【完結】誰そ彼(黄昏)に濡れる

エウラ

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公爵家騎士団(side騎士団長&副団長)前編

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我らがお仕えするデュカス公爵家に渡り人様が現れたのは突然だった。

見つけたのはなんとデュカス公爵閣下本人で、雨の中、邸内の庭で意識不明の所を発見したのだそうだ。

その時の閣下の慌てようは、常に冷静沈着な彼の方からは想像もつかない程だったそうで。


のちに家令はその時の様子をこう語った。

『同じ顔をした別人と言われたほうがまだ納得できましたね』

---それ程の動揺っぷり、猫っぷりだったそうだ。
猫なんて何匹被っていたやら・・・。


そう、普段の公爵様は冷静沈着を通り越して氷の公爵様と呼ばれるくらい無表情で無慈悲な決断をなさるお方。
感情など欠如しているのだろうと言われている。

実際、良くも悪くも人や物事に関心を持たれない方だったのだから。

そんな公爵様がしどろもどろになり、目を覚ました渡り人様にことさら優しく声をかける等、誰が予想しただろうか。

まさしく『青天の霹靂』だった。


渡り人様はシノノメ・アキラという名前だそうだが、アキラという名前が発音しにくいそうで、レイと呼ぶ事になった。

中性的な顔に黒髪、瞳は朝焼け色で、14歳と聞いたときには皆、耳を疑った。

あまりにも小柄で、細い体。
そして暴力を受け続けたであろう、無数の傷痕・・・。

我らが護るべき子供と認識した瞬間だった。


レイ様は怪我が治った頃に神殿でギフトの確認をしたようで、驚くべき事に『剣聖』と『覇王』を持っていた。

これはもう、鍛えれば無敵な強さになるのでは?!
味方であればこれほど頼もしいギフトは無いが、しかし優しげな彼に人を傷つける事など出来るのか?

・・・だが俺達の心配は杞憂に終わった。

彼はその力を、相手を倒す為ではなく、大切な人を護る為に使うと言った。

その為には傷つける事も厭わないと。

彼の言う大切な人が誰かはすぐに分かったが、そこはツッコまないぞ。


そうしてとりあえず剣の指南役を、と選ばれたのは既婚者の者で。

どうやら公爵様は徹底的に独身者の男女を排除しにかかっているようだ。
更には性的な発言や行動も一切彼の耳に入らぬよう、目に付かぬようにとの徹底ぶり。

「破ったら・・・分かっているな?」
「はっ!!」

---殺される。
確実にられる。

密かにガクブルした。


やがてレイ様は15歳になり、騎士見習いとして我らの訓練に参加をするようになった。
栄養状態が良くなったためか、背もかなり伸びてきて徐々に美少年から美青年へと変わりつつあった。

体つきは細いが、しなやかな筋肉で引き締まってきた。

・・・色気がヤバい。
本人は全く分かってないが、危うい色気が出て来た・・・。

まだ死にたくないので、必死に堪える。
この子は保護対象!
子供!

---公爵様の顔を思い浮かべると、スンッとなった。

コレならイケる。

オイコラそこの副団長!
やれやれっていう顔をするな!


ギフトの影響と本人の鍛錬の賜物か、すでに剣の腕前は我々を凌駕する勢いだった。
だが成人までは見習いのまま。

本人は淡々と鍛錬を続けた。

通常、見習いといえど騎士を目指す者は騎士団の宿舎に部屋を与えられてそこに住むのだが、そこは渡り人の特権(と言うことにして)で、相変わらず公爵邸から通っている。

何も疑問に思っていない、純粋なレイ様に心が痛む・・・。

「---仕方ないんだ。俺達の明日の為に!」
「・・・公爵様に目を付けられたのが運の尽きだったな・・・」

レイ様の成人までは後3年・・・。

頑張れレイ様!

頑張れ騎士団俺達!!





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