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最終章 運命を創る者

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 太陽は熱に浮かされていた。

 悪寒と頭痛と熱で、グッタリしたまま耳を澄ます。少し離れた所で何かを準備してる音がした。

 誰?母さん?父さん?

 ゴホッと咳き込む。誰かが抱き起こして水を飲ませてくれた。

 何で俺…熱があるんだっけ?
 そうだ。どしゃ降りの中、ずっと雨に打たれてそれで…。思い出せないまま太陽は眠りについた。

 

 目が覚めた時、太陽はいつの間かアパートの布団で寝ていた。熱はすっかり下がっていた。

 あの日何があったのかはよく覚えていない。

 だけど。胸にあった辛い焦燥感は何故か薄まっていた。



◇◇◇



 太陽と最後に接触してから数年。
 幾つもの季節をルースは独りこの世界で過ごした。

 少しずつこの世界の言葉を覚え、文化を学び、それとなくこの世界に紛れ込んだ。そして近すぎない距離で太陽を見守った。

 そしてとうとう。

 運命の日がやって来た。



 その日、Tシャツとジーンズ姿の太陽がベンチに座って休憩している様子を、離れた所から見守っていた。

 後ろの木から飛び出た手が、白い聖気を放ちながら、彼の腕を掴み木の中に引きずり込んだ。

 そして数分後。

 今度は木の幹から、ヒラヒラした宗教服とズボンを履いた太陽が飛び出て来た。

 何が起きたか分からず呆然としている様子の太陽に近づいた。

「セーヤ」
「誰?」

 ルースの声に振り返った太陽が、一瞬不思議そうな表情を浮かべる。まるで知らない人を見たかの様に。

 そして数秒後。

「もしかしてルースさん?」

 彼がルースの名を呼んだ。

 あぁ。セーヤだ。

「どうしてルースさんが?それにその格好…」
「やっと会えた」

 太陽の質問に答える間もなく、ルースは太陽を抱きしめた。

 ルースが追いかけて来た恋人が目の前にいた。

 ルースがこの世界に来て3年の月日が経っていた。
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