上 下
170 / 181
最終章 運命を創る者

しおりを挟む
「王女の時を止めたんですか?」

 キャスに肩を貸しながらラリエスが近づいて来た。妖精王が今施したのは、かつてラリエスとキャス、ルースの時を止めた魔法だ。

「一時的かもしれぬ。ずっとかもしれぬ。だが我はこの様な形でも側にいれるのなら構わぬ」

 妖精王は氷に閉じ込められた妖精を愛おしそうに抱きしめた。

 それを一瞥してラリエスはキャスと共に、床に散った土の様な物に触れた。もう瘴気は感じない。

「さっきのあの男は一体何なのです?」
「アイツは前に俺が殺したヤツだ。瘴気に蝕まれて西に向かって来たから殺した」
「セーヤつれてた」
「では死人ですか?」

 悪男とショーキの言葉にラリエスが眉を顰めた。死人を操る術など聞いた事ない。

「彼奴は体内に瘴気を宿していた。恐らく死してなお操られていたのだろう」

 妖精王の言葉に、誰が?と返す者はいなかった。そんな事が出来る存在は1つしかない。

「ルースよ。そろそろ行くがよい」

 妖精王がルースに視線を向けた。もう涙は止まっていた。

「今ならまだ気配を追って飛ばせる。ただ数年の誤差は許せ」
「わかった。ありがとう」

 ルースがしっかりと頷き、空と悪男を見た。

「ソラ、ワルオ行って来るよ」
「アイツを頼む。きっとまた1人になったと泣いてる筈だ」

 泣き虫で寂しがり屋の彼を1番に迎えに行ってやりたいところだが、ここはルースに譲るべきだ。空はそう自分を納得させた。

「ルース兄貴!セーヤの側にいてやってな」
「サミシイ!」

 悪男とショーキが泣きながら見送りの言葉を述べた。

 2人とも太陽を連れて帰って来いとは言わなかった。少なくとも今太陽がいる場所は安全な筈だからだ。

 各地に長達が聖気で結果を張り、金の者が名をつけたこの世界でさえ、まだ瘴気の脅威は残っていた。

 本当に彼の事を思うなら、この世界に帰って来いとは言えないのだ。

「準備は良いか?」

 妖精王の問いかけにルースは頷いた。もとより準備など必要ない。ただこの身一つで恋人を追いかけるだけだ。

 妖精王が片手で氷を抱きながら、もう片方の手で人差し指を立てる。そこに白い光の粒が宿る。

「もし、この世界に戻る事を選択するなら願え。縁ある者が迎えに行く」

 くるん。妖精王が人差し指を回した瞬間。ルースの意識は暗転した。



◇◇◇



 騒がしい音が耳を刺激する。聞きなれない騒々しさに、ルースは目を覚ました。

 ここは?

 倒れたままの状態で、ルースは視線だけでまず周囲の状況を確認した。目の前には固い石が広がり、上空は闇が広がっていた。

 幸い他の者の気配は無い様だ。ルースは誰もいない事を確認して身を起こした。

 ルースの眼前に広がったのは見た事もない景色だった。

 幾つもの大きな建物と色とりどりの光、騒がしい音。そしてルースのいる場所より遥か眼下に、多くの人達が行き来していた。

 太陽と同じ様に真っ黒な髪をした男女が、見た事もない服装で沢山行き来していた。

 ここがセーヤの住んでいる世界。

 ビルの屋上から地上を見下ろしながら、ルースは1人知らない世界に息を呑んだ。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

社畜だけど異世界では推し騎士の伴侶になってます⁈

めがねあざらし
BL
気がつくと、そこはゲーム『クレセント・ナイツ』の世界だった。 しかも俺は、推しキャラ・レイ=エヴァンスの“伴侶”になっていて……⁈ 記憶喪失の俺に課されたのは、彼と共に“世界を救う鍵”として戦う使命。 しかし、レイとの誓いに隠された真実や、迫りくる敵の陰謀が俺たちを追い詰める――。 異世界で見つけた愛〜推し騎士との奇跡の絆! 推しとの距離が近すぎる、命懸けの異世界ラブファンタジー、ここに開幕!

異世界で8歳児になった僕は半獣さん達と仲良くスローライフを目ざします

み馬
BL
志望校に合格した春、桜の樹の下で意識を失った主人公・斗馬 亮介(とうま りょうすけ)は、気がついたとき、異世界で8歳児の姿にもどっていた。 わけもわからず放心していると、いきなり巨大な黒蛇に襲われるが、水の精霊〈ミュオン・リヒテル・リノアース〉と、半獣属の大熊〈ハイロ〉があらわれて……!? これは、異世界へ転移した8歳児が、しゃべる動物たちとスローライフ?を目ざす、ファンタジーBLです。 おとなサイド(半獣×精霊)のカプありにつき、R15にしておきました。 ※ 独自設定、造語、出産描写あり。幕開け(前置き)長め。第21話に登場人物紹介を載せましたので、ご参考ください。 ★お試し読みは、第1部(第22〜27話あたり)がオススメです。物語の傾向がわかりやすいかと思います★ ★第11回BL小説大賞エントリー作品★最終結果2773作品中/414位★応援ありがとうございました★

転生したいらない子は異世界お兄さんたちに守護られ中! 薔薇と雄鹿と宝石と

夕張さばみそ
BL
旧題:薔薇と雄鹿と宝石と。~転生先で人外さんに愛され過ぎてクッキーが美味しいです~ 目が覚めると森の中にいた少年・雪夜は、わけもわからないままゴロツキに絡まれているところを美貌の公爵・ローゼンに助けられる。 転生した先は 華族、樹族、鉱族の人外たちが支配する『ニンゲン』がいない世界。 たまに現れる『ニンゲン』は珍味・力を増す霊薬・美の妙薬として人外たちに食べられてしまうのだという。 折角転生したというのに大ピンチ! でも、そんなことはつゆしらず、自分を助けてくれた華族のローゼンに懐く雪夜。 初めは冷たい態度をとっていたローゼンだが、そんな雪夜に心を開くようになり――。 優しい世界は最高なのでクッキーを食べます!  溺愛される雪夜の前には樹族、鉱族の青年たちも現れて…… ……という、ニンゲンの子供が人外おにいさん達と出逢い、大人編でLOVEになりますが、幼少期はお兄さん達に育てられる健全ホノボノ異世界ライフな感じです。(※大人編は性描写を含みます) ※主人公の幼児に辛い過去があったり、モブが八つ裂きにされたりする描写がありますが、基本的にハピエン前提の異世界ハッピー溺愛ハーレムものです。 ※大人編では残酷描写、鬱展開、性描写(3P)等が入ります。 ※書籍化決定しました~!(涙)ありがとうございます!(涙) アルファポリス様からタイトルが 『転生したいらない子は異世界お兄さんたちに守護られ中!(副題・薔薇と雄鹿と宝石と)』で 発売中です! イラストレーター様は一為先生です(涙)ありがたや……(涙) なお出版契約に基づき、子供編は来月の刊行日前に非公開となります。 大人編(2部)は盛大なネタバレを含む為、2月20日(火)に非公開となります。申し訳ありません……(シワシワ顔) ※大人編公開につきましては、現在書籍化したばかりで、大人編という最大のネタバレ部分が 公開中なのは宜しくないのではという話で、一時的に非公開にさせて頂いております(申し訳ありません) まだ今後がどうなるか未確定で、私からは詳細を申し上げれる状態ではありませんが、 続報がわかり次第、近況ボードやX(https://twitter.com/mohikanhyatthaa)の方で 直ぐに告知させていただきたいと思っております……! 結末も! 大人の雪夜も! いっぱいたくさん! 見てもらいたいのでッッ!!(涙)

【完結】もふもふ獣人転生

  *  
BL
白い耳としっぽのもふもふ獣人に生まれ、強制労働で死にそうなところを助けてくれたのは、最愛の推しでした。 ちっちゃなもふもふ獣人と、攻略対象の凛々しい少年の、両片思い? な、いちゃらぶもふもふなお話です。 本編完結しました! おまけをちょこちょこ更新しています。 第12回BL大賞、奨励賞をいただきました、読んでくださった方、応援してくださった方、投票してくださった方のおかげです、ほんとうにありがとうございました!

完結·助けた犬は騎士団長でした

BL
母を亡くしたクレムは王都を見下ろす丘の森に一人で暮らしていた。 ある日、森の中で傷を負った犬を見つけて介抱する。犬との生活は穏やかで温かく、クレムの孤独を癒していった。 しかし、犬は突然いなくなり、ふたたび孤独な日々に寂しさを覚えていると、城から迎えが現れた。 強引に連れて行かれた王城でクレムの出生の秘密が明かされ…… ※完結まで毎日投稿します

余命僅かの悪役令息に転生したけど、攻略対象者達が何やら離してくれない

上総啓
BL
ある日トラックに轢かれて死んだ成瀬は、前世のめり込んでいたBLゲームの悪役令息フェリアルに転生した。 フェリアルはゲーム内の悪役として15歳で断罪される運命。 前世で周囲からの愛情に恵まれなかった成瀬は、今世でも誰にも愛されない事実に絶望し、転生直後にゲーム通りの人生を受け入れようと諦観する。 声すら発さず、家族に対しても無反応を貫き人形のように接するフェリアル。そんなフェリアルに周囲の過保護と溺愛は予想外に増していき、いつの間にかゲームのシナリオとズレた展開が巻き起こっていく。 気付けば兄達は勿論、妖艶な魔塔主や最恐の暗殺者、次期大公に皇太子…ゲームの攻略対象者達がフェリアルに執着するようになり…――? 周囲の愛に疎い悪役令息の無自覚総愛されライフ。 ※最終的に固定カプ

魔界最強に転生した社畜は、イケメン王子に奪い合われることになりました

タタミ
BL
ブラック企業に務める社畜・佐藤流嘉。 クリスマスも残業確定の非リア人生は、トラックの激突により突然終了する。 死後目覚めると、目の前で見目麗しい天使が微笑んでいた。 「ここは天国ではなく魔界です」 天使に会えたと喜んだのもつかの間、そこは天国などではなく魔法が当たり前にある世界・魔界だと知らされる。そして流嘉は、魔界に君臨する最強の支配者『至上様』に転生していたのだった。 「至上様、私に接吻を」 「あっ。ああ、接吻か……って、接吻!?なんだそれ、まさかキスですか!?」 何が起こっているのかわからないうちに、流嘉の前に現れたのは美しい4人の王子。この4王子にキスをして、結婚相手を選ばなければならないと言われて──!?

【書籍化確定、完結】私だけが知らない

綾雅(要らない悪役令嬢1/7発売)
ファンタジー
書籍化確定です。詳細はしばらくお待ちください(o´-ω-)o)ペコッ 目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。 優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。 やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。 記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。 【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2024/12/26……書籍化確定、公表 2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位 2023/12/19……番外編完結 2023/12/11……本編完結(番外編、12/12) 2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位 2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」 2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位 2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位 2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位 2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位 2023/08/14……連載開始

処理中です...