋りながら宿に入ると、何故かセインはアルクを自分の部屋に連れ込んだ。
「・・・・・・セイン?」
訝しんでアルクが声をかけると、マジックバッグから酒瓶を数本取り出した。
「初共同作業のお祝い。呑もうぜ。・・・呑めるよな?」
「・・・余り強くはないが、呑める」
「ヨシ、じゃあ、初共同作業、そんで初討伐! イエーイ!」
「イ、イエーイ・・・?」
流されてつい酒を口に入れてしまった。
途端に、カーッと胃が熱くなった。
相当強い酒らしい。
自己申告したとおり、アルクは早い段階で酔いが回った。
紅い顔で目が潤んで、呼吸が浅い。
---セインは、ニタリ、とした。
その瞳は、紫から深紅に染まっていた。
34
お気に入りに追加
216
あなたにおすすめの小説

王様の恋
うりぼう
BL
「惚れ薬は手に入るか?」
突然王に言われた一言。
王は惚れ薬を使ってでも手に入れたい人間がいるらしい。
ずっと王を見つめてきた幼馴染の側近と王の話。
※エセ王国
※エセファンタジー
※惚れ薬
※異世界トリップ表現が少しあります

追放系治癒術師は今日も無能
リラックス@ピロー
BL
「エディ、お前もうパーティ抜けろ」ある夜、幼馴染でパーティを組むイーノックは唐突にそう言った。剣術に優れているわけでも、秀でた魔術が使える訳でもない。治癒術師を名乗っているが、それも実力が伴わない半人前。完全にパーティのお荷物。そんな俺では共に旅が出来るわけも無く。
追放されたその日から、俺の生活は一変した。しかし一人街に降りた先で出会ったのは、かつて俺とイーノックがパーティを組むきっかけとなった冒険者、グレアムだった。

完結·助けた犬は騎士団長でした
禅
BL
母を亡くしたクレムは王都を見下ろす丘の森に一人で暮らしていた。
ある日、森の中で傷を負った犬を見つけて介抱する。犬との生活は穏やかで温かく、クレムの孤独を癒していった。
しかし、犬は突然いなくなり、ふたたび孤独な日々に寂しさを覚えていると、城から迎えが現れた。
強引に連れて行かれた王城でクレムの出生の秘密が明かされ……
※完結まで毎日投稿します
【完結】雨降らしは、腕の中。
N2O
BL
獣人の竜騎士 × 特殊な力を持つ青年
Special thanks
illustration by meadow(@into_ml79)
※素人作品、ご都合主義です。温かな目でご覧ください。
君に望むは僕の弔辞
爺誤
BL
僕は生まれつき身体が弱かった。父の期待に応えられなかった僕は屋敷のなかで打ち捨てられて、早く死んでしまいたいばかりだった。姉の成人で賑わう屋敷のなか、鍵のかけられた部屋で悲しみに押しつぶされかけた僕は、迷い込んだ客人に外に出してもらった。そこで自分の可能性を知り、希望を抱いた……。
全9話
匂わせBL(エ◻︎なし)。死ネタ注意
表紙はあいえだ様!!
小説家になろうにも投稿

モフモフになった魔術師はエリート騎士の愛に困惑中
risashy
BL
魔術師団の落ちこぼれ魔術師、ローランド。
任務中にひょんなことからモフモフに変幻し、人間に戻れなくなってしまう。そんなところを騎士団の有望株アルヴィンに拾われ、命拾いしていた。
快適なペット生活を満喫する中、実はアルヴィンが自分を好きだと知る。
アルヴィンから語られる自分への愛に、ローランドは戸惑うものの——?
24000字程度の短編です。
※BL(ボーイズラブ)作品です。
この作品は小説家になろうさんでも公開します。

婚約破棄されたショックで前世の記憶&猫集めの能力をゲットしたモブ顔の僕!
ミクリ21 (新)
BL
婚約者シルベスター・モンローに婚約破棄されたら、そのショックで前世の記憶を思い出したモブ顔の主人公エレン・ニャンゴローの話。

イケメンチート王子に転生した俺に待ち受けていたのは予想もしない試練でした
和泉臨音
BL
文武両道、容姿端麗な大国の第二皇子に転生したヴェルダードには黒髪黒目の婚約者エルレがいる。黒髪黒目は魔王になりやすいためこの世界では要注意人物として国家で保護する存在だが、元日本人のヴェルダードからすれば黒色など気にならない。努力家で真面目なエルレを幼い頃から純粋に愛しているのだが、最近ではなぜか二人の関係に壁を感じるようになった。
そんなある日、エルレの弟レイリーからエルレの不貞を告げられる。不安を感じたヴェルダードがエルレの屋敷に赴くと、屋敷から火の手があがっており……。
* 金髪青目イケメンチート転生者皇子 × 黒髪黒目平凡の魔力チート伯爵
* 一部流血シーンがあるので苦手な方はご注意ください
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる