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第六章 運命を壊す者
21 最終話
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ラド!
前に襲われた光景が蘇り、身体がすくむ。
その隙にラドが太陽の両肩を掴んだ。その手は恐ろしく固く冷たかった。まるで死んでる人間の様なー。
身体が強張ったまま、太陽の手の平から金の光が迸る。指輪を浄化しようと込めた力だ。
その光に当たった瞬間、ラドの身体の表面がボロボロと朽ちていく。生きている人間なら有り得ない現象に、まさか、と思い至る。
『お前も…一緒に…』
「セーヤ!」
太陽の金の光と、助けに来たルースが込めた緑と黄の聖気によって、ラドの身体が徐々に崩れ朽ちていく。
だが完全に崩れる前にー。
『逝こうぜ』
ラドの口が、太陽の口を塞いだ。
◇◇◇
ラドの口を通して、莫大な瘴気が入り込んで来た。
一瞬で正気が無くなる程の激痛と吐き気と高熱と。数えきれない苦痛が太陽の身体の中で暴れ回った。
金の力で浄化しようにも苦痛に翻弄され、意識が遠のき始める。
その時、どこか遠くから声が聞こえてきた。
『ここは私に任せてー』
誰の声か分からないが懐かしい声だった。
誰?
『一緒に…いれなくて…ごめんない』
その言葉は、太陽でない別の誰かに向けられているようだった。
眩しい金の光が辺りに輝いた。
そしてそれとは別で、白く冷たい光が太陽を守る様に包み込んだ。
意識が薄れて、力が抜けていく。それでも手は強く強く握りしめたまま、太陽は意識を手放したー。
◇◇◇
ミンミン ミンミン
頭が痛くなる様な蝉の大合唱に、少しずつ意識が浮上する。
ぼんやりと目を開いた太陽の目に飛び込んで来たのは、かつてよく見慣れた景色だった。
「ここ…図書館?」
正確には図書館の近くにあるベンチだった。
ベンチでうたた寝でもしていたかの様に、太陽はベンチに横たわっていた。
「何で…」
まさか夢?
どっちが?
ベンチの後ろには大きな木が聳え立っていた。そこから飛び出た手に掴まれて、太陽は異世界へ連れて行かれた筈なのに。
コロン、と太陽の手から落ちた物がベンチに跳ねて芝生に落ちた。まだ夢見心地で落ちた物を拾う為、ベンチの下にしゃがみ込む。
手に取ったそれは緑色の指輪だった。
信じられない気持ちで自分の左手を見る。そこにも緑のリングが嵌っていた。
「あ…」
ぼんやりしていた意識がハッキリしてくる。まさか、そんなという気持ちで周囲を見回す。
通いなれた図書館とその敷地にある憩いの場で間違い無かった。肌にまとわりつく暑さは元の世界で過ごした夏そのものだ。
己の服を見れば、ピラピラした服にズボンで、ルース達と一瞬にいた時の服で間違い無い。
「ルースさん、空、悪男…」
何故自分だけここにいるの?
ベンチの向こうの木を触ってみても固い感触で中に入る事も出来なければ、聖気も感じない。
ただ一つわかった事は。
あの世界から自分は元の世界へ戻されたという事だったー。
◇◇◇
女神の歪んだ愛で育まれた『女神の箱庭』は。
勇者により狂い始め。
魔王によって力を奪われた。
最後に壊したのは。
世界を渡り、時を超え、戻りし聖女。
新しい幕開けに世界が喜びで包まれた時。
箱庭を奪われ恨みを募らせた女神の。
最後の罠が放たれた。
第六章 運命を壊す者 完。
ーーー
次回、最終章です。
来月中旬に公開予定です。
★お知らせ★
脇役で登場している女騎士キャスと勇者ラリエスの物語を公開しました。
2人が出会い、それをキッカケにラリエスが世界を見捨てる選択をするまでのお話です。
何となくラリエスがどういう人物か書いてみたくなっただけなので、読まなくても影響はありません(笑)
タイトルは『壊したい女神の箱庭ーただの真面目な女冒険者ですが、何故か勇者に溺愛されましたー』です。
ここまでお読み頂き、本当にありがとうございました。
前に襲われた光景が蘇り、身体がすくむ。
その隙にラドが太陽の両肩を掴んだ。その手は恐ろしく固く冷たかった。まるで死んでる人間の様なー。
身体が強張ったまま、太陽の手の平から金の光が迸る。指輪を浄化しようと込めた力だ。
その光に当たった瞬間、ラドの身体の表面がボロボロと朽ちていく。生きている人間なら有り得ない現象に、まさか、と思い至る。
『お前も…一緒に…』
「セーヤ!」
太陽の金の光と、助けに来たルースが込めた緑と黄の聖気によって、ラドの身体が徐々に崩れ朽ちていく。
だが完全に崩れる前にー。
『逝こうぜ』
ラドの口が、太陽の口を塞いだ。
◇◇◇
ラドの口を通して、莫大な瘴気が入り込んで来た。
一瞬で正気が無くなる程の激痛と吐き気と高熱と。数えきれない苦痛が太陽の身体の中で暴れ回った。
金の力で浄化しようにも苦痛に翻弄され、意識が遠のき始める。
その時、どこか遠くから声が聞こえてきた。
『ここは私に任せてー』
誰の声か分からないが懐かしい声だった。
誰?
『一緒に…いれなくて…ごめんない』
その言葉は、太陽でない別の誰かに向けられているようだった。
眩しい金の光が辺りに輝いた。
そしてそれとは別で、白く冷たい光が太陽を守る様に包み込んだ。
意識が薄れて、力が抜けていく。それでも手は強く強く握りしめたまま、太陽は意識を手放したー。
◇◇◇
ミンミン ミンミン
頭が痛くなる様な蝉の大合唱に、少しずつ意識が浮上する。
ぼんやりと目を開いた太陽の目に飛び込んで来たのは、かつてよく見慣れた景色だった。
「ここ…図書館?」
正確には図書館の近くにあるベンチだった。
ベンチでうたた寝でもしていたかの様に、太陽はベンチに横たわっていた。
「何で…」
まさか夢?
どっちが?
ベンチの後ろには大きな木が聳え立っていた。そこから飛び出た手に掴まれて、太陽は異世界へ連れて行かれた筈なのに。
コロン、と太陽の手から落ちた物がベンチに跳ねて芝生に落ちた。まだ夢見心地で落ちた物を拾う為、ベンチの下にしゃがみ込む。
手に取ったそれは緑色の指輪だった。
信じられない気持ちで自分の左手を見る。そこにも緑のリングが嵌っていた。
「あ…」
ぼんやりしていた意識がハッキリしてくる。まさか、そんなという気持ちで周囲を見回す。
通いなれた図書館とその敷地にある憩いの場で間違い無かった。肌にまとわりつく暑さは元の世界で過ごした夏そのものだ。
己の服を見れば、ピラピラした服にズボンで、ルース達と一瞬にいた時の服で間違い無い。
「ルースさん、空、悪男…」
何故自分だけここにいるの?
ベンチの向こうの木を触ってみても固い感触で中に入る事も出来なければ、聖気も感じない。
ただ一つわかった事は。
あの世界から自分は元の世界へ戻されたという事だったー。
◇◇◇
女神の歪んだ愛で育まれた『女神の箱庭』は。
勇者により狂い始め。
魔王によって力を奪われた。
最後に壊したのは。
世界を渡り、時を超え、戻りし聖女。
新しい幕開けに世界が喜びで包まれた時。
箱庭を奪われ恨みを募らせた女神の。
最後の罠が放たれた。
第六章 運命を壊す者 完。
ーーー
次回、最終章です。
来月中旬に公開予定です。
★お知らせ★
脇役で登場している女騎士キャスと勇者ラリエスの物語を公開しました。
2人が出会い、それをキッカケにラリエスが世界を見捨てる選択をするまでのお話です。
何となくラリエスがどういう人物か書いてみたくなっただけなので、読まなくても影響はありません(笑)
タイトルは『壊したい女神の箱庭ーただの真面目な女冒険者ですが、何故か勇者に溺愛されましたー』です。
ここまでお読み頂き、本当にありがとうございました。
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