【完結】壊された女神の箱庭ー姫と呼ばれていきなり異世界に連れ去られましたー

秋空花林

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最終章 運命を創る者

10 最終話

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 伴侶の儀を終えた太陽は、洗面台の鏡を見て衝撃を受けた。

「目が緑になってる!」

 どちらかと言えば、濃いめの黒目だったのにルースの様な綺麗な緑になっていた。

「僕の力が入ったからね」

 浴室の入口にもたれながら、ルースがこちらを見ていた。上半身裸でズボンだけ履いたルースは、引き締まった身体にデニムがよく似合っていた。

 ……うちの旦那様がカッコいい。

 しばしその姿に見惚れつつ、どういう事か尋ねた。

「僕の生命と聖気の半分がタイヨウに移ったんだ。目の色は落ち着いたら戻るけど、多少は緑や大地の聖気の恩恵は得られると思うよ」
「…スゴイ」

 知らなかった。自分もルースみたいにあの緑の檻を作ったり、スパイ○ーマンみたいな事が出来るのだろうか。想像したらちょっと楽しくなって来た。

「そういえば、ルースさん。いつ向こうに戻りますか?」
「いつでも大丈夫。呼べば迎えが来るから」
「じゃあ、今日は休んで、明日にでも…」
「タイヨウ」

 いつの間かルースが目の前に来ていた。あんなに抱かれたのに、均整の取れた上半身にドキドキする。

「いつでも大丈夫。そう言ったでしょ?」
「は、はい」
「学校を卒業してからでもいいんだよ」

 ルースの言葉にハッとさせられる。
 高校卒業。それは、ルース達の世界に行くまで、ずっと太陽が掲げていた目標だった。

「いいんですか?あと半年以上ありますよ?」
「もう3年も経ってるんだ。あと半年延びても大丈夫」

 ルースの言葉にあきらめていた気持ちが蘇ってくる。叶うならば高校も卒業して、ちゃんと身辺を整理して向かいたい。

「僕も君が学校を卒業するのを見たい」
「ルースさん」

 ルースの言葉が太陽の背中を押した。

 この世界に来て3年。ルースなりに太陽を事を理解出来るように、この世界の事を勉強したと言っていた。きっと彼なりに太陽の気持ちや立場を考えてくれてるのだ。

「そうします」

 学校を卒業する来年の春。
 それまでに身の回りの事を片付けて、再び異世界に帰る。そう決めたのだった。



◇◇◇



 夏休みが明け、太陽は学校へ通った。

 人間では無くなった。そう言われたけれど、見た目は何も変わらなかった。髪も目も元通りになったからだ。

 だけれども。身体や感覚は大きく変わっていた。

「おい!太陽!お前何で実力隠してたんだよ!」
「隠してないよ!たまたまだよ!」
「たまたまで、あんな記録出るかよ!絶対運動部入れ!せめて助っ人!」
「嫌だってばー!」

 体育の授業で劇的に身体能力が上がったのがバレて、日々体育教師や運動部から熱い勧誘を受ける様になった。

 最近では授業終わりに追いかけられ、鬼ごっこをする騒がしい日々だ。

「もう行ったかな?」

 暫く隠れていた校舎の裏から、辺りを伺ってこっそり出る。近くにあった花壇が目に入った。

 一見、普通に咲いている様に見える花達の元気が無い。花壇に太陽が手を添えると、緑の光の粒が弾けて、少し花々が元気を取り戻した。

 これがルースの見ている世界。
 愛しい人と同じ目線で、同じ感覚で生きている。

 それが嬉しくて、太陽の胸を幸せな気持ちが満たした。

 

 今日はいつもより執拗に追いかけられたせいで、帰りが遅くなってしまった。リュックを背負って急ぎ足で校門へ向かう。

 既に日が暮れ始めた校門の向こう。茜色の空をバックに校門の壁にもたれかかるルースの姿が見えた。

「ルースさん!?」
「タイヨウ、おかえり」

 慌てて駆け寄った太陽に、ルースが体を起こしながら微笑んだ。

「ごめんなさい、もしかして遅いから心配させました?」
「うーん、それもあるけど」

 ちょっと考えた後、ニッコリ笑った。

「何となく?迎えに来たかったんだ」
「~~~っ」

 さぁ帰ろ、とルースが太陽の手を引いて歩き出す。

 何気ない日常で、こんな風に自分に「おかえり」と言ってくれる人がいる。迎えに来て、一緒に帰ってくれる人がいる。

 それがとても幸せでー。

「どうしたの?」
「俺、ルースさんで良かったです」
「え?」
「あの世界で初めて会ったのも、魅了されたのも、相手がルースさんで良かったです」

 ルースがびっくりした顔をした。
 そんな顔が珍しくて、思わず笑ってしまう。

「帰りましょう。俺達の家に」

 立ち止まったルースの手を、今度は太陽が引っ張って歩き出した。

 そんな2人を夕陽が照らしていた。



◇◇◇



 それから数ヶ月後。
 太陽は高校を卒業した。

 友人には知人を頼って海外へ行くと伝えた。
 そして、それまで住んでいたアパートは引きら払った。

 卒業後、太陽の行方を知る者はいないー。
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