【完結】壊された女神の箱庭ー姫と呼ばれていきなり異世界に連れ去られましたー

秋空花林

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最終章 運命を創る者

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 妖精王は数年の誤差の可能性があると言った。

 なら今この世界のセーヤはさっきまで一緒にいた彼では無いかも知れない。

「それでも必ず探し出すよ、セーヤ」

 ルースは目を閉じると、手の平を固い石につけた。そこから聖気を送り込んだ。

 ルースを中心に、緑の美しい光が蔦の様な模様を描いて広がっていく。ルースの探し人を見つける為にどこまでも。

 幸いにして人間に聖気は見えない。その為、ルースの放った光はこの世界の人間に気づかれる事なく円状にその触手を伸ばし続けた。



 探索の蔦を張り巡らす事、数分。

 そのサーチに、とうとうかかる存在が現れた。

 今いる場所から少し離れた場所に彼がいる。

 場所を突き詰めたルースは、自分自身に変化の魔法をかける。

 エルフの特徴である尖った耳を隠し、緑の髪と目を黒に色を変えた。着ている服も闇夜に紛れるよう黒くてシンプルな物へ変化させて、ルースはビルの屋上から飛び降りた。



◇◇◇



 恋人のいる筈の場所は酷い惨状だった。

 高い建物をつたい、動く物体の上に乗って数十分移動した先に彼はいた。

 見た事ない大きな物同士がぶつかり合ったらしく、互いが大きく歪んでいた。よく見ればその中に人がいる事が分かった。

「セーヤ!?」

 歪んだ物体の1つにルースの恋人はいた。物体の開け方がわからず、割れたガラスから彼を引きずり出した。

 横たわらせ状態をチェックする。顔に擦り傷はあるが、大きな傷は無さそうだった。

「セーヤ!セーヤ!起きて!大丈夫?」
「…誰?」

 閉じていた黒い瞳が開き、ルースを捉えた。まるで知らない人を見る表情で、不思議そうにルースを見つめた。

「僕だよ。ルースだ」
「ルース?」

 首を傾げるその表情はルースが知る彼よりも幾分幼く見えた。

「知らない、誰…」

 周囲を見まわした彼は、目の前の惨状に言葉を失った。自分の乗っていた車と対向車が衝突していたからだ。

 その車には彼の両親が共に乗っていた筈。

「父さん!母さん!」

 飛び起きて車に駆け寄る。2人からの返事は無い。どちらも頭から血を流して意識不明だった。

「救急車を!救急車を呼んで下さい!」

 泣きながら彼は周囲に懇願した。



◇◇◇



 ココはセーヤが自分達の元へやって来るよりも数年前の世界。薄々ルースはそれを察していた。

 ルースを知らない幾分幼い彼。
 そして、家族はいないと言っていた言葉。

 だからきっと、これから数年後に自分達は出会うべきだ。下手に関わってはいけない。

 頭ではそれが分かっていた。

 だから極力彼に関わらずに離れた所から見守っていた。その光景を見る迄は。



 上空が真っ黒な雲に覆われ、稲光や雷鳴が轟くどしゃ降りの中。

 彼は1人、雨に打たれながら1つの墓石の前に立っていた。何時間も。

「何でココにずっといるの?」
「…誰?」

 ぼんやりと虚な瞳で、彼は急に現れたルースを見上げた。生気が無い。そんな目だった。

「帰らないの?」
「…帰る場所が無い」

 黒い瞳から流れ落ちるのは雨か涙か。

「駆け落ちしたのに何で面倒みないといけないんだって追い出されたんだ」
「…誰に?」
「親戚」

 勝手に自分1人で生きて行けと、親戚の用意したアパートの鍵を渡されて追い出された。
 元々住んでいた太陽達の家はローン返済にあてるからと売りに出されてしまったから。

 事故を起こした相手が謝罪に来たが、賠償金は親戚が話をつけたからどうなったかは分からない。

 太陽の元に残ったのは、かろうじて太陽が高校を卒業するまで何とか食い繋ぐ程度の親の貯金だけだった。

「こんな事なら…俺も…一緒に連れていってくれたら良かったのに…!」

 未来を見通せず、太陽はその場で泣き崩れた。激しい雨の中、嗚咽を上げて拳を地面に打ち付ける。

 病院で両親の死を知って以降、警察や親交の無かった親戚との出会い、葬儀と立て続けにこなしている内に徐々に太陽は実感した。

 この世界で自分は独りだ。大事な人達は自分を置いて逝ってしまった。

「どうして、あの時…一緒に」
「セーヤ!」

 見兼ねたルースが、血の滲んだ太陽の拳を止めた。

「きっとこの先、出会えるから」
「……」
「君の事を想って、君の家族になってくれる人達が現れるから」

 自分は今、決して許させれない事をしようとしている。自覚していた。

 それでも、今にも壊れてしまいそうな彼を放っておけなかった。

「僕の目を見て」
「…何?」
 
 瞳の変化を解いて、緑の眼で太陽の眼を覗き込んだ。瞳に聖気を宿す事で、ルースの瞳は美しく緑に輝く。

 その様子に太陽が息を飲んで惹き込まれるのが分かった。

「きっといつか僕と君はまた出会う。だからそれまで生きて」

 意志を持って。
 ルースは太陽に魅了の魔法をかけたー。
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