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「紫藤様…会いたかっだ…でず…」
涙が滝の様に溢れて言葉に詰まった。紫藤が黄山の肩をさすって、大丈夫か?と声をかけてくれた。
「よがっだ…ずっと…ゆぐえぶめいだっだがら…、ぐすっ、いぎででくれで、ありがとゔございまず、うぅ」
「黄山…心配させて悪かったな。俺は元気だ。心配するな」
「よがっだ、ぐずっ、ほんどによがっだ」
渡されたハンカチで涙を拭いたが瞬く間にグッショリと濡れてしまった。
目の前の探し求めた人は、あまりにも見た目が変わっていた。
記憶の中の彼は、短髪でマッチョで体格も良くて、野生的なセクシーさがあった。
でも目の前の紫藤は、体格は変わらないがすっかり細身になって、髪も伸ばし、中性的な美しさを宿していた。
あまりにも変わったその容姿に、今まで彼が見つからなかった訳だと気付かされた。
…もしかしてお姉様になったのだろうか。
でも、それはどちらでも良かった。
ありのままの自分を受け入れてくれた人だから、自分もありのままの彼を受け入れるだけだ。
「その子、遼馬君の知り合い?」
「はい。大学の時の…」
「そう…」
気づけば先ほど紫藤を口説いていた男性客が黄山の側に座っていた。
これでも飲みなさい、とグラスを渡された。水だと思って一息で飲んだら、まさかの度の強いお酒だった。
思わず咳き込む。でも、お陰で涙は引っ込んだ。
「君….黄山君?もしかして彼を、遼馬君をずっと探してたのかい?」
「はい…突然行方不明になったって聞いて心配で…仲間で一緒に探して…。でも日本国内を探しても見つからなくて、だから行ける奴らで海外も探そうって、色々な国に行って…」
「…もしかしてお前、それで旅行会社に?」
「え?僕の職場知ってるんですか?」
まさか紫藤が自分の近況を知ってるとは思わずに、紫藤を見つめる。
心配そうに黄山を見る瞳は、昔の紫藤より角が取れて優しくなっていた。
紫藤様、と思わず伸ばしかけた手を、何故か隣の男に取られた。
「もしかして10年もかい?」
「…はい」
「何でそんなに…」
「それは…心配で。それに謝りたくて…」
あの日の後悔が蘇る。
お酒が入っている事もあり、感情のままに涙が溢れてくる。
涙を拭いて黄山は紫藤に視線を向けた。
「紫藤様。僕ずっと謝りたくて。あの日、傷つけてごめんなさい。勘違いで関係ない人を巻き込んですみませんでした」
「黄山…もういい。俺は怒ってない。俺こそお前をそんなに追い詰めて悪かったな。ずっと後悔してたよ」
「紫藤様…」
「黄山君は一途なんだね。せっかくだから久々の再会を祝おうじゃないか。さあ黄山君、飲みなさい」
何故かまた邪魔する様に、男が酒を渡して来た。バーテンダーの紫藤は目の前にいるのに、どこから用意したのか。
「私も共に祝おう。素敵な出会いと運命の再会に乾杯」
運命の再会。
その言葉が嬉しくて、言われるがままに渡されたグラスを空けた。
今夜は最高の夜だ。
探し求めていた人に10年越しに会えた。
幸せな1日だ。
何杯飲んだかわからなくなった頃、背後でバタンと何かが倒れる音がした。
振り返りたいが、黄山も酒が回り頭がボーっとして、ろくに身体を動かせない。
周囲のやりとりで、どうやら酒に酔った客が倒れた様だとわかった。
気づけば紫藤が目の前からいなくなっていた。
「遼馬さん、こっちはもういいから。連れて帰って」
「でも…」
「翠さんと一緒に帰るから。きっと今夜は飲み過ぎて寝込むよ。遼馬さんが手でも握ってあげてよ」
「…わかった」
声の様子から紫藤が誰かを介抱してるのがわかった。
紫藤様が行ってしまう。待って、行かないで、と思わず手が伸びる。
その手を隣の男性客が掴んだ。
「ダメだよ、邪魔しちゃ」
「れも、しろーさまがいっちゃう」
「行かせてあげなさい。彼はやっと長年かけた恋が実ったんだ。彼が好きなら邪魔しちゃダメだよ」
恋。紫藤様の好きな人。
結局最後まで誰かわからなかった相手。
「しろーさまはしあわせ?いま、しあわせれすか?」
「あぁ。人生を捧げてしまえるほど愛した人と一緒になれたんだ。幸せに決まってるよ」
「そ…か…。よかった。…よかった」
良かった。心からそう思えた。
人生を捧げてしまえる程の相手。
それならきっと、相手の為に姿をくらましたのかもしれない。
不思議な程、相手への嫉妬は湧かなかった。
紫藤が元気で幸せなのが1番。それに勝る物は無いと今は知ってるから。
これで仲間達にも良い報告ができる。
そして自分もやっとあの日から先に進める。
「ところで黄山君は恋人はいるのかな?」
「いないれす」
「こんな可愛いのに何故?遼馬君を思って?」
「しろーさまと、あともうひとりきずつけたから。ぼくははんざいしゃなんれす、らから…」
「遼馬君は怒って無いって言ってたよ」
「もうひとり…すずくろくんにもあやまらないと…」
「鈴黒?彼が許せば黄山君は自分が許せるの?」
「たぶん」
男性客が店員を呼ぶ。何かを頼んでるが、よく聞こえなかった。頭がフラフラする。飲み過ぎたかもしれない。
「お義父様、呼びました?」
誰かが側に近づいて来た。少し高めの男の声。何だか聞き覚えがある。
「彼がね、凛人君に謝りたいんだって」
凛人。その名前に目が覚める。
バっと側に来た人を見上げると、そこには紫藤同様、ずっと行方知れずの鈴黒凛人が立っていた。
黄山が紫藤の恋人だと勘違いして、ナイフで襲いかかった相手だった。
「す…鈴黒君」
「……」
凛人は黄山に気づくと、顔色を変え警戒した様に後退りした。
フラフラになりながら、黄山は椅子から下りてその場に土下座する。
「鈴黒君、ごめんなさい!あの日、勘違いして、怖がらせて、ごめんなさい!」
返事は無い。
怖くて顔を上げられなかった。
「料理どうでした?」
「え?」
意外な質問に思わず、凛人を見上げる。彼は相変わらず警戒した様に離れた場所から黄山を見ていた。
「料理…和食頼んだ日本人がいたって。あれ、あなたでしょ?」
「あぁ。美味しかったよ。まるで日本で食事してるみたいだった。僕添乗員の仕事をしてるんだけど、ツアー客にココを薦めようと思ってる」
「許します!だから、じゃんじゃんお客さんに宣伝して下さい!」
「あ、ありがとう」
大学時代は大人しい印象だったのに、食い気味の凛人にちょっと驚く。こんな奴だったけ?
「料理も店の雰囲気も悪くないのに思ったほど客の入りが良くなくて、困ってたんです。ぜひ紹介してください!」
「は、はい」
しかも何か圧が強い。
この近くに参考になる店があるからと、2、3軒おススメな場所を伝えた。
「これで黄山君の贖罪は終わったのかな?」
お隣に座っていた男性客が声をかけて来た。すっかり存在を忘れていたが、彼は黄山と凛人の話が終わるのを待っていた様だ。
「はい。ありがとうございます」
「それは良かった。喉乾いただろう?ハイ」
今度は透明のコップを渡してくれた。これはどう見ても水だ。
グイッと飲み干して、ゴホッと咽せた。嘘だろ、こんなコップに酒とか…。ぐるぐる目が回る。薄れていく意識の中で、声が聞こえて来る。
「この子は危険だから、私が連れて行くよ」
「危険て」
「こんな…子…絆されて……。もう君達に……立てたく……からね」
黄山の意識は底に沈んでいった。
◇◇◇
『何で泣いてるんだい?』
誰かが囁いた。
泣いてる?僕は泣いてるのか?
よくわからないけど、もし今僕が泣いてるなら、きっと嬉しいから。
やっと会いたかった人に会えて、ずっと謝りたかった人達に謝れたから。
『そう、良かったね。じゃあこれからはちゃんと自分も幸せになるんだよ』
…僕も幸せになっていいの?
『当たり前じゃないか。君の好きな人は君の不幸を望む様な奴なの?』
ちがう。そんな人じゃない。
全然僕らに興味も無くて、愛も返してくれない人だったけど。
その代わり僕らに期待もしなかった。
だから、ありのままの僕らを受け入れてくれた。自分でもどうしようも無い、自分の一部を、何でも無い事の様に受け入れてくれた。
『あぁ泣かないで。もう自分を許していいんだよ』
自分を…許して…いいの?
『いいよ。君が許せないなら私が許してあげる。君も幸せになりなさい』
優しく語りかける人が、優しく頭を撫でてくれた。気持ちいい。
ずっと自分はもう恋愛する資格は無いと思っていた。
だから、そういう雰囲気になりそうな相手とも距離を空けて避けていた。
でも本当は。
誰かを愛したかった。
誰かに愛されたかった。
今度こそ心から。
側に温もりを感じて、酔ってまだうまく動かない手で必死にしがみついた。誰かの温もりに触れたのは数年ぶりだった。
『ーっ』
お願い。僕のことを愛して。
『ー参ったな』
相手の男が黄山の手を解いて離れていきそうな気配がした。
温もりが離れていくのが寂しくて、必死にしがみついた。
『……』
しばらくして。
優しく目元を拭われた。
そして頬にキスされる。
『いいよ。今だけでも私が君を愛してあげるから泣かないで』
頭も身体もダルくて、うまく動けない。まるで夢心地だ。そんな中、温かく大きな手が身体をまさぐる。
久しぶりの感触に、んん、と声が漏れた。頬に瞼に、唇に沢山のキスが下りてくる。
はぁ、熱い吐息が漏れた。その吐息ごと飲み込むかの様に口を覆われ、柔らかい物が入ってくる。
それが黄山の舌と絡み吸われた。深く口づけられ、口の端から唾液が溢れた。
「んん…あふ…」
相手は経験豊富らしく、黄山の舌や唇を吸い少しずつ気持ちを高めて来る。ぴちゃぴちゃイヤラしい音が黄山の耳を刺激した。
指が胸をの先を摘んだ。
あぁ、と思わず声が漏れる。目を開けたいのに、お酒を飲みすぎたせいでそれさえ難しい。
相手が胸に吸いついて来た。
もう片方の粒を手でいじられる。
お酒のせいか、相手が誰だかわからないせいか、少しの刺激が興奮を高める。久しぶりという事もあり、黄山のソコは既に固くなっていた。
それに気づいた相手が、ズボンの中に手を入れて触って来た。誰かに触られたのは数年ぶりだった。
「あ…気持ちいい…」
思わず腰がくねる。
いつの間にかズボンも下着も脱がされていた。脚を大きく広げられ、敏感な場所を温かい何かが包んだ。
「待って…久しぶりだから…ふ、ぁ」
温かい何かに包まれ、滑りのある柔らかい物が這う様に触れてきた事で、相手の口で愛撫されていると気づいた。
あ、僕、今、口でされているー。
それは黄山がよく好きな相手にしていた行為だった。
それをする時、黄山はひたすら相手に喜んで欲しくて。ありったけの想いを込めて奉仕した。
黄山にとっての最大の愛情表現だった。
それを今、見知らぬ相手からされている。
愛されている。
喜びが胸から溢れて来た。
男の口が、舌が、確かに黄山を気遣い、愛し、喜ばせようとしているのが伝わってきた。
この瞬間、黄山は見知らぬ誰かからの愛を確かに受け取っていた。
涙が滝の様に溢れて言葉に詰まった。紫藤が黄山の肩をさすって、大丈夫か?と声をかけてくれた。
「よがっだ…ずっと…ゆぐえぶめいだっだがら…、ぐすっ、いぎででくれで、ありがとゔございまず、うぅ」
「黄山…心配させて悪かったな。俺は元気だ。心配するな」
「よがっだ、ぐずっ、ほんどによがっだ」
渡されたハンカチで涙を拭いたが瞬く間にグッショリと濡れてしまった。
目の前の探し求めた人は、あまりにも見た目が変わっていた。
記憶の中の彼は、短髪でマッチョで体格も良くて、野生的なセクシーさがあった。
でも目の前の紫藤は、体格は変わらないがすっかり細身になって、髪も伸ばし、中性的な美しさを宿していた。
あまりにも変わったその容姿に、今まで彼が見つからなかった訳だと気付かされた。
…もしかしてお姉様になったのだろうか。
でも、それはどちらでも良かった。
ありのままの自分を受け入れてくれた人だから、自分もありのままの彼を受け入れるだけだ。
「その子、遼馬君の知り合い?」
「はい。大学の時の…」
「そう…」
気づけば先ほど紫藤を口説いていた男性客が黄山の側に座っていた。
これでも飲みなさい、とグラスを渡された。水だと思って一息で飲んだら、まさかの度の強いお酒だった。
思わず咳き込む。でも、お陰で涙は引っ込んだ。
「君….黄山君?もしかして彼を、遼馬君をずっと探してたのかい?」
「はい…突然行方不明になったって聞いて心配で…仲間で一緒に探して…。でも日本国内を探しても見つからなくて、だから行ける奴らで海外も探そうって、色々な国に行って…」
「…もしかしてお前、それで旅行会社に?」
「え?僕の職場知ってるんですか?」
まさか紫藤が自分の近況を知ってるとは思わずに、紫藤を見つめる。
心配そうに黄山を見る瞳は、昔の紫藤より角が取れて優しくなっていた。
紫藤様、と思わず伸ばしかけた手を、何故か隣の男に取られた。
「もしかして10年もかい?」
「…はい」
「何でそんなに…」
「それは…心配で。それに謝りたくて…」
あの日の後悔が蘇る。
お酒が入っている事もあり、感情のままに涙が溢れてくる。
涙を拭いて黄山は紫藤に視線を向けた。
「紫藤様。僕ずっと謝りたくて。あの日、傷つけてごめんなさい。勘違いで関係ない人を巻き込んですみませんでした」
「黄山…もういい。俺は怒ってない。俺こそお前をそんなに追い詰めて悪かったな。ずっと後悔してたよ」
「紫藤様…」
「黄山君は一途なんだね。せっかくだから久々の再会を祝おうじゃないか。さあ黄山君、飲みなさい」
何故かまた邪魔する様に、男が酒を渡して来た。バーテンダーの紫藤は目の前にいるのに、どこから用意したのか。
「私も共に祝おう。素敵な出会いと運命の再会に乾杯」
運命の再会。
その言葉が嬉しくて、言われるがままに渡されたグラスを空けた。
今夜は最高の夜だ。
探し求めていた人に10年越しに会えた。
幸せな1日だ。
何杯飲んだかわからなくなった頃、背後でバタンと何かが倒れる音がした。
振り返りたいが、黄山も酒が回り頭がボーっとして、ろくに身体を動かせない。
周囲のやりとりで、どうやら酒に酔った客が倒れた様だとわかった。
気づけば紫藤が目の前からいなくなっていた。
「遼馬さん、こっちはもういいから。連れて帰って」
「でも…」
「翠さんと一緒に帰るから。きっと今夜は飲み過ぎて寝込むよ。遼馬さんが手でも握ってあげてよ」
「…わかった」
声の様子から紫藤が誰かを介抱してるのがわかった。
紫藤様が行ってしまう。待って、行かないで、と思わず手が伸びる。
その手を隣の男性客が掴んだ。
「ダメだよ、邪魔しちゃ」
「れも、しろーさまがいっちゃう」
「行かせてあげなさい。彼はやっと長年かけた恋が実ったんだ。彼が好きなら邪魔しちゃダメだよ」
恋。紫藤様の好きな人。
結局最後まで誰かわからなかった相手。
「しろーさまはしあわせ?いま、しあわせれすか?」
「あぁ。人生を捧げてしまえるほど愛した人と一緒になれたんだ。幸せに決まってるよ」
「そ…か…。よかった。…よかった」
良かった。心からそう思えた。
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それならきっと、相手の為に姿をくらましたのかもしれない。
不思議な程、相手への嫉妬は湧かなかった。
紫藤が元気で幸せなのが1番。それに勝る物は無いと今は知ってるから。
これで仲間達にも良い報告ができる。
そして自分もやっとあの日から先に進める。
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「いないれす」
「こんな可愛いのに何故?遼馬君を思って?」
「しろーさまと、あともうひとりきずつけたから。ぼくははんざいしゃなんれす、らから…」
「遼馬君は怒って無いって言ってたよ」
「もうひとり…すずくろくんにもあやまらないと…」
「鈴黒?彼が許せば黄山君は自分が許せるの?」
「たぶん」
男性客が店員を呼ぶ。何かを頼んでるが、よく聞こえなかった。頭がフラフラする。飲み過ぎたかもしれない。
「お義父様、呼びました?」
誰かが側に近づいて来た。少し高めの男の声。何だか聞き覚えがある。
「彼がね、凛人君に謝りたいんだって」
凛人。その名前に目が覚める。
バっと側に来た人を見上げると、そこには紫藤同様、ずっと行方知れずの鈴黒凛人が立っていた。
黄山が紫藤の恋人だと勘違いして、ナイフで襲いかかった相手だった。
「す…鈴黒君」
「……」
凛人は黄山に気づくと、顔色を変え警戒した様に後退りした。
フラフラになりながら、黄山は椅子から下りてその場に土下座する。
「鈴黒君、ごめんなさい!あの日、勘違いして、怖がらせて、ごめんなさい!」
返事は無い。
怖くて顔を上げられなかった。
「料理どうでした?」
「え?」
意外な質問に思わず、凛人を見上げる。彼は相変わらず警戒した様に離れた場所から黄山を見ていた。
「料理…和食頼んだ日本人がいたって。あれ、あなたでしょ?」
「あぁ。美味しかったよ。まるで日本で食事してるみたいだった。僕添乗員の仕事をしてるんだけど、ツアー客にココを薦めようと思ってる」
「許します!だから、じゃんじゃんお客さんに宣伝して下さい!」
「あ、ありがとう」
大学時代は大人しい印象だったのに、食い気味の凛人にちょっと驚く。こんな奴だったけ?
「料理も店の雰囲気も悪くないのに思ったほど客の入りが良くなくて、困ってたんです。ぜひ紹介してください!」
「は、はい」
しかも何か圧が強い。
この近くに参考になる店があるからと、2、3軒おススメな場所を伝えた。
「これで黄山君の贖罪は終わったのかな?」
お隣に座っていた男性客が声をかけて来た。すっかり存在を忘れていたが、彼は黄山と凛人の話が終わるのを待っていた様だ。
「はい。ありがとうございます」
「それは良かった。喉乾いただろう?ハイ」
今度は透明のコップを渡してくれた。これはどう見ても水だ。
グイッと飲み干して、ゴホッと咽せた。嘘だろ、こんなコップに酒とか…。ぐるぐる目が回る。薄れていく意識の中で、声が聞こえて来る。
「この子は危険だから、私が連れて行くよ」
「危険て」
「こんな…子…絆されて……。もう君達に……立てたく……からね」
黄山の意識は底に沈んでいった。
◇◇◇
『何で泣いてるんだい?』
誰かが囁いた。
泣いてる?僕は泣いてるのか?
よくわからないけど、もし今僕が泣いてるなら、きっと嬉しいから。
やっと会いたかった人に会えて、ずっと謝りたかった人達に謝れたから。
『そう、良かったね。じゃあこれからはちゃんと自分も幸せになるんだよ』
…僕も幸せになっていいの?
『当たり前じゃないか。君の好きな人は君の不幸を望む様な奴なの?』
ちがう。そんな人じゃない。
全然僕らに興味も無くて、愛も返してくれない人だったけど。
その代わり僕らに期待もしなかった。
だから、ありのままの僕らを受け入れてくれた。自分でもどうしようも無い、自分の一部を、何でも無い事の様に受け入れてくれた。
『あぁ泣かないで。もう自分を許していいんだよ』
自分を…許して…いいの?
『いいよ。君が許せないなら私が許してあげる。君も幸せになりなさい』
優しく語りかける人が、優しく頭を撫でてくれた。気持ちいい。
ずっと自分はもう恋愛する資格は無いと思っていた。
だから、そういう雰囲気になりそうな相手とも距離を空けて避けていた。
でも本当は。
誰かを愛したかった。
誰かに愛されたかった。
今度こそ心から。
側に温もりを感じて、酔ってまだうまく動かない手で必死にしがみついた。誰かの温もりに触れたのは数年ぶりだった。
『ーっ』
お願い。僕のことを愛して。
『ー参ったな』
相手の男が黄山の手を解いて離れていきそうな気配がした。
温もりが離れていくのが寂しくて、必死にしがみついた。
『……』
しばらくして。
優しく目元を拭われた。
そして頬にキスされる。
『いいよ。今だけでも私が君を愛してあげるから泣かないで』
頭も身体もダルくて、うまく動けない。まるで夢心地だ。そんな中、温かく大きな手が身体をまさぐる。
久しぶりの感触に、んん、と声が漏れた。頬に瞼に、唇に沢山のキスが下りてくる。
はぁ、熱い吐息が漏れた。その吐息ごと飲み込むかの様に口を覆われ、柔らかい物が入ってくる。
それが黄山の舌と絡み吸われた。深く口づけられ、口の端から唾液が溢れた。
「んん…あふ…」
相手は経験豊富らしく、黄山の舌や唇を吸い少しずつ気持ちを高めて来る。ぴちゃぴちゃイヤラしい音が黄山の耳を刺激した。
指が胸をの先を摘んだ。
あぁ、と思わず声が漏れる。目を開けたいのに、お酒を飲みすぎたせいでそれさえ難しい。
相手が胸に吸いついて来た。
もう片方の粒を手でいじられる。
お酒のせいか、相手が誰だかわからないせいか、少しの刺激が興奮を高める。久しぶりという事もあり、黄山のソコは既に固くなっていた。
それに気づいた相手が、ズボンの中に手を入れて触って来た。誰かに触られたのは数年ぶりだった。
「あ…気持ちいい…」
思わず腰がくねる。
いつの間にかズボンも下着も脱がされていた。脚を大きく広げられ、敏感な場所を温かい何かが包んだ。
「待って…久しぶりだから…ふ、ぁ」
温かい何かに包まれ、滑りのある柔らかい物が這う様に触れてきた事で、相手の口で愛撫されていると気づいた。
あ、僕、今、口でされているー。
それは黄山がよく好きな相手にしていた行為だった。
それをする時、黄山はひたすら相手に喜んで欲しくて。ありったけの想いを込めて奉仕した。
黄山にとっての最大の愛情表現だった。
それを今、見知らぬ相手からされている。
愛されている。
喜びが胸から溢れて来た。
男の口が、舌が、確かに黄山を気遣い、愛し、喜ばせようとしているのが伝わってきた。
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