【完結】ワンナイラブ派ですが何か

秋空花林

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第五夜

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 今夜はどいつにしよう。

 いつものBARで。
 いつもの酒で。
 喉を潤しながら、ボクは周りを物色する。

 体格の良いマッチョな男と目が合った。

「……」

 無理。

 ぷいとソッポを向く。

 …変だな。

 いつもなら、ああいう相手も悪くないって思うのに。

 ここ最近、なんだか調子が悪い。

 ちょっといいな、と思う相手とも、結局会話だけで終わってしまう。

「……はぁ」

 いや、本当は理由なんてわかってるんだ。

 ただ、それを認めたくないだけ…。

 何となく憂鬱な気分で、カクテルの氷を指で軽く混ぜる。

 その時、スマホにメッセージのお知らせが通知された。

 今夜は週末。何か用事でもあったか?

 そう思いながらボクはスマホを手に取った。



「ここがイッキの行きつけか」
「いや…たまたま」
「女の子いないね。男ばっか」

 ドキドキ ドキドキ

 いきなり高校の友人達から連絡が来て。

 久しぶりにいつもの3人で飲むからお前も、と誘われて。

 何故かボクのいるBARに集まって来た。

 別に隠すつもりじゃないけど、女好きの友人2人にココが男同士の出会いの場だと言いづらい…。

「オレ、ジンライム」

 メニュー表を見て、もう1人の友人がさっさとオーダーを決めた。

 彼は特に店に対して興味とかなさそうだ。

「スーは、店の雰囲気とか気にならない?」
「店?」

 スーは、ぐるりと店内を見回して一言。

「いい店じゃん」

 それだけだった。

 相変わらず多くは語らない。でも、それが彼のいいところ。

 ボクが…好きだったところ。

 やがて。各々の頼んだ酒が届いた。



 久しぶりの会合も1時間程度で解散になった。

 スーがそろそろ帰ると言い出して。女好きの2人組が、そろそろ場所を移動しようぜ、と言い出したからだ。

 ボクは何となく2人組についていく流れだ。あの頃の様に。

 皆で店の外に出る。

 夜はまだ冷える。そろそろ春だと言うのに。

 ボクは何となく聞きたかった事を、スーの背中に投げかけた。

「スー。あの子とうまくいってる?」

 スーがちょっと驚いた様に振り返って、嬉しそうに笑った。それが答え。

「そう。なら良かった」

 不思議と心からそう言えた。



「小瀬くん」

 スーを見送って。3人で歩き出した時に、ボクを呼び止める声があった。

 久しぶりに聞いた声。
 ずっと…待ち侘びていた声。

 振り返ると、仕事帰りの大和だった。

 相変わらずのキッチリした格好をしてる。

「イッキの知り合い?」
「…会社の上司」

 ボクの声は普通だろうか。

 嬉しさに震えてないだろうか。

 ボクらの雰囲気で、大和は何かを察した様だ。

「あぁ、もしかして友人かい?」
「はい。高校時代の」
「そうか。楽しんで。良い週末を」

 それだけ言って。大和はBARに入って行った。男同士の出会いを待つBARに。

「イッキ、そろそろ行こうぜ」

 友人の1人が声をかけてくる。

 でも、ボクの足は動かなかった。

 BARに入った大和が、もし誰かと一緒に過ごしてしまったら。

 そんな不安がグルグル渦巻く。

 不安?

 ボクは今、不安なのか?

「イッキ、行ってこいよ。あの上司が気になるんだろ?」
「え?」
「俺達はどっかで飲み直すからよ」
「何でだよ?イッキは行かないの?」
「いいから、いいから」

 友人の1人が、もう1人を連れて行ってしまった。ボクを置いて。

 そんな気遣いが嬉しい。

 ボクはもう後悔したくない。

 昔の様に、自分の気持ちを抑えて、告白した時には既に遅くて。そんな後悔はしたくないんだ。

 ボクは振り返ってBARに向かった。



「何でギムレットなんて飲んでるんですか」

 ソイツは、よりによって、ギムレットなんて頼んでた。

 『遠い人を想う』

 そんなメッセージ発してたら、声かけてくれって言ってるもんだ。

「小瀬くん?どうしたんだ?友人は…」
「アイツらは…帰りました」

 そう不貞腐れた様に言って、ボクは大和の隣のカウンター席に座った。

 そして再び、いつものオールドファッションドをオーダーする。

 今日はいつもより飲み過ぎてるけど、でも酒がないと落ち着かない気がした。

「大和…課長は、遅かったですね」
「あぁ。ちょっと部下の相談にのってたんだ」

 そう言って、首元のネクタイを緩める。相変わらず美しい手と甲の筋がセクシーだ。

 寒い季節だから、腕が見れないのが残念だ。

「そんなにジッと見て、どうした?」

 ボクの視線に気づいた大和が意地悪そうに笑う。

「べつに…」

 ボクは慌てて視線をカクテルに戻した。

 大和とこうやって話すのは久しぶりで、何だか緊張した。

 あの吹雪の夜。

 大和はボクを先にタクシーに乗せて帰した。

 それから数週間。会社でもココでも、大和に会う事は無かった。

 本当に久しぶりなんだ…。

「ココに来るのは久しぶりだ。よく来てたのか?」
「…まぁ。週末は」
「……そうか」

 少しの無言。

 そのあと、おもむろに大和が残っていたギムレットを飲み干した。

「なら、俺がいたら邪魔だな」
「え?」
「じゃあな」

 大和が席を立とうとしてー。

 ボクは慌ててその腕を掴んだ。

「何で…帰るんですか?」
「あとくされない、一夜の相手を探してるんだろ?俺がいたら誰も寄って来ないぞ」

 そう話す大和の表情がとても冷たくて。

 ボクは縋る様に大和の腕を強く掴んだ。

「ま、待ってたんだ…っ」
「…?何を?」
「課長に…大和に、ココで待ってたら会えるんじゃないかって、それで、」
「待ってた?俺を?」

 あんなに冷たくしといて、今さらこんな風に言うなんて、恥ずかしい。

 それでも、今言わないと、大和が離れて行ってしまう。そんな気がした。

「あの日から、会社でなかなか会えないから、だからココでなら、もしかしたらって、」
「……」

 大和からの返事は無かった。

 それが怖くて、恐る恐る顔を上げる。

 大和はボクが掴まえていた腕と違う、もう片方の手で口元を抑えていた。

 気のせいか、ほんのり赤くなってる様に見えた。



◇◇◇



「…課長」
「大和でいい」
「え?」
「大和と呼んでくれ」

 そう言って。大和はベッドの上でボクにキスした。

 BARで遠回りながら、ボクの気持ちを伝えて。

 そのまま大和の住むマンションに連れ込まれた。

 いや、違う。ボクから望んだんだ。

 大和は最後の最後に選択肢をくれた。

 俺は恋人しか家に連れていかない。今夜お前を連れて行っていいか?って。

 酔いも回ってて。いつもの皮肉なんか忘れて、素直に頷いていた。

 そして今、2人で裸でベッドで横になっている。

 この前の続きの様に、互いに前をすり合わせながらー。

「この前の続きだ、やっと、できるな」
「ふ、きもち、いい」
「今夜はやけに素直だな」

 大和のモノがボクのモノを刺激する。

 強い刺激ではない、甘美な快感に、ボクも大和の腰も揺れる。

 頭がボーとして、思考を奪われる。

「やまと…なかに、入れて」
「欲しいのか?待ってろ。すぐ解してやる」

 指が中に入ってくる。

 何かを探す様に蠢いてた指がソコをとらえた。コリコリして、とても感じる場所。

「あぁ!そこ!気持ちいいっ」
「いいか?もっと乱れてもいいんだぞ」

 オイルを使ったのか、ボクの尻からぐちょぐちょといやらしい音がする。

 それに比例して、快感が高まる。

「あ、あ、あーっ」
「樹、可愛いな、もっと顔を見せて」

 見られてる。
 大和に感じてる顔を。

 こんな段階を踏む性交は初めてだ。

 これまで、ただただ激しくツッコまれる経験しかない。

 だから、甘い快感に、意識も体も全部が飲み込まれるー。

「もっとぉ、やまとぉ、もっとぉ」
「く、オレも限界っ」

 正面位で、ボクの股を開かせて。ヤマトが入ってきた。

 少しのキツさと苦しさと、好きな相手と繋がってる幸福感に、自然と涙が溢れた。

「樹…キツくないか?」
「へいき、だから、もっと」
「く、わかった。動くぞ」

 大和の腰が、抽送し始める。

 ボクの感じ場所を狙って、何度も何度も。

「あー、あー、何これ、きもち、いいっ」
「は、は、樹。好きだ。ずっと、ずっと好きだったんだ」
「ボクも、好きぃ、」
「本当か?本当に?」

 大和がボクから離れて、ボクの腰を掴んで。先ほどより激しく動き出した。つられてボクは激しい快感に飲み込まれる。

「ほんと、やまと、好きぃ」
「もう、ココは、俺の物だからな。他の、奴に、いれされんじゃ、ねぇぞ」

 言いながら、ポイントごとに、大和が腰を深く突いてくる。

 まるで、自分の形を覚えさせるかのように。

 何度も何度も。

 ボクの身体も揺さぶられて、声も言葉にならない。

 夢見心地で、奥から深い快感が駆け上がって。

「あ、あ、なにか、くる」
「はぁ、はぁ、一緒に、いこう」

 大和が腰を振りながら。

 ボクのナニを握った。

 それは後ろも前も、頭が真っ白になる快感で。

「樹…好きだよ」

 最後に耳元で、優しい囁きが聞こえた。



ーーー

 次話、最終話です。

 大和視線で終わります。
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