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最終章 運命を創る者
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妖精王がアキエスと壇上に立っている時にその気配はした。
最近まで魔王として身体の中に閉じ込めていたあの莫大な瘴気。その片鱗を遠くから感じた。
それは元王族の城の中。今まさしく金の者がいるであろう辺りに。
考えている余裕は無かった。側のアキエスに「後は任せた」と言い放ち、妖精王は小さな半透明の妖精に姿を変え一気に城に向かって飛んで行った。
後に残された群衆達が、突然の妖精王の変身にどよめいている。それをアキエスが動揺しつつも、何とか場を落ち着かせ話を続けたのだった。
妖精王が城の壁をすり抜け、瘴気の元へ辿り着いた時。死人と化した大男に、金の者が襲われる瞬間だった。
金の者の両手から金の光が迸り、側で庇う様に割り込もうとしたルースが緑と黄の聖気で相手を浄化していた。
だが一歩相手が早く。大男が金の者に口付けし大量の瘴気を流し込んだのが分かった。
このままでは、金の力を具現化している王女は助かっても、その器のセーヤという少年は瘴気に侵され廃人になってしまう。
金の者に触れ妖精王の聖気を流し込もうとした時に彼女の声が聞こえてきた。
『一緒に…いれなくて…ごめんない』
それが彼女の願い。
瞬時に王女の願いを悟った妖精王は、聖気で瘴気を祓うと同時に、彼を安全な場所へ逃したー。
◇◇◇
城内を金と白の光が埋め尽くした。
徐々に光の奔流が落ち着いた頃、廊下の上には薄汚れた土が散乱しているだけだった。
ラドの姿も太陽の姿も無かった。
「セーヤ?セーヤは?」
ルースが半狂乱で辺りを見回すがその姿は無い。空や悪男も駆け寄ってくる。
ラリエスとキャスはいまだダメージが回復していなくて、床に座り込んだままだ。
「アレは安全な場所へ逃した」
それまで小さな妖精姿だった妖精王が、いつもの人の姿に戻りルースへ呟いた。
妖精王の両手の平は、何か大事な物を持つ様に合わせ広げられていた。
そこには力無く横たわる妖精姿の王女がいた。
「一体なにが…?」
「王女が望んだのだ。あの死人に吹き込まれた瘴気を全て自分が引き受けるからセーヤを助けたいと」
「それじゃセーヤは…」
「我が元の世界へ帰した」
「元の…世界」
あと数時間で伴侶になる筈だった恋人を失い、ルースはショックのあまりよろけた。それを空が支え、目線は王女に注がれる。
「王女は…どうなる?」
「ほとんど金の力を使い果たした。肉体も無い今、長くもたん」
無表情に手の平の王女を見つめる妖精王の頬を涙が伝った。
これから先、彼女と過ごす筈だった未来は今。手の平で消えようとしているのだ。
「妖精王。僕もセーヤと同じ世界に飛ばし欲しい」
ルースの言葉に妖精王が目線を上げる。その瞳は悲しみで濡れていた。だが、今はルースも構っていられなかった。
「僕はもう彼と離れて暮らせない。彼の世界へ行きたい」
もう太陽と離れる位なら死んだ方がマシだ。何故だか強くそう思った。記憶は無いが、これまでの2人で過ごした時間がルースを駆り立てる。
「出来るが数年の誤差は出るかも知れぬぞ?」
「それでもいい。セーヤの元へ行きたい!」
愛している者の元へ迷いなく向かえる勇気。
既に何百年とこの世界を守る為に生きてきた妖精王には、到底持てない物だった。
それが羨ましい。
「そなたは…強いな。我は愛しい者が死にかけているというのに、どうする事も出来ぬ」
動かない王女を見つめる妖精王の瞳から溢れた涙が、王女に流れ落ちた。それを受けても彼女はピクリともしなかった。もう意識も無いのかもしれない。
「もし僕が…セーヤを連れて帰って来れたら…王女は助かるの?またセーヤの意識は無くなる?」
妖精王はゆっくり首を振った。
「もうコレは相当弱っている。あの者を支配する力は無い。あの者の一部になるだけであろう。ただ…」
「ただ?」
「もし、王女があの者の一部となったら……」
続いた妖精王の言葉にルースは息を呑んだ。予想外の言葉を彼が紡いだからだ。
空と悪男も微妙な表情を浮かべた。
「それでも連れて来るというのか?」
「それは…」
グッとルースは唇を噛み顔を伏せた。だが迷ったのは一瞬だった。
「それはセーヤの意志に任せる」
「……そうか」
ルースの答えを聞いて、妖精王は手の平に聖気を送り込んだ。金色の妖精が少しずつ氷に覆われていく。
完全な氷に閉じ込められた時、小さな王女の時間は止まった。
最近まで魔王として身体の中に閉じ込めていたあの莫大な瘴気。その片鱗を遠くから感じた。
それは元王族の城の中。今まさしく金の者がいるであろう辺りに。
考えている余裕は無かった。側のアキエスに「後は任せた」と言い放ち、妖精王は小さな半透明の妖精に姿を変え一気に城に向かって飛んで行った。
後に残された群衆達が、突然の妖精王の変身にどよめいている。それをアキエスが動揺しつつも、何とか場を落ち着かせ話を続けたのだった。
妖精王が城の壁をすり抜け、瘴気の元へ辿り着いた時。死人と化した大男に、金の者が襲われる瞬間だった。
金の者の両手から金の光が迸り、側で庇う様に割り込もうとしたルースが緑と黄の聖気で相手を浄化していた。
だが一歩相手が早く。大男が金の者に口付けし大量の瘴気を流し込んだのが分かった。
このままでは、金の力を具現化している王女は助かっても、その器のセーヤという少年は瘴気に侵され廃人になってしまう。
金の者に触れ妖精王の聖気を流し込もうとした時に彼女の声が聞こえてきた。
『一緒に…いれなくて…ごめんない』
それが彼女の願い。
瞬時に王女の願いを悟った妖精王は、聖気で瘴気を祓うと同時に、彼を安全な場所へ逃したー。
◇◇◇
城内を金と白の光が埋め尽くした。
徐々に光の奔流が落ち着いた頃、廊下の上には薄汚れた土が散乱しているだけだった。
ラドの姿も太陽の姿も無かった。
「セーヤ?セーヤは?」
ルースが半狂乱で辺りを見回すがその姿は無い。空や悪男も駆け寄ってくる。
ラリエスとキャスはいまだダメージが回復していなくて、床に座り込んだままだ。
「アレは安全な場所へ逃した」
それまで小さな妖精姿だった妖精王が、いつもの人の姿に戻りルースへ呟いた。
妖精王の両手の平は、何か大事な物を持つ様に合わせ広げられていた。
そこには力無く横たわる妖精姿の王女がいた。
「一体なにが…?」
「王女が望んだのだ。あの死人に吹き込まれた瘴気を全て自分が引き受けるからセーヤを助けたいと」
「それじゃセーヤは…」
「我が元の世界へ帰した」
「元の…世界」
あと数時間で伴侶になる筈だった恋人を失い、ルースはショックのあまりよろけた。それを空が支え、目線は王女に注がれる。
「王女は…どうなる?」
「ほとんど金の力を使い果たした。肉体も無い今、長くもたん」
無表情に手の平の王女を見つめる妖精王の頬を涙が伝った。
これから先、彼女と過ごす筈だった未来は今。手の平で消えようとしているのだ。
「妖精王。僕もセーヤと同じ世界に飛ばし欲しい」
ルースの言葉に妖精王が目線を上げる。その瞳は悲しみで濡れていた。だが、今はルースも構っていられなかった。
「僕はもう彼と離れて暮らせない。彼の世界へ行きたい」
もう太陽と離れる位なら死んだ方がマシだ。何故だか強くそう思った。記憶は無いが、これまでの2人で過ごした時間がルースを駆り立てる。
「出来るが数年の誤差は出るかも知れぬぞ?」
「それでもいい。セーヤの元へ行きたい!」
愛している者の元へ迷いなく向かえる勇気。
既に何百年とこの世界を守る為に生きてきた妖精王には、到底持てない物だった。
それが羨ましい。
「そなたは…強いな。我は愛しい者が死にかけているというのに、どうする事も出来ぬ」
動かない王女を見つめる妖精王の瞳から溢れた涙が、王女に流れ落ちた。それを受けても彼女はピクリともしなかった。もう意識も無いのかもしれない。
「もし僕が…セーヤを連れて帰って来れたら…王女は助かるの?またセーヤの意識は無くなる?」
妖精王はゆっくり首を振った。
「もうコレは相当弱っている。あの者を支配する力は無い。あの者の一部になるだけであろう。ただ…」
「ただ?」
「もし、王女があの者の一部となったら……」
続いた妖精王の言葉にルースは息を呑んだ。予想外の言葉を彼が紡いだからだ。
空と悪男も微妙な表情を浮かべた。
「それでも連れて来るというのか?」
「それは…」
グッとルースは唇を噛み顔を伏せた。だが迷ったのは一瞬だった。
「それはセーヤの意志に任せる」
「……そうか」
ルースの答えを聞いて、妖精王は手の平に聖気を送り込んだ。金色の妖精が少しずつ氷に覆われていく。
完全な氷に閉じ込められた時、小さな王女の時間は止まった。
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